第二話
「君は……」
確かさっき司令室であった。と、ユーリが言葉を発する前に、
「リシア様、困ります!」
おそらくはこの牢屋の看守であろう人物が、明らかに焦った様子でリシアと呼ばれた彼女の下へと駆けよってくる。
「何が困るのですか? わたくしが彼と話すと何か不都合でも?」
「い、いえ、そういう訳ではないんですが、こいつは死刑囚……おまけに汚らしい魔法使いですよ? グレイス様から穢れが移るので、誰も近づけさせないようにと命令を受けているんです」
「汚らしい? 穢れ?」
リシアは今まで一心に見ていたユーリから視線を外し、身も凍る様な目つきで看守を睨み付ける。
「半分とはいえわたくしのにもその血が流れているわけですが、あなたはこの場で上官であるわたくしを侮辱している……そう捉えてもよろしくて?」
「なっ!? そんな事はありません!」
「ならばそこで控えていなさい、話はすぐに終わります」
「は、はい。失礼しました」
軍事国家デュオルの軍に属している以上、この看守もかなり鍛えられた武人と言ってもいいはずなのだが、鍛えられた彼の精神力を持ってしてもリシアのプレッシャーは凄まじいものだったのだろう。
彼は視線をあちこちに逸らしながら、早く嵐が通り過ぎればいいと思っているかのように、顔を蒼白にしながら脂汗をかき始めてしまっている。
ユーリはそんな看守を見て、ゴクリと唾を飲むが他人事だと思ってはいられない。リシアが何をしにこの場に現れたのかはまるでわからないが、次に彼女が話しかけてくるのは間違いなくユーリ自身なのだから。
「さて、あなたはいつまで座っているのでして? あなたは死刑囚とはいえ、一応まだ軍人……そうなれば、わたくしは上官という立場なのだけれど」
「っ」
彼女の空色の瞳に射抜かれ、全身を駆け巡る冷たい何かを感じてユーリはすぐに立ち上がる。
「申し訳、ありません」
「……わたくしはもうすぐ帰ってしまうので、要件だけ率直に聞かせてもらいますわ、グレイスに何を言おうとしていたのでして? あなたがわたくしにもたらしてくれる情報次第では、あなたを解放してあげてもよろしくてよ」
「それは困りま――」
「黙りなさい」
ユーリの処遇を勝手に決めようとするリシアに、看守は異を唱えるがすぐさま強引に口を閉じさせられた。
「そうね、解放というのはさすがに無理でも、わたくしのボディガードとして傍に置いておく事くらいは出来るわ。言い換えれば、わたくしがあなたを一日中監視するという事になるけれど……どうでして? 今の状況よりは幾分かいいのではなくて?」
「それは――」
幾分か言いなんてもんじゃない、段違いじゃないか。
ユーリは目の前の少女、リシアが出してきた交換条件に対しそんな感想を受けるが、同時に一つの疑問も思い浮かんでしまう。それは、
「それはどういう事ですか?」
「どういう、とは?」
「聞いてくれるなら僕は全てを話します。でも、どうして僕を助けてくれるんですか?」
そう、それはリシアがユーリを助けてくれる理由がまるで分らないという事だ。別に彼を助けなくてもは、話だけ聞いてさっさと出ていけば面倒なことは何も起こらない。それこそ看守と多少の言い争いをする必要すらなかったのだ。
それとも僕がただでは話さないと思っていたのか?
