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「夢みたい」な日々は、一週間を超えても現実味を帯びず、相変わらず、フワフワした気持ちで過ぎていった。
それは、あんまり伊坂君と、実のある話をしていないことに起因すると思われる。
「昨日も話したっけ、楢崎がね、『小学校の同窓会がしたい』って、まだ言ってんの。小学校の同級生って、中学でも一緒だったんだから、おかしな話だよねー」と、電車内で、私は努めて明るく言った
「でも良いんじゃないかな? 中学卒業して1年経ったし」と、伊坂君はそつなく返答する。
「そんなこと言っちゃうと、本当に開催しそうな勢いだよ。今度のゴールデンウィークにでも。すぐにね」
「小学校か、懐かしいな……」
そう言って、伊坂君は遠い目をした。
この一週間で気づいたが、伊坂君は、こんな風に目を細めることが多い。なにか、癖なのかもしれない。眩しいものでも見るように。霞がかった、その向こうを見ようとするように。
そして、その後は決まって少しの沈黙が訪れる。それが、私にはとても苦しいことだった。
反抗期中の家で流れる沈黙なら、願ったり叶ったりなのだけど。
伊坂君に遠い目をさせないために、思い出話はNGとした。
また、バスケ部を辞めた理由が聞きづらくて、スポーツの話題もNGである。
消去法で「私の高校の話」ばかり。それを伊坂君に、ただただ喋る。
「そうそう、それでね、とにかく楢崎が、伊坂君に『会わせて』ってうるさいの。『休みの予定を聞いてきて』って」
もどかしくて堪らなかった。本当は楢崎相手の時のように、軽口を言って、小突かれて、そんな掛け合いがしたかった。
せっかく二人きりで話ができるのに、その時間を有効活用できていない。そんな感覚が付き纏う。
何とかならないものかと、考える暇もなく、私の降車駅に電車は到着してしまう。
ああ、今日もまた、隔靴掻痒。
そしてこの、席を立って別れなければいけないこの感じ、切なさは、身に覚えがあった。
小学校の席替えの時だ。
車内アナウンスが次の駅への停車を告げる。私のお喋りが途切れる。
「小学校の時さ、一回だけ席が隣になったこと、覚えてる?」と、伊坂君が言った。
今でも鮮明に、覚えている。
「あの頃はなんとなくさ、またいつか、隣になれると思ってたんだ」
電車の座席に隣同士で座りながら、伊坂君がそう言うと、私は不意に実感した。
私はもう一度、初恋をしたんだ……。
車両の扉が開いた。




