第零話
自分なりのかっこよさを表現してみました。
とかなんとか難しい事を言うつもりはありません。
いつも通り、楽しんで読んでいただければ幸いです。
この世界は闇に満ち溢れている。
絶望、怨嗟……そんなもので満ち溢れている。
「…………」
銀色の髪を揺らし、感情が欠落してしまったかのような目で、まだ幼い少女は一人思う。
拉致されてこの国に来てからどれくらいが経ったのだろう?
魔法の能力の珍しさ故に、貴族に奴隷として買われてどれくらいがたっただろう?
「…………」
その答えは彼女自信には絶対にわからない、経過した日数を数えていられるほどの余裕は彼女にはなかったのだから。
故に少女は今日もご主人様の下へ向かうために暗い廊下を歩く、そこでいつもの様に酷い扱いを受けるとしても、もはや気にするほどの事ではない。
「…………」
一階にあるホールではパーティーが開かれている。
少女はご主人様に酷い事をされた後、今度はパーティーに来ているご主人様の友達からも同じ扱いを受ける予定になっている。
「なにも、感じない」
酷い事をされているのに、自分の心が何も感じなくなったのはいつからだろう?
この世界に対し、自分がどうしようもなく絶望してしまったのはいつからだろう?
少女は虚ろな目をしたまま「……行かないと」と呟き歩を速める。だが、
「お前はどうしてそんなに悲しそうな眼をしてるんだ?」
暗い廊下、その先から声と共に現れたのは美しい黒髪の少年――見た眼で判断するのならば、少女と同じく、大分年齢の低い男の子だ。
「……悲しそう?」
悲しくなんてない。そんな眼はしていないと言おうとした少女だったが、口から出てきたのはまるで違う言葉だった。
「あなた、誰?」
「俺か?」
少年は少女の近くまで歩いてくると、自分は父に連れられてパーティーにやってきた参加者だと告げられる。
「……そう」
少女が少し残念そうな顔をしたことに気が付かず、少年は明るい口調で続ける。
「でもなんだか親父が、しばらく外で遊んで来いって言ってきたから、会場から出てきたわけ」
「ここ……外じゃ、ない」
「わかってるって! あんな奴の言う事いちいち守れるかよ? 今日なんて将来のコネクションだかのために無理やり連れてこられたんだぜ? 全くまいったよ!
でもお前みたいな面白くて、それに可愛い女の子に会えたんだから、来てよかったかな」
少女は「可愛い」と呟きながら自らの頬に手をやるが、そんな動作すら少年には面白かったのか、彼は笑いながら言う。
「一緒に遊びに行こうぜ?」
無邪気に差し出される手を見て少女は思う――この手を握る資格は自分にはない。自分は彼と違って穢れ切っているし、何よりこれから自分は……。
「……っ」
胸が痛い。
突如襲ってきた体の異変に少女が驚いていると、少年は笑顔を引っ込めてゆっくり聞いてくる。
「何で泣いてるんだ?」
「泣いて、る?」
気が付けば少女の頬は涙で濡れていた。
「困ってることがあるのか? 何がお前にそんな悲しい目をさせてるんだ?」
困っている事、悲しい目。
少女には少年が何を言っているのかわからない。だが、こんなにも人間らしい会話をしたのは初めてで……気が付けば尋ねていた。
「名前」
「ん?」
「……あなたの名前、は?」
「何だよ突然? まぁいいけど、俺の名前は――