ユーリはリシアが持ちかけた取引について、何か裏があるのではないかと必死に考える――ただでさえグレイスによって、こんな状況に貶められたばかりなのだから、その思考回路はまともだったと言えるだろう。
だがしかし、彼のそんな心配をよそにリシアは簡単に答える。それこそ何でもない事を言うかのように、
「もしもあなたが魔王を止めるために戦線を離脱したならば、あなたが行ったのは脱走ではなく、勝利のための攻撃です。一人で敵陣に突撃するようなおバカな勇者は讃えられこそすれ、このような場所に入れられるのは相応しくないのではなくて?」
彼女は鉄格子の隙間から、こちらに手を伸ばして言う。
だから、
「グレイスに言おうとしていたことを、わたくしに言いなさい。あなたの行動が卑怯者のそれではなく、まさしく勇者のそれだったのならば、今この時よりあなたの命……このわたくし、リシアが頂くわ」
「…………」
信じられないものでみ見るかのように茫然とするユーリに、彼女は悪戯っぽい笑顔をうかべて続ける。
「それにわたくし、グレイスがとても嫌いなの。あなたを助ければ、あいつへの嫌がらせにもなるのではなくて?」
言って、小悪魔の様でありながらも可憐に笑うリシアの姿は、今のユーリには触れてはならないほど美しい神聖なものに見えた。
●●●
「入りなさいな」
「は、はい」
牢の中から、魔王との間にあった全ての出来事をリシアに伝えたのち、現在ユーリは彼女の部屋へとやってきていた――余談だが、看守は最後までリシアの眼力に押されっぱなしではあったが、彼女がユーリを出そうとする直前まで「それだけは、まずい。本当に勘弁してください」と抵抗を見せた。
「あの看守、わたくしに最後の最後まで意見してくるなんて、なかなかいい根性していますわね」
先に部屋へと通されたユーリに続いてリシアは自らの部屋へと入り、そのまま一目で高価なものだとわかる木製の大きなベッド、おそらくキングサイズのそれへと腰掛ける。
「そこにある椅子を持ってきて、わたくしの前に座りなさいな」
指さされた先にあるのは窓際に置かれたこれまた豪華な机一式。ユーリは指示通りそこから椅子を持ち、ベッドに腰掛けるリシアの前へと運んでいく。
それにしても豪華な部屋だな。
室内を見回しながら、ユーリは考える――デュオルの軍において、魔法使いの寮は適当に作られた小汚い団体部屋が多いのに対し、魔力を持たない人間、いわゆる貴族の部屋は想像もできないほど豪華な個室だと聞かされていた。
確かに聞かされてはいたけど、こんなに豪華だとは思わなかったな。
軽い運動が出来そうなほど広い室内、床一面を覆う気品溢れる絨毯。天井を見れば何かの冗談かと思うほど美しいシャンデリアが吊るされている。
「いつまでそこに立っているの?」
「あ、すみません」
豪華すぎて全く落ち着かないと思いつつも、リシアをこれ以上またせないために、彼女の前へと椅子を置いて座る。
「…………」
「…………」
う、なんだこの沈黙?
指示通りにしたというのに、二人の間に横たわるのは気まずい沈黙だった。さらにリシアはこちらを値踏みするかような視線で見つめてきているため、妙な汗が止まらない。
こういう場合は取りあえず、
「あ、あの!」
「何ですの?」
「さっきは助けてくれてありがとうございました」
ユーリが言うと彼女はふっと息を吐く。同時に辺りを包んでいた緊張が解かれたような気がする。
「お礼を言われるほどの事ではありませんわ、わたくしは当然の事をしたまでですもの。それに情報という対価も得られました」
それでも助けてもらったことには変わりない。
「でもお礼くらいは言わせてください」
「……まぁそういう事ならば、お礼は受け取っておきますわ。でもこれからは、わたくしのために働いてもらう事になるので、今までよりいっそう励んでもらうことになりましてよ?」
おそらくそれは件のボディガード云々の事だろう。
「大丈夫です! リンとソーニャの事も何とかしてくれたんですから、僕に出来ることなら何だってやります」
そう、リシアはユーリを助けるだけでなく、彼の幼馴染と妹の件も何とかしてくれたのだ――口に出してはいないが、その際にまたグレイスとひと騒動あったのは容易に想像できる。
「…………」
と、ユーリはとある異変に気が付く。
あれ? なんだかリシアさんの機嫌が悪くなって言っている気がする。特に機嫌は損ねることを言った覚えはないのだが、いったいなぜだろう?
半眼でこちらを覗くリシアを見ながら彼は考えるが、その答えは一向に出てこない。
またしても訪れた居心地の悪い沈黙に耐えきれなくなったユーリは、
「あ、あの――」
「そのしゃべり方、嫌いですわ」
いきなりダメだしされた。
「えぇ!?」
「あなた、さっきから敬語ばかり使っていますわね。わたくしが上官である以上、そのような礼節は確かに執拗だとは思いますわ。でもあなたは、わたくしの部下である以前にボディガードでしてよ?
ボディガードといえば、主人のために全身全霊を持って力を振るう存在。そして主人はボディガードを心のそこから信頼する……そうなるためには、わたくしとあなたにある程度の信頼関係がないとダメだと、わたくしは思いますの」
なるほど。
「つまり?」
「もう少しフランクに喋りなさいな」
全く意味がわからない。
確かにユーリは基本的に敬語で喋る事が多いが、それは意識して使っているわけではなく、彼の生まれつきの喋り方なのだ。意識して直そうとして直せるものではない、第一リシアにそんなことを言われ理由がわからない。
「どうやら、わたくしの言っている事がわからないようね」
その通りだ。とは思っているだけで口にはしない、リシアにはあまり口答えしない方がいいという事をユーリは看守の件ですでに知っている。
「ふふ、わたくしの偉大なる考えを教えてあげますわ!」
リシアは立ち上がり、こちらにバッと手を差し出すと、こいつはドSだとユーリに思わせるような笑顔で言う。
「信頼関係を作るためにまずはお友達になりましょう? 公共の場では敬語でいいと思うけれど、わたくしと二人きりの時は敬語を使わなくて結構ですわ。感謝しなさい、このわたくしがあなたのお友達になって差し上げましてよ?」
「…………」
リシアの発現にユーリはただ茫然とするしながらも考える――これ、遠まわしに助けてあげたお礼に友達になってくれって言われてるのかな?
