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獣はヒトの夢を見る  作者:
倫子
10/53

夜のターン

その日、9時には部屋へ戻らなければならないが、誰も部屋へ帰りたがらなかった。

夜のターンが、残っていたからだ。

追放のことは目の前で見て分かったが、夜の襲撃のことはまだ知らされていなかった。

食欲がないという皆と違って、倫子は何も食べていなかったので空腹に耐えきれず、一人キッチンへ行って食べ物を探して来た。冷蔵庫にはたくさんの食物が入っていて、戸棚にもパンやお菓子などとても食べきれない量がストックされてある。

ホッと安心しながら、電子レンジで冷凍のパスタを解凍し、勢いよくかき込んだ。


やっとひと心地ついて、ペットボトルのお茶を手にソファのある居間へと戻って来ると、皆が真剣な表情で要の書いたメモを覗き込んでいた。

「えーっと…何か、わかった?」

倫子が声を掛けると、要が顔を上げた。

「投票先のことだけどね。」と、メモを指した。「京介さんに入れなかった人の意見を聞いてたんだ。あの時明らかに京介さんは自分だけ生き残りたい感じだったし、怪しかっただろう。だから京介さんは最多得票になるべくしてなったって感じで、オレも予想は出来たんだけど、他の人に入れた人たちは、どんな考え方で入れたんだろうってさ。」

倫子は、メモに視線を落とした。


美沙、倫子、要、慎一郎、大悟、純、政孝→京介

匠、結→満

京介、杏子、洋子、満、靖→大悟


杏子が、もはやしっかりとした眼差しで倫子を見た。

「私は、京介さんの乱れっぷりは逆に村人っぽかったと思ったの。だから、黙って落ち着いていた大悟さんに入れた。」

結が、その隣りで言った。

「私は、白く見せようと思ってわざと覚悟しているような発言をしたのかと思って、満に。」

匠がそれに、頷いて見せた。

「ああ、オレも同じ意見だ。誰だっていきなり訳の分からない事になりそうだったら、混乱してああなるだろう。やけに落ち着いてるな、と思ってね。」

満が、言った。

「まあどうとらえてくれてもいいが、あれは本心だったよ。オレはあんな状態でも黙って目立たないようにしているように感じて、大悟に入れた。」

靖は、皆の視線に晒されて、少し緊張気味に言った。

「オレも…大悟さんとは隣りだけどずっと黙ってるし、狐かなって思って。」

最後に洋子が、下を向いたまま言った。

「私は分からなくて…投票しなきゃと慌ててて。大悟さんに、入れてしまったけど、混乱していたからあまり理由はありません。」

そうなんだ…。

倫子は、自分だけ置いて行かれているような気がしながら、それを聞いた。みんな結構冷静に考えている。洋子と自分は友達なので、感じ方も似ているのは知っていた。きっと同じような感じなのだろう。

なので、言った。

「最初の投票だし、私も混乱して、結局怪しいって直感で入れてしまって…。でも、明日結果が分かるんでしょう?」

それには、政孝が相変わらず落ち着いた声で答えた。

「霊能者が生き延びればね。だけど狩人が守れるのは一人だから、今日は占いから一人か共有の要かを守ってもらわないといけないだろう。今出すわけにはいかないんだ。つまりは、運次第かな。」

要が、じっとメモを見つめて険しい顔をして、言った。

「みんな…分かってるかどうかわからないけど、結構大変なんだよ。この村には14人居た。吊縄は6。でも必ず吊る必要がある人外は4居るんだ。さっき一つ使ってしまったから、あと5の吊縄で、最悪4人外を吊らなきゃならない。占い師の呪殺か、狩人の護衛成功でラッキーが無い限りね。」

結が、一気に顔色を変えた。

「ええ?!そんなに…厳しいの?つまりは、占い師は狐か狼を必ず見つけないとってこと?」

要はまだ幼い顔を更に険しくして、こっくりと頷いた。

「そうなんだ。京介さんが狐か狼だったら、ちょっと気が楽なんだけどな…明日、霊能者に聞くまで安心出来ないよ。」

そんなに先のことまでしっかり考えていたんだ。

倫子は、要が同じ陣営で良かったとつくづく思った。ただ闇雲に人狼らしき人吊って、狐を占ってと進めば、そのうちに終わると簡単に考えていたのだ。

だが、思えばこれは、一回きりのゲーム。いつものように、負けたらすぐに次という訳には行かない。

もっと真剣に向かわなければならないのに、倫子の気持ちはまだふわふわと現実味を帯びては居なかった。

黙り込んだ皆に、美沙が言った。

「さあ…もう10分で9時よ。部屋へ入って、それぞれの考えをまとめて明日に備えましょう。今日の投票が、無駄では無かったのだと思いたいわ。」

倫子は、それを聞いて居間の金時計を見た。確かに、もう制限時間ぎりぎりだ。どんな風に追放されるのかも分からない怖さがあるので、皆はサッと立ち上がると、足早に居間を出てそれぞれの部屋へと向かった。

