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獣はヒトの夢を見る  作者:
倫子
17/53

三日目・朝

美沙、倫子、要、満、慎一郎、純、政孝→杏子

杏子、匠、洋子、結、大悟、靖→倫子


昨夜の投票は、本当に際どい結果だった。

倫子を疑う人の数が、半数近く居る。その事実は、倫子にしっかりしなければと思わせた。

この中に人狼があと何人居るのか分からないが、それ以外の人達は、本来なら自分の味方になるべき人達なのだ。

もう、絶対に疑わしい行動はしないでおこう。

倫子は、心に硬く誓った。

時間通りにソファへと座り、昨日の投票結果を囲んで皆が皆押し黙った。話す気になれない…だが、話さなければ今夜を乗り越えることが出来ない。

じっと黙っている要を横に、政孝が口を開いた。

「占い師の議論は後にして、先に霊能結果を聞こう。満?」

満は、むっつりと言った。

「…白。杏子さんは、背徳者であれなんであれ、白だった。」

「洋子ちゃん?」

政孝が促すと、洋子は気力を奮い立たせるように顔を上げて、言った。

「黒です。杏子さんは、人狼だった。」

政孝は、頷いた。

「そうなるだろうな。これでとにかくは、霊能結果だけを見るところによると、人外は一人は始末出来たことになる。それが京介であれ、杏子ちゃんであれ。残り5縄で、最悪でも3人外吊ればいいってことだ。」

皆が、バラバラに頷いた。政孝は、大儀そうに続けた。

「それで、狐の議論なんだが…」と、慎一郎を見た。「慎一郎を信じるのなら、確かに状況的に杏子ちゃんと結が繋がっていて狐と背徳者だったということになるが、呪殺の状態がどんな風なのか、人狼の襲撃がどんな風なのか分からない限り、これを手放しで信じられない。そもそも襲撃と呪殺は同じかもしれないし。」

要が、不意に顔を上げた。

「でもあれ…刃物で切られてたよね。」と、今にも立ち上がりそうな雰囲気で中腰になって言った。「人狼の襲撃なんだったら、みんなの部屋を調べたら分かるんじゃないか?!刃物が出て来るはずじゃないか!」

政孝は、息をついた。

「確かにそうかもしれないが、狼がそんなものを普通に置いてるとは思わない。それにオレ達をこんな場所へ連れて来た奴らが、そんなことで人狼を特定できるようにするとは思えない。」

要は、それでも立ち上がった。

「見てみないと分からないじゃないか。オレは、調べてみたい。」

政孝は、はーっと息をついた。

「分かった。後でみんな一緒に部屋を回ろう。そうしたら、変な小細工も出来ない。とにかく今は、今日の吊りだ。慎一郎に黒が出てるが…。」

大悟が、そこで口を挟んだ。

「だが、匠と慎一郎がやり合ってたのはみんな見ているし、本当かどうかは五分五分ってところだろう。」

満が、頷いた。

「そう。慎一郎も言っていたが、誰もが分かっていたことだ。それより気になってるんだが、最初の夜に誰も死ななかったのは、護衛成功なのか?それとも、狐噛みか?」

大悟は、首を傾げた。

「それは、狩人と人狼にしか分からないだろうな。いや、人狼にも分かってないかもしれない。人狼にしたら、噛んだが死ななかったんだ。狩人は、ただ守った。人狼が誰を噛んで、狩人が誰を守ったのか公開しない限り、分からないんだ。ただ、人狼は狐の可能性を考えて、そいつは吊りたいと思うだろう。狩人は役職を守っていたなら、その相手が本物の可能性が高いと考えるだろう。それぐらいかな。」

満は、小さくため息をついた。

「そうか…じゃあ誰にも分かってないってことだな。」

大悟は、頷いた。

「確かなことはな。」

慎一郎が、顔を上げた。

「政孝、思ったんだが、吊縄はまだ足りるんだな?」

政孝は、慎一郎を見た。

「今のところ、分かってる範囲では最低でも2縄は余裕がある。」

慎一郎は、頷いた。

「じゃあ、今夜オレを吊っていい。」みんなが、ぎょっとした顔をした。慎一郎は冷静に続けた。「明日、オレは白と出る。狂人が居ても確黒とは出ない。真霊能者が必ず白を出すのをオレは知っている。仮に今日みたいにどっちかがオレに黒を出して確定しなかったとしても、その時点で2黒見つけている霊能者は用済みだから吊ってしまえばいいんだ。そして匠が偽だと分かる。こいつを吊ればいいんだ。あと一人は自力で見つけることにはなるが、その時点でかなり人数は減っているだろうから、今より情報も出ていて見つけやすいだろう。」

匠は、じっと黙っている。政孝は、じっと慎一郎の目を見返していたが、首を振った。

「…いや、お前は吊らない。確かに、狂人だと思われている洋子ちゃんは、今のを聞いたら自分も吊られるとわかっているから明日お前を黒だとは言えないだろう。だから確白になる可能性は高い。そんなことを言って狂人を脅して来る所を見ても、お前は白い。」と、要を見た。「要、どう思う?」

要も、険しい顔で匠を見た。

「いくら縄があっても、限りなく白い人を吊ってる縄はない。吊るとしても、最後でいいと思う。今は、むしろ匠さんかな。」

匠は、要を睨んだ。

「…オレを吊るってか。お前達は、慎一郎が真占い師だと思ってるんだろう。オレは、絶対に結は呪殺じゃないと思うぞ。こいつが呪殺と思わせるために、自分で噛んだんだと思う。狐が残ってる可能性があるんだ。」