「な、何ですの? 何で黙っているんですの? わたくしのボディガードという立場と、記念すべき最初のお友達という立場が同時に手に入るんですのよ!?」
最初の友達。
ユーリはその言葉に思わず反応する――あぁ、ぼっちか。
この性格ならばそうそう友達が出来そうにないと推測した彼だったが、その予想は僅かに外れることになる。
強引にユーリの手を握り、ぶんぶん振り回した後で満足そうな顔をしてリシアは言う。
「これからよろしくお願いしますわ。遅れましたけれど、わたくしの名前はリシア……軍事国家デュオルの中将ですわ」
「ち、ちゅう――っ」
中将!?
さらっと放たれたリシアの階級に驚いているユーリだったが、そんな彼の様子に気が付かずに彼女は続ける。
「後腐れないように言っておきますけれど、わたくしは普通の人間ではありませんの」
「? それって、どういう」
普通の人間ではない。ユーリはその表現の仕方にどことなく違和感覚えた――もしも魔法使いならば魔法使いと言えばいいだけだ。だがしかしそれはあり得ない、この世界……少なくともこの国に置いて、魔法使いが昇格することは決してありえないのだから。
それ以前に彼女にはオッドアイではない以上、同時に魔眼も有していない事に、
「わたくしは混血種、魔法使いの母と人間の父の間から生まれましたの」
「なっ!?」
混血種。
魔法使いと、魔力を持たない人間の間から極僅かな確率で生まれてくる者、それが混血種――混血種は体内に魔力を有しながら、魔眼を持っていないため魔法を使えない種族と言われている。
魔法使いでもなく人間でもない。
「――っ」
ユーリはリシアに友達が居なかった理由がわかった気がした。そしてグレイスが彼女の事を嫌っている様、さらにリシアが看守に対して言っていた血の話と、それを聞いた時の看守の態度を思い出して歯噛みする。
混血種という霞のような存在でありながら、この若さで中将に位置するなど並大抵の努力では到達し得なかった以上だろう――一瞬でもぼっちなどと、心の中で笑ってしまった自分がユーリには許せなかった。
「教えておくことはそのくらいかしらね……あぁ、わたくしの名前を呼ぶときはリシアで良くてよ。もちろんプライベートの時のみですけれど」
言い終わると、リシアは再びベッドに腰掛けて自己紹介を終える。
「次はあなたの番でしてよ?」
「は――」
はい、わかりました。と言いかけて、脳裏に「フランクですわ!」と喚き散らすリシアが浮かび、ユーリは咄嗟に吐きかけた言葉を飲み込む。
「僕の名前はユーリ、知ってると思うけど魔法使いだ」
彼はその後、自分の魔法の事などを説明しつつ短い自己紹介を終える。自己紹介の間、リシアは彼の話を熱心に聞き、少しでも気になった所は質問してきてくれたりもしたので、彼にとっては純粋な魔法使い以外とした久しぶりのまともな会話となった。
リシアはユーリが質問に答えるたびに、ころころと表情を変え、その都度豊かで可愛らしい笑みを見せてくれる。そんな彼女に対して彼は次第に心を開いて行き、気が付けば意識せずとも彼女が言う「フランクな言葉づかい」で会話している自分に気が付いた。
「そうでしたの、あなたはこの国を中から変えるために軍に入ったのですね?」
「うん、僕にはどうしても守りたい人が居るんだ」
脳裏に幼馴染と妹の笑顔を浮かべながらユーリは続ける。
「いやそれだけじゃない、僕はみんなが笑って暮らせる世界を作りた。誰も憎しみ合わないような、誰もが仲良く笑って過ごせるそんな世界が作りたいんだ……でも軍の中将に言う事じゃなかったかな?」
仮にもこの国の中核を担っていると言ってもいい人物に対し、実質的に「今のこの国は気に入らない」と言っただけでなく、夢見がちな少年の様な恥ずかしい事を言ってしまったので、ユーリは途端にあたふたと落ち着きがなくなるが、
「そうですわね、わたくし以外に言うのは避けた方がいいかもしれませんわね。でも考えは立派ですわ――この国から魔法使いへの差別をなくし、魔法使いもただの人間も……同じ『人間』として生きられる場所を作りたい……尊敬いたしますわ」
リシアは受け止めてくれた。
笑いもせず、怒りもせず、ユーリの夢をただ受け止めてくれた。
「……ありがとう」
ただ話しを聞いてもらえたという事だけで、胸の中に言い表せないほど熱い何かが込み上げ、彼はポツリとそれだけ呟くのだった――しかしその何かは、抑えがたいほど熱く苦しいものではあったが、決して気持ちの悪いものではなかった。むしろ暖かく、とても心地がいいような何か。
もっと話していたい。
