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 普段は黒の髪ゴムで結っておしまいだが、今日はその上から桃色のシュシュを付けてオシャレをした。

 ダブルデート当日の朝である。

 初対面の伊坂君なる人と会うのは少し緊張する。

「初めまして、林朋美です。よろしくお願いします」

 鏡の前で、声に出して挨拶の練習をしてみた。少し固いか。でも良しとしよう。

 今日は初めて楢崎君と遊びに行く日。そのことの方が私を震わせる。

 私は楢崎君のことが好きだ。

 自由人な彼のことが好きだ。


 高校入学当初のこと。彼は、緊張した面持ちの他の生徒達と違って、ある休み時間は男女問わず話しかけたり、またある休み時間は独りでどこかへ行ってしまったり、自由気ままだった。

 私はというと、周りの席の人達に話しかけられはしたが、もともと上辺ばかりの話が苦手で、続かなかった。集団に属することに向いていないようだ。独りで読書をしたりして過ごしていた。

 その時、沙世ちゃんにも話しかけられた。彼女も楢崎君と同じく、男女の別なく周りの人に話しかけていた。

 その頃は社交的なコだった。

 しかし、一ヶ月もすると彼女は髪を茶色に染め、少し周りと距離を取るようになった。どうやらその頃に反抗期に突入したようだ。

 そんな沙世ちゃんにも、楢崎君は変わらず話しかけた。

「なんだよ、その髪の毛」

「地毛」と、沙世ちゃんは無愛想に応えた。

「嘘吐け。土日で色が変わる地毛があるもんかよ」と、言って楢崎君は笑い飛ばした。そして、それ以上はそのことに触れずに、会話をしていた。

 その場面が妙に私の心を打った。なんて自由な人なんだろう。それでいて、無遠慮なことはしない。

 初めて見るタイプの人だった。

 周りの生徒や教師が、急に態度が変わった沙世ちゃんを遠巻きに見る中、そこへ入っていき、寄り添う。そこに優しさを感じた。

 そして、好きになった。

 すぐに話しかけた。

「同じ中学の人がいないの。私も二人の中に入れて!」と、勢い勇んで言った。

 二人とも、少しの間も開けずに「どうぞどうぞ」と迎え入れてくれた。

 二人とも、そういう人間性なのだ。男女だとか、縄張りだとか、そういうものに縛られない。

 そして、その後も相変わらず、楢崎君はあちこちに飛び回り、沙世ちゃんはこちらから話しかけない限り独りでいた。

 そこで楢崎君には、私から話しかけるようにして、一緒にいる時間を増やすことにした。

 沙世ちゃんには、自然に心を開いてくれるのを待った。そうして彼女は、私と楢崎君を通して、少しずつ学校に馴染んでいった。

 そんなこんなで今に至るわけだが、沙世ちゃんはそのことをすっかり忘れてしまっていて「入学した頃って私、緊張しててさ、ずっと楢崎と朋美ちゃんの三人でいたよね」なんて言っていた。本人から見たら確かにそうだったのかもしれないが、その実、彼女自身が孤独を望んでいて、不完全にその望みが叶えられた結果だったのだ。


 今では、沙世ちゃんのことは親友だと思っている。

 そして、私は楢崎君のことが好きで、沙世ちゃんも私と同じだ。

 沙世ちゃんも、楢崎君のことが好きだ。恋とは違うのかもしれないが、見ていればわかる。友情とは違う、特別な感情を抱いている。

 だから、つまりは三角関係なのだ、私たち。

 そんな曖昧な関係が私にはむず痒く、いっそ楢崎君に告白してしまおうと何度も思った。しかし、告白するぞと決めた時に限って、私自身が他の男子に告白されてしまい、うやむやになるのだった。

 実に四度である。このうち沙世ちゃんが気付いているのは二度くらいかな。

 沙世ちゃんは鈍感だから、自分が三角関係の挟間にいることにも気付いていないだろう。

 その鈍感が高じて、最近大変なことが起きた。

 沙世ちゃんが恋をしたのだ。伊坂君なる人に。

 好きな人がいるにも拘らず、そのことに自分が気付かず、ひいては別の人に恋をしてしまう。なんと不思議な現象だろう。

 沙世ちゃん、このままじゃ二股だよ?

 さて、今日はこの現象を見極める日でもある。

 もしかしたら、一年間、こう着状態だった三角関係が崩れる日にもなるかもしれない。特別な日になるかもしれない。

 というのに沙世ちゃんてば――。

[ごめん! 遅刻する!]と、メールが届いた。

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