大悟が、肩で息をついた。

「…飼っとくのもいいがな。役職外で人狼を探して先にそっちを吊る。吊れたら匠を吊るって手もある。もしかしたらその間に匠の真目が出て来るかもしれないし、その時は慎一郎を吊ったらいいんだ。あと5縄なら2縄残して3縄をもう1人狼吊るのに使うのもいいぞ。」

満は、慌てて割り込んだ。

「だから慎一郎が偽だったら、狐がまだ居る可能性があるんだ。そんなに余裕はないぞ。」

大悟は、満を見た。

「慎一郎が匠の言うように黒だったら、狐が居ないって嘘はつかないだろうが。吊ってもらわないといけないからな。」

倫子は、ずっと会話を聞いていて、違和感を感じた。みんながみんな間違ったことは言っていないように思うのに、どこかおかしい気がする。いったい何がおかしいのだろう…。

倫子は、ふと思った。

「あの…」みんなの視線が、一気に倫子に向く。倫子は少したじろいたが、それでもすぐにぐっと顔を引き締めて言った。「慎一郎さんと匠さんは、ずっと対立してましたよね。みんなが思うようにどっちかが人狼なら、特に匠さんが人狼なら、どうして夜、襲撃しないんですか?結さんが呪殺だったら別だけど、襲撃だったら匠さんが結さんと慎一郎さんのどちらか選ぶとして、結さんを選ぶとは思えない。」

それを聞いた要と政孝が、あ、という顔をした。

満が言った。

「確かにな…匠が狼だったら、間違いなく真っ先に慎一郎を狙うだろう。誰を噛めばいいとかそんなことは後回しで、私怨でってことだが。」

倫子は、頷いた。

「そもそも襲撃だったとしたら、襲撃先が不自然なんです。占い師の中に人狼陣営側が居るのは間違いないと思うのですけど、誰かを噛んでしまったら、自ずと人外が絞られて来るでしょう。本当なら白出しされている村人か、共有者を噛み先にするはず。狩人だって、そっちの方を守っていた気がするんです。」

大悟が、力強く頷いた。

「それが普通の考え方だな。もしオレだったら共有者のどちらかを守っていたと思う。」

要が、やり取りをじっと聞いてから、言った。

「じゃあ、共有者で護衛成功して結さんを呪殺ってこと?」

倫子は、それには首を傾げた。

「それは…分からないけど。ただ、匠さんには慎一郎さんを殺せない、というのは分かったかな、と。」

「じゃあ黒はどこだ?」政孝が珍しく焦り気味に言った。「占い師に狼は居ないのか。匠はなんだ、狂人か?じゃあ霊能に狼が?」

洋子が、ギクッとした顔をした。霊能ローラーが来る…?

「もう一つ可能性がある。」要が、言った。「匠さんが狼で、慎一郎さんが狐だと思っている場合だ。」

満が、手を打った。

「そうか!狼は初日慎一郎を噛んで、襲撃に失敗した!あの時は状況的に狩人は共有者の要を守ってるはずだった。慎一郎が生きてたことで、狼は慎一郎を狐だと知ったんだ!だがそれを言うと狼だとバレる。だから黒出しして吊らせようとしてるんだ!」

「盛り上がってるところ悪いが」政孝が、厳しい顔で割り込んだ。「慎一郎は今日自分を吊れと言った。狐は一匹だ。自分が死ねば終わるだろう。昨日の占い先指定の時も、その考え方なら真占い師は結だったとなるが、慎一郎は他の2人に比べても、特に誰に占われても構わない風情だった。狐なら少しは抵抗する。結みたいにな。」

堂々巡りだ。

倫子は、頭を抱えた。わからない。相手陣営の考えが分からない。せめて狩人がどこを守っていたのか分かったらいいのだが、狩人が出たら噛まれてしまう。聞くことも出来ない…。

ずっと黙っていた、美沙が静かに言った。

「…今はこれ以上無理よ。少し考えをまとめて来ましょう。それに役職騙りの方にばかり話が行っているけど、グレーの中に人外が確実に一人は居ると私は思ってるわ。そっちの方にも考えを向けて見ておかなければ。狩人のことは…きっとまだ生きていると思うけど、それなら共有者に護衛先だけでも知らせてもらえないかしら。そうしたら、少しは話が進むはず。」

政孝が、美沙を見て首を振った。

「そんなことをしたら、人狼に見られて噛まれてしまうだろう。」

美沙は、同じように首を振った。

「何のためにこれがあるの?」と、腕輪を上げた。「人狼だってこれを使っていいようにしているのよ。私達だって利用して何がいけないの?部屋へ籠ってから誰と話していても誰にも分からないわ。私はこれからしばらく、部屋へ帰ることを提案します。それで、腕輪で話すなり、何か食べるなりすればいいのよ。その中に狩人から共有者への通話があったって、誰にも分からない。そもそも部屋の防音は完璧でしょう。」

政孝は、じっと腕輪に視線を落とす。すると、大悟が言った。

「それで行こう。美沙さんの意見に賛成だ。じゃあ、次は昼を過ぎてから、ここへ集まることにしよう。」と、政孝の背を押した。「さ、一度解散だ。」

政孝は顔を上げて頷くと、要を見た。要も疲れた顔をしていたが、手を軽く振って頷いて見せた。

そうして、全員が手に手に食べ物を持って、自分部屋へと引き上げて行ったのだった。


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