くまさん
「くまさんだぁぁぁ~♪」
嬉しそうにかけられた声を無視して、煙草をふかす。
着ぐるみ着てるのに何で煙草吸えんのかって?ンなもん慣れだ慣れ。毎日入ってりゃ嫌でもそのまま何でもできるようになるっつーの。俺はこのまま飯だって食えるぞ。
「ふぇ…くまさん、おこってる……?」
「怒ってねぇけど、邪魔」
「!?くまさんがしゃべった!!??」
いつもなら煙草吸ってる時点で親が子供に見えないように隠すのに、こいつの親はどこ行ってんだ。はやく連れてけよな。
「うっせ。あっちいけ」
とりあえず追い払うべく迷子センターの方を指差しておく。
これで迷子だったとしても何とかなるだろ。
「くまさん、くまさん!なんでおしゃべりできるの?
まきね、おきゃべりできるくまさん、はじめてみたの」
「そりゃそうだ。そいつらは下っぱだかんな」
こっちみて頬をピンクに染めて興奮しながら話してくるのを見て、ちょっといたずら心がわいた。
どうせ、大人にすぐに訂正されるだろーし、貴重な休憩を邪魔されてンだからこんぐらいはいーだろ。
「したっぱ……」
「そうだ。オレみたいに喋れるくまは幹部だけだな」
「かんぶ……うん!わかった!!」
「よし、じゃああっちの……」
「くまさんは、かんぶのくまさんで、いつものくまさんは、したっぱだったのね!
まきがしたっぱにこころうばわれたなんて、ゆるされないわ!
せいさいよ!!」
「…………は?」
「……ねぇくまさん!したっぱのくまさんはどこにいるのかしら?
まき、せいさいしないとしけないの」
「今日はいねぇよ!っつーか制裁とか意味わかってんのか?」
「せいさいは、まきのてしたにしてもらうのよ?
まきがたのんだら、やってくれるの!!」
偉そうに言ってっけど、それかなりえげつないかんな?
自分ではやらずに人にやらせようとナチュラルに発言する幼児とかマジでこえぇ。
「あーまぁ、やめとけ?」
「なぜ?」
おぉ、いっちょまえに拗ねてやがんな。腰に手をあてて口を尖らせても幼児だから怖くなんかねぇぞ。
「俺みたいな幹部なんてごく数人だ。ほとんどが下っぱなんだよ。そいつらが居なくなったら俺たち幹部の仕事が増えるじゃねぇか」
「でも、まきがおこってるのよ?」
「それでも止めろ。迷惑」
「………………わかったわ。ものすごく、ふまんだけど、くまさんのいうとおりにするわ」
「よし、じゃああっち… 」
「くまさん!」
おいこらせっかく誘導してやろうとしたのに人の言葉に被せてきたぞコイツ。
「んだよ?」
「つぎは、いついるの??」
「そんなもん、秘密に決まってンだろ」
答えると幼児はピーピーギャーギャーわめいてるが知らねぇよ。
教えんな。って俺の本能が命令してくんだよ。
「うるせーよ。文句言っても教えてやんねェよ。
勝手にきて勝手に探せ」
「!!??
そうね!まきの、くまさんへのあいがあれば、かんぶをみつけるなんてかんたんよね!!
ありがとう、くまさん!!
またしたね!!!じゅっかいみつけたら、けっこんしましょうね!!!」
言うだけ言って走り去ってったけど、迷いなく迷子センターに向かってっからアイツ、迷子の常習犯だよな。
気づけば休憩時間も終わりじゃねぇか。今日は最悪だな。
着ぐるみの中に煙草を押し込み、俺は残り4時間を消化すべく、立ち上がるのだった。
おしまい。