初めて彼女を見た時は冷たく怖そうで、正直あまり関わりを持ちたくないと考えていたユーリだったが、今ではまるで正反対の事を考えていた。
リシアともっと話して、もっと仲良くなりたい――そう考えているのは、今までは出自故に友達が居なかったという彼女も同じだったのか、二人の会話は古くからの友人が語り合っているかのように盛り上がっていく。
「それで――」
しかし、
「リシア様、失礼いたします。女王陛下よりご伝言がございます」
二人の楽しげな会話を、ノックの音と共に途切れさせる声が部屋の外から響いてくる。
「ふぅ……話はここまでの様ね、またわたくしと話をしてくれるかしら?」
「うん、もちろん!」
ユーリが答えると、リシアはやや不安気だった顔安堵したかのように緩め、
「よかったですわ、断られたらどうしようかと思っていましたの」
今まで見てきた女性の中で、一番美しいのではないかと思うほどの笑顔を浮かべリシアは立ち上がる。そのまま彼女はユーリの見ている前で、どこか儚さを感じさせる金糸の様な髪をなびかせながら、部屋の扉の前へと歩いて行ってドアノブを掴んで開ける。
「リシア様実は――」
扉の前に立っていた男は、部屋の中にユーリが居るのに気が付くと、グレイスがそうしたのと同じようにゴミでも見るような視線を投げかけた後、彼を視界から完全に抹消して続ける。
「女王陛下がリシア様に直接頼みたいことがあるとのことらしく、至急宮殿へといらして欲しいと」
「陛下が?」
「はい」
リシアは難しそうな顔で少し考えたのち、
「わかりましたわ、これからすぐに向かわせていただきますわ……あなたは下がって結構です」
「はっ!」
軍事国家デュオルを収める女王陛下からの呼び出し。
リシアほど階級が高くなれば、その様な事もあるのだなとユーリが一人思っていると、扉を閉めた彼女が難しそうな顔、というよりは何かを考えていそうな表情で戻ってくる。
とても複雑な事を考えていそうな顔だったので、何か手伝いになることがあるのではないかと、ユーリは尋ねる。
「どうしたの?」
そう、軽い気持ちで尋ねてしまう。
「いえ……そうですわね、やはりそうすることにいたしますわ」
その後、聞かなけれよかったと後悔する事になるとも知らず。
「り、リシアさん?」
「何ですの?」
リシアの部屋に女王陛下の使いが来てから数分後、リシアとユーリの二人はそろって場所を移していた――今いる場所は女王陛下が過ごしている宮殿へと続く荘厳かつ巨大な扉の前。
「何で僕まで、女王陛下のところに連れていかれようとしているのでしょうか?」
当然の疑問である。
ユーリは中将のボディガードになったとはいえ、それだけでは決して女王陛下と顔を合わせられるなどという事はない。むしろ魔法使いでがるユーリがその様な事をすれば、グレイス辺りが嬉々として再度処刑命令を出す事だろう。
故に彼がしたのは当然な質問であり、同時に自然な心配でもあったのだが、
「女王陛下に、わたくしのボディガード兼初のお友達を紹介しておきたっかの……何かおかしなところでもありまして?」
などと、当然の疑問に対して当然の様に返答するリシア中将。
「…………」
茫然だった。
おかしいも何も、おかしな所だらけ何ですけど!?
ユーリは心の中で頭をかきむしりながら絶叫する――まずい、早くリシアを説得して僕だけでも引き返さなければ、今度こそ処刑されてしまう。
「やばい、絶対にやばい」
「何がやばいんですの? あ、ほら……入りますわよ」
半ば祈りと化した悲鳴がリシアに届くはずもなく、内側から完全武装の兵によって開けられた扉を彼女は悠然と進んで行ってしまう。こうなればユーリだけ留まっているわけにもいかず、
「や、やるしかない」
覚悟を決めてリシアの後について行くのだった。
「うわ……」
ついて行った先でユーリを迎えたのは圧倒的なまでの荘厳さだった――以前司令室に向かう際に見た廊下など眼ではないほどの荘厳さが、目の前に広がっていたのだ。白く静謐かつ巨大な空間の最奥にある玉座へ続く道には長い真紅の絨毯が敷かれ、その左右を精緻な模様の彫られ幾本もの巨大な柱が立っている。
感じる圧倒的な建築美、感じる圧倒的な場違い感。
「うわぁ……」
故にユーリは再度声をあげる。ただ単に美しさからの感嘆から出た言葉ではなく、どうして自分はこんなところに来てしまったのだろうと、そう感じて声をあげる。
「本当にどうしてこんなことに……」
朝は小汚い魔法使いの寮。
それから昼までは名も知らぬグロテスクな昆虫が這いずり回る牢獄。
