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 俺は「自由」を信奉している。

 なぜか、とかはまぁ、どうでも良い。簡単に言うと、子供の頃から音楽とか文学とか絵画とか、芸術がとにかく好きで、その表現の寛容さに感化されただけ、という薄っぺらい理由である。

 だがしかし、社会生活を送る上で「自由」には制限がかかる。他人に迷惑をかけてはいけないということだ。

 待ち合わせに遅刻など、もってのほかである。

「ペナルティでピザおごりな」

「げげんちょ」と、沙世は悲鳴を上げた。

 沙世は四十分も遅刻した。その頃には、初対面の伊坂と朋美の自己紹介も済んでいて、ため口で話せるほど打ち解けていた。

 本日はファミレスでのお食事会がメインだ。

 伊坂とは久しぶりに会うから積る話もあるし、朋美とじっくり長い時間遊ぶのも初めてだから「ひとまずは」ということだ。沙世とはまぁ、長い付き合いだし、どうでも良い。

 待ち合わせ場所の駅構内から、最寄りのファミレスへ。

 十二時。真昼だ。店内は込み合っていた。だから早めの待ち合わせ時間にしたのに、沙世のヤツめ。

 少し待って、じきに奥のボックス席に通してもらった。

 とりあえずジュースで乾杯。俺と朋美はパスタを、伊坂はグラタンを、沙世はオムライスと加えてピザを、それぞれ注文した。伊坂はもっとハンバーグとかステーキとかのがっつり系を頼むのかと思っていたけど、部活を辞めて食が細くなったのだとか。

「そういえば、なんでバスケ辞めたの?」と、尋ねた。

 沙世が急におどおどしだした。

 伊坂は自分の右肩に手を当てて、怪我のエピソードを二つ三つ話してくれた。

「へぇー」と、沙世が言った。

「沙世も知らなかったのかよ」

 お前ら登校で朝一緒の電車に乗るとか言ってたけど、どんだけ浅い会話してたんだ。

 朋美も訝しげに沙世を見た。

 まぁ、沙世にも思うところがあって聞けなかったのかもしれないけど。

 割と伊坂が軽い様子で喋ってくれたので、もう少し踏み込んでも無遠慮にならないだろうと思った。

「他のスポーツはやってみないの? せっかく身長あって、身体も作って、もったいなくないか?」

「他のスポーツかー。考えたことなかった」と、伊坂は本当に意外そうに応えた。よっぽどバスケットにかけてたんだろうな……。

「サッカーとか良いんじゃない? ねぇ、沙世ちゃん」と朋美が言った。

「サッカー、サッカーねぇ、どうだろ? 結構プレス厳しくて、肩入れてディフェンスしたりするからね。いや、しかし、やってやれなくはないでしょう! ううん、個人的には、ぜひともやっていただきたい!」

「なんだその口調。力入りすぎだろ」

「あはは、おっかし」と、朋美が口に手を当てて笑った。

「三人とも、本当に仲が良いんだね」と、伊坂が言った。

 すると、朋美は何かに気付いたようにハッとして、口に当てていた手を顎に置いて、考え事を始めた。今日はなんだか気合いが入っていたようだけど、きっとそのことに関係しているのだろう。

 沙世はそんなことはお構いなしに――というよりたぶん気付いてないな――勧誘を始めた。

「私、伊坂君の学校のサッカー部のマネとマブだから、口利きするよ! マネとマブだから」

「なんで二回言った」

「韻踏んでて気持ち良くて、マネとマブ」

「マブって、最近なかなか言わないけどな」

 などという俺達の話を聞きながら、伊坂も考え事にふけり始めた。久しぶりに再会した時に感じた瞳の陰影は失せて、何かが灯り始めたようだった。

「そのマネージャー、卯月葵ちゃんっていってね――」

「もういいだろ、ガチすぎなんだよ。それより、沙世のおごりのピッツァいただきまーす」

「あああ……、良いよ、どうぞ、もう……」

 この数十分間の会話が、朋美と伊坂の、何かを変えるものであったなら、それはとても嬉しいことだ。この食事会を開いた甲斐があったというものである。

 その後、俺達は次にどこに行くかを話し合った。結果、ゲーセンとカラオケに行くことになった。

 伊坂はゲーセンにある安っぽいバスケットのフリースローゲームで、手首だけを使って、ゆっくりと、確実に、シュートを何度も決めた。制限時間が来た時、伊坂はなんだか吹っ切ったような顔をしていた。単純に凄いと思った。

 朋美はなぜかカラオケで「友達でいよう」というような失恋の歌を歌った。悲しい歌のはずなのに、朋美は曖昧な笑顔を見せていた。歌唱力には圧倒された。

 沙世は、まぁどうでも良いのだが「懐かしいね」と何度も口にしていた。色々と思い出すことがあったようだ。

 俺達はへとへとになるまで遊んで、別れた。

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