だが人狼だけは、きっと夜中にまたここへ来るのだ。


部屋へ入って何もすることがないのでベッドに横になっていると、腕輪からまた例のカウントダウンが始まり、部屋の鍵はカチリと音を立てて掛かった。

試しにノブを回して押してみたが、全く開く様子はない。どうやら、カードキーではどうにもならない場所で鍵がかかっているようだった。

まだ寝るには早いので、部屋に着いているバスルームへと入ると、倫子は軽くシャワーを浴びた。ボディソープもシャンプーも、何もかもがきちんとそろえてある。しかも、倫子が見たこともないような海外のメーカーのもので、高級そうな造りのボトルに入れてあった。

タオルだけはどれだけ探しても無かったので、自分が持って来たもので拭くと、寝間着代わりに持って来たジャージを着てまた、ごろりとベッドへ転がった。消灯まであと15分ほどという時間になった頃、倫子の腕輪がピピピピッと音を立てた。

いつもと違う鳴り方に驚いた倫子は、急いで腕輪を見た。腕輪には、「7」と表示が出ている。7は、倫子の隣りの隣り、つまり、要の番号だ。

慌てて通話のボタンを押すと、腕輪から声が流れた。

『倫子?良かった、ごめんね、ぎりぎりの時間に。』

相手に見えないのを承知で、倫子は首を振った。

「ううん、暇だったし。なに?どうしたの?」

要は、少し黙ってから、思い切ったように言った。

『うん…その、倫子はどう見ても白い感じがしたからさ。ちょっと相談しようかと思って。あの、姉ちゃんのことだけど、倫子は、おかしいと思わなかった?』

倫子は、驚いて息をつめた。要は、まさか洋子を疑っているのだろうか。

「え…別に何も。こんな事になってるんだし、緊張していつもと違う感じでもおかしくはないと思うけど。」

要の声は、戸惑い気味に揺れた。

『そうか…その、いつもより、機嫌悪い感じがしてさ。合宿行くのを嫌がってたから、最初機嫌が悪いのは仕方ないと思ってたんだけど、ちょっと直って来てたんだよね。それが、役職確認の部屋こもりの後ぐらいから、なんかめちゃおかしくて。異常なほど狼は誰だと思うって聞くんだよ。そんなの分かったら吊るって。オレは共有だし、姉ちゃんにも何か役職が来てて神経質になってるのかなと思って、話を振ってみたけど…首を振るだけで、何も話してくれなかった。』

倫子は、ベッドの上に座りなおした。

「ということは、洋子は共有の片割れじゃないってことよね。」と、ふと思い立って、言った。「ちょっと待って。もしかして洋子は、狼だったからバレてないか回りを警戒してるってこと?」

要の声は、ためらった。

『いや、そこまで思ってないけど。でも、狂人とか引いてて狼を探してるのか、それとも占い師で誰を占うべきなのかって悩んでるのか、狐で狼を早く吊っちゃいたいからなのか、いろいろ考えたけど、姉ちゃんは占い師カミングアウト合戦の時、全然動かなかったしさあ。じっと固まって匠さんとか結さんとか凝視してて、横に居て怖かった。』

倫子は、じっと考えた。確かに洋子は、いつもの洋子らしくない。あんなに黙っていたり、倫子に嫌味を言ったりするような子じゃなかったのに。今日は四六時中機嫌が悪くて、倫子もあまり話すことが出来ていなかった。

「…狐かな。ねえ、もしかして狐なんじゃない?そしたら狼だって村人だって敵だから、それであんなに神経質になってるんじゃ…。」

要の声は、あー!と叫んだ。

『もう、限界だよ!姉ちゃんを吊るなんて、オレには無理だ!でも、オレもそうかもって思って来ちゃってさ…倫子はどう思うかと思って、気になって連絡したんだよ。でも…分かった。明日からのこと、また占い結果とかで考えよう。呪殺とか…さ。あるかもしれないし。』

腕輪が鳴った。

『消灯時間になります』

『あ、時間だ!』要が叫んだ。『じゃ、またね!オレ、これから共有者の片割れと会議なんだ!役職行使の時間だから!倫子、死ぬなよ!』

「え、ちょっと…」

ブツ、と通話は切れた。

死ぬなよ。死ぬなよって言った?!

倫子は、その可能性を忘れていた。人狼の襲撃があるかもしれないのだ…つまりは、自分は明日の朝、追放されてどこか別の場所で、檻にでも籠められてしまっているのかもしれない…。

そう思うとにわかに胸がドキドキとしてとても眠れないと思った。

そして、もう音を出さない腕輪を握りしめて、ベッドの隅に膝を抱えてうずくまって、時を過ごしたのだった。

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