昼過ぎからしばらくは、リシアという軍の中将の部屋で優雅におしゃべり。
そして今は女王陛下が住まう大宮殿。
我ながらコロコロと、面白いように居る部屋のグレードが変わってるな――ユーリはいつの間にか緊張しているのがバカらしくなってきて、つい苦笑を漏らしてしまう。
「随分余裕ですわね」
と、さっきまでガチガチだったユーリの表情が少し軟化したのを見てリシアは、
「でもわたくしのボディガードですもの、それくらいでちょうど良くてよ」
微笑むリシアにユーリは「うん」と言って笑顔を返し、玉座の前へと進んでいく。
「デュオル軍 中将リシア、ただいま参りました」
隣で片膝をついて口上を述べるリシアを見て、自分も何か言わなければとユーリは彼女の工場をまねる。
「あ、えと……デュオル軍 奴隷部隊ユーリ、ただいま参りました」
咄嗟に言ったけど、これでよかったのだろうか。そもそも自分はここに呼ばれていないのだから、名乗りを上げるのは失礼だったのでは……しかし、名乗らないのもそれはそれで失礼だし。などと、ユーリの思考が謎々スパイラルに入りかけようとした正にその時。
「うむ、よくぞ来てくれたのじゃ」
宮殿を満たすほど快活な声、それはとても幼いながらにどこか威厳に満ち溢れていた。
「顔をあげよ、よく我の呼びかけに答えてくれた」
「勿体なきお言葉ですわ」
顔をあげるリシアに続いてユーリも顔を上げ、玉座に座る人物へと視線を移す。
「っ」
そしてユーリは思わず息を呑む――それは別に玉座の横に、額に青筋を浮かべたグレイスが居たのに驚いたわけではない。
美しいのだ。
今までテレビなどの映像を通してでは見たことはあったが、生まれて初めて直に見る女王陛下――この国の頂点、ルシア・デュオルがどこまでも美しかったからだ。まだ十一歳でありながら、リシアと同じく金糸の様な長い髪はどこまでも輝きを放ち、両眼はどこまでも澄み切り、どこまでも見通しているかのような空色をしている。そして我が強そうな顔つきは……と、そこまで考えたところでユーリはとある疑問に気が付く。
あれ、どこかでこの顔を見た気がする。それにこの声も――
「何故貴様がここに居る? この劣等種が!」
「うむ? 突然大声をあげるでない、驚ではないか」
「くっ……今この時だけでよろしいので、、陛下は口を出さないでいただきたい!」
白く静謐な場所に相応しくない怒声、その持ち主はユーリをギロリと睨み付けて言う。
「貴様はどうしてここい居る!? ここは貴様の如き劣等種が居ていい場所ではないぞ! 即刻立去るがいい、この痴れ者めが! 軍の中将であるリシアのボディガードになったからと言って、貴様がこの場に居ていい権利を得られたと思ったら大間違いだぞ!
っちぃ、だいいち私は反対なのだ! 魔法使いなどと言う卑しい種族をボディガードなどと飾り立て処刑から逃れさせるなど!」
まるで機関銃の様に放たれるグレイスの言葉の嵐に、ユーリは物理的に後退をし始めるが、手首をリシアに捕まれ止められる。
彼女は口の動きだけで彼に大丈夫と告げると、
「あら? グレイス閣下は随分と余裕がないのですのね、まるで駄々をこねる子供の様」
グレイスを言葉でバッサリと切り払った。もちろんそんな事をされたグレイスが黙っているわけでもなく、
「き、貴様ぁ!」
最早破裂するのではないかと思わせるほど顔の至る所に血管を浮かび上がらせ、グレイスは攻撃の対象をリシアに切り替える。
「魔法使いの血が混じった出来損ないが、この私に何という口を利く!? 貴様の様なゴミが人間と同じ生活を遅れているのは、この私の気まぐれだという事を忘れるなこの屑が……ふん、貴様の様な女は中将などより、もっとお似合いの仕事があるのではないか?」
心底相手を苛立たせる下卑た笑みで、リシアの肢体を舐めまわすように見るグレイスに、いよいよ我慢の限界が来たユーリは叫ぼうとするが、
「やめよ!」
聞くに堪えない暴言を黙らせたのは、ユーリにとって思いもよらぬ人物からの声だった。
「グレイス、そちは外で頭を冷やしてくるがよい」
「し、しかし私は!」
まるでここに入ってきた当初のユーリの様にあたふたするグレイスに、この国の主たるルシア・デュオルは続ける。
「我はこの者たちと三人で話がしたいのじゃ、そう言っているのがわからぬのか?」
「……っ、わかり、ました」
さすがにルシアの命令に逆らうのはまずいと心得ているのか、グレイスは先祖伝来の仇敵でも睨むような目つきで、ユーリとリシアを睨み付けて宮殿中に響き渡るほどの不機嫌な足音を残して去っていく。
「……ふぅ」
グレイスの足音が聞こえなくなり、宮殿の扉が閉じられたころになってから女王陛下ことルシア・デュオルは話し出す。
「我が呼び出したのにも関わらず、嫌な思いをさせてしまって悪かったな……ところで、そこにいる少年は誰じゃ?」
ルシアが視線を向けるのは、グレイスとリシアさらにはルシアも加わった口論ですっかり委縮してしまい、今では全く存在感を放っていないユーリだった。
「うむ、確か魔法使いのユーリという話は聞いていたが……グレイスが言っていたボディガード云々はどういうことなのじゃ?」
「え、えと……それは」
どうやって説明しようかと思ってい居ると、リシアが立ち上がって一歩前へと踏み出す。
「それはわたくしがお話いたしますわ、女王陛下。この者は――」
委縮してしまっているユーリの代わりになって説明しようとしてくれたのだろうが、リシアが話し出すと途端に不機嫌そうな顔になるルシア。
何だろう、何かまずいことでもしてしまったのだろうか。
ユーリが人知れず、また牢屋に入れられたらどうしようなどと考えていると、
「姉さま、二人だけの時はいつものフランクな話方でいいって言ってるのに、何でなんでそんな話方をするのじゃ!」
ルシアは女王陛下たる威厳を捨て去り、玉座からトコトコ二人の前へと降りてくる。
「我は姉さまと普通に話したいのじゃ!」
そんなルシアにリシアは呆れ半分。
「……はぁ、門番がまだ二人いましてよ?」
「いいのじゃ! 門番はノーカンじゃ!」
さらりと居ない人扱いされた門番は空気を読んだのか、こちらに背を向けて二人だけで世間話をし始める――そんな彼らにユーリは密か尊敬の念を抱くのだった。
「ユーリ、そちもいつまでも膝をついていないで、我たちの会話に参加するのじゃ!」
何が何だかわからない展開について行けない頭を何とか働かせ、「あ、はい……すみません」と一言、二人の下へと歩み寄るユーリ。
「さぁ姉さま、こやつはいったい誰なのじゃ!? なぜ我の下へと連れてきたのじゃ……っ、まさか姉さまにもついに彼氏ができ――」
「ちがいますわ」
即断だった。
確かにリシアとユーリは彼氏彼女の間柄ではないが、速攻否定されると何故か悲しいものがあるから不思議だ。
……というか、
「あ、あの……二人ってひょっとして」
似た様な名前、同じ顔立ち、さらには先ほどから二人がする会話の流れから考えるに、
「うむ、そちが考えている通りなのじゃ! 我と姉さまは腹違いの姉妹なのじゃ!」
やはり。
ユーリは全く驚かずにその事実を受け止める――一目見た時から、二人はあまりに似すぎていると思っていたので、ルシアの話を聞いてようやく納得が言ったという形だ。
「むぅ……そんなことはどうでもいいのじゃ! 我はユーリと姉さまの関係を所望するのじゃ!」
「所望すると言われましてもね」
どう説明するかと困っているような表情しているリシア。おそらくどう説明すればわかりやすく説明できるか、会話を頭の中で組み立てているのだろうが、次第に彼女はユーリの方をチラチラと見始める。
そして彼女は、ユーリが思っても居なかった言葉を吐き出す。
「ユーリ、わたくしのボディガードとしての初めて仕事ですわ。わたくしたちがこうなった経緯を、ルシアに面白おかしく話なさい」
「面白おかしくといわれても……」
魔王と対面した一件から牢屋に入れられる一件まで、全く面白くない出来事の連続だったので、どう頑張っても面白く話す事なんて無理だったのだが、
「ワクワク」
と、まるで王子様に憧れるような無垢なる瞳をキラキラ輝かせ、期待に満ちた視線を向けるルシア――なんだか妹のソーニャみたいだな。
ユーリはそんな彼女に妹を重ねてみてしまい、
「えーと、では話させていただきます」
結局ユーリは話し出すのだった。今日だけですでに一生分とも思える、自の人生の揺れ動きを、
「姉さまのボディガードなのじゃから、我にもフランクな感じの邪べり方でいいのじゃ!」
彼は初っ端からダメだしされながら話し出すのだった。
「要約すると、姉さまの優しさに救われたわけじゃな?」
「まぁ、簡単に言うならそういう事かな」
つっかえつっかえ一連の出来事を物語形式で話したユーリ。
「もっと面白い話はないのか?」
「うーん、結構話しちゃったからなぁ……あとは僕の家族の話とかしかないかな」
「聞きたいのじゃ!」
バタバタと女王陛下とは思えない、見たままの子供の様に燥ぐルシア――妹が居るユーリは小さい子に懐かれる才能でも持っていたのか、話を聞かせるうちにルシアにもすぐに懐かれ、今に至る。
うん、それはいいんだけど……この状況はどうなのだろう。
そう思って、ユーリは自分が今現在置かれている状況見つめ直す。
「何故黙っているのじゃ?」
ユーリが腰掛けているのは軍事国家デュオルの女王が君臨する宮殿、その最奥にある美麗を極めた至高の玉座。これだけでも信じられない事なのに、玉座に腰掛けた彼の上にはルシアが膝に跨り、こちらに向き合うような形で至近距離から微笑みを飛ばしてきている。
「…………」
ユーリはけっしてロリコンではないが、人形の様に可愛い女の子にこれほど密着され、柔かい色々な部分を押し付けられつつ、蕩けるような可憐な笑顔を浮かべられてはどうにかなってしまいそうになる。
「むぅ、ユーリ! 何故、我の言葉に反応しないのじゃ!」
「あ、ごめん!」
まるで猫の様に胸をポカポカと叩いてくるルシアに、ようやく正気に戻り、では家族の話でもしようかと再び口を開くユーリ。だが、
「ルシア、そろそろユーリ話すのはおやめなさい」
「なんでじゃ?」
首だけ回してリシアを見て質問するルシアに彼女は、
「わたくしたちを呼んだのはルシアでしてよ、何か用があるのでしょう? それにわたくしも少しあなたに言いたいことがありますの」
「うーむ……わかったのじゃ」
言ってユーリの膝の上からピョンと飛び降りるルシア。
「ユーリ、楽しかったのじゃ! また今度、我に話を聞かせて欲しいのじゃ」
一人玉座に取り残されたユーリは、空いてしまった膝の上を若干寂しく思いながら言う。
「それくらいなら、お安い御用だよ」
「うむ、楽しみにしておるのじゃ!」
そうしてパタパタとリシアの下にかけていくルシアを見て、なんともいえぬほっこり感にひたるユーリ――あぁ、あのくらいの子を見ていると、なんだか癒されるな。だけど、
だけど、いいのだろうか。
「…………」
女王陛下ことルシア・デュオルはリシアと談笑している。もちろん絨毯の上に立って、普通に会話をしている。しかし、仮にも奴隷身分であるユーリが玉座にどっしり腰掛けているの居るのはいったいどういうことなのだろう。
「…………」
きっとこれ、グレイスに見つかったら確実にころされるな。
そんなことを思うユーリであった――だがあまり考えても仕方がない事なので、今は姉妹の話に耳を傾けるとしよう。
「ルシア、一つ気になったのだけれど、グレイスをあまり雑にあしらっては駄目ですわよ?」
「どうしてなのじゃ? 我はグレイスが嫌いじゃ、姉さまの事を悪く言うし……魔法使いを差別する。我はどちらも反対じゃ!」
「あなたがそう思ってくれるのは嬉しい事ですわ、でもグレイスはあんな性格でも国のナンバーツー……彼を味方につけとおくのと置かないのとでは、ルシアの立場に雲泥の差ができますわ。グレイスが本気になって協力してくれれば、それこそ政治面は大分楽になるはずですわ」
「むぅ、それでも我はグレイスが嫌いなのじゃ」
幼い女王は渋面を作って俯いながら言う。
「やっぱり我は王には向いてないのじゃ、姉さまが王を継いだ方が全て上手く行ったのじゃ」
それはルシアが以前から思ってきた真実の声だったのだろう――客観的に見ても確かに判断力があり、年齢も十分に育っているリシアが王を継いだ方がよった。しかし、
「それは無理ですわ、わたくしは混血……そんなわたくしが王を継げば、最悪暴動が起こりかねませんわ。実際、わたくしのお母様――魔法使いだった彼女が、当時王であったお父様と結婚した時、内乱が勃発しそうになりましたもの。ですからわたくしは、ルシアに王としての職務をついでもらったのです」
「っ……混血なんか関係ないのじゃ! 姉さまが混血だと言うなら、我は妾の子なのじゃ! 本来なら王になる資格なんて――」
「ルシア、いい加減だだをこねるのをやめないと怒りますわよ?」
「むぅ……姉さまは意地悪なのじゃ」
すっかり意気消沈してしまったルシアに、リシアは妹を気遣う姉の顔を見せて言う。
「お父様とお母様が亡くなられてから数年、あなたはしっかり女王としての仕事をこなせていましたわ。その事だけは自信を持ちなさい」
「……わかったのじゃ、でも姉さま」
ルシアはもしも、と呟いて続ける。
「この国から魔法使いに対す差別がなくなる時が来たら、姉さまが女王をやってほしいのじゃ」
「はぁ……まったくルシアは仕方ないですわね、考えて起きますわ」
可愛い妹のゴリ押しに負けたといった様子で、渋々頷くリシアに現女王陛下は、
「うむ! ではそれまで頑張るのじゃ!」
先ほどの消沈具合が嘘だったかのように、元気かつ満足そうに頷くのだった。そしてようやく二人だけの、姉妹水入らずの会話が終わったのか、玉座に座ったまま放置されていたユーリが呼ばれる。
「うむ、では三人揃ったところで、我が姉さまたちを呼んだ要件を話すのじゃ!」
ユーリは一瞬、自分もこの場に居ていいのかと考えたが、玉座に座る自分を手招きしたのはほかならぬルシアだったので、別に問題ないのだろうと判断し、彼女の話に耳を傾ける。
「グレイス指揮下の下に行われた前回の迎撃作戦――実際に参加していたユーリは知っていると思うのじゃが、その際に現れた魔物の数体がデュオル外周部に逃げ延びたらしいのじゃ。
グレイスとは別の部隊が、今も逃げ込んだ魔物を討滅してはいるのじゃが、魔物のうちの一体が恐ろしく強いらしいのじゃ……もちろん、兵をより注ぎ込めば何とかなる程度ではあるのじゃが、魔王がいつ攻めてくるともわからん現状で、王都イクトリア中央の警備を手薄にするわけにもいかないのじゃ」
「そこでわたくしたちに頼みたい?」
ルシアの言葉の続きをリシアが引き取る。
「ユーリは戦っているところを見たことがないので、正直強さに不安が残りますが……確かにたいていの強さの相手ならわたくし一人で十分ですわ」
「うむ、ユーリにはあまり期待していないが、中将としていくつもの武勲を立ててきた姉さまなら信用できるのじゃ!」
何かさらっと酷い事を言われた気がするが、今はグッと堪えるユーリ。
「多くの人数を動かして成果を生むより、最少の戦力だけで大きな成果を生む……こちらの方が攻守ともに優れていると思うのじゃが、我の考えは正しいのじゃろうか?」
花が萎れた様に自信なさげな表情をし始めるルシア。そんな彼女をユーリが元気づけようとする前に、姉であるリシアが言う。
「ルシアの考えは何も間違っていませんわ、だから自信を持っていいのでしてよ?」
「そうじゃろうか?」
「そうですわ、さぁルシア……あなたは自信満々にわたくしたに命じなさい。あなたはわたくしたちに何をしてほしいのですか?」
「うむ、我は……」
ルシアは自信なさげな声をグッと飲み込むかのように、一度だけ言葉を止める。しかし、すぐに背筋をピンっと伸ばし、自信に満ち溢れた王の顔をこちらに向け、
「リシア、ユーリ両名に命じる。
今よりイクトリア外周部に赴き、デュオルに仇名す敵を殲滅して参るのじゃ!」
紛れもないデュオルの頂点に君臨するものとして、絶対の命令を下す。
「現地における判断は全てリシア、そちに任せるのじゃ」
突如として纏っている雰囲気が様変わりしたルシアに、リシアはどこか誇らしげに答える。
「かしこまりましたわ、今この時よりわたくし――リシアと、その専属魔法使いであるユーリが、女王陛下の剣となって敵を撃ち滅ぼして参りますわ」
「うむ、何か聞いておきたいことはあるか?」
「大丈夫ですわ、必要があれば現地で情報などを仕入れますので」
リシアの言葉に女王は一度だけ頷くと、こちらに背中を向けて玉座へと悠然と歩いて行き、深々と腰掛ける。
「ならば行くがよい、我のために最大限の働きを期待しておるのじゃ」
先ほどまで普通に会話していたとは思えないほどの貫禄と威圧を放って言うルシア――ユーリはそんな彼女を見て、いつの間にか膝をついている自分に気が付いた。
隣を見ればリシアも同じく膝をつき、「かしこまりましたわ」と言葉を返している。
「…………」
体がゾクリと震える。
決して恐怖などから感じる震えではない、むしろこれは……これはきっと歓喜の類だ。幼くしてこうも美しく、今まで見てきた誰よりも威厳に溢れる王者、そんな少女に仕えられる歓喜。
今日この日、ユーリは初めてこの国に生まれてよかったかもしれないと、そう感じたのだった。
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自分の姉である少女と、魔法使いでありながらも自分に跪いてくれた少年が去った後、荘厳だがどこか寂しい宮殿に残されたリシアは一人思う。
「魔法使いである以上、この国を……我を恨む気持ちもあるであろうに」
とても自信がなさそうで、吹けばすぐに折れてしまいそうなほど弱々しい少年だったが、何故か頼りがいを感じてしまう。
「不思議な少年であったのじゃ」
きっとそう感じる所以はあのどこまでも真っ直ぐであり、己の中に絶対に譲れない希望の様なもの宿した瞳――それが彼を見る者にそう感じさせるのだろう。
「ユーリ、姉さまは無茶なところがあるから、ちゃんと守って欲しいのじゃ」
彼になら自分の大好きな存在を任せられる。そう思って、幼きデュオルの女王は一人呟くのだった。




