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藪に道なし (その2/3)

 山田はあまのじゃくであった。登ってきた同じ道を下るのは面白くない。持ってきていた地形図を見て、東のピークから尾根を下りて林道に出ようと考えた。地図上に道の表記はないが、たかが高低差100mどこでも下りていけば林道に出るだろう。

 登山道から樹林帯へと突っ込んだ。初めは木々の間をすり抜ければ良かったが、大きな岩が出てきて、これを巻くことにした。岩を巻くと尾根が結構上に見えた。登り返せば尾根に戻れるが、このまま下ることに方針変更した。木々の間に下草が増えていき、その木々もやがてぽつぽつと消えていった。残ったのは固く細い背丈を越える根曲がり竹の密集地であった。

群生は足が土の地面を捉えることができないほどで、掻き分けるのは至難の技であった。こうなれば斜面を横切ることなどできずなかなか前に進まない。手を使って竹の目を分けることもかなわなく、頭と体重により少しのスペースを作り、そこに体をねじ込む。たまに足が竹に取られずり落ち、分けた竹の還りにより、ほほを打った。少しは覚悟してのコース選択であったが、すぐに後悔した。全身を使っているため、真上に登った太陽の熱気を受け、疲労は大概であった。座ることのできない藪の中で持ってきた水を飲み時間を確認すれば、登山道を離れてからもう40分も経っていた。


 こうなれば、もう自分で活路を切り開くわけでなく、とにかくもがいて惰性で少しづづ少しづつ進むだけであった。振り返っても振り返っても全く動いていないように感じた。どこを歩いているか地図を見てもさっぱり分からない。このまま遭難してしまうのかとも頭をよぎった。

 斜面が緩くなってきたと感じた時、先の方に光の隙間が見える気がした。あそこで林道に出る。そう信じてその方向に進むと、徐々に光の幅が大きくなってきた。山田はこれで助かったと安心しきった。最後の藪を掻きわけ抜け出たら、ぽっかりと広場のような場所に。

「あっ、何だここは?」

広場は直径30mくらいに藪を刈払われているようであり、その地面には薄紫の花が何百本も咲いていた。

「えぇえ?花畑?これは野生の仕業か?」

今までとは全く違う世界に来た山田は不思議がった。花畑をうろうろと観察していた山田はそうでないと気付いた。ビールの空き缶が落ちていたのである。誰かが育てているに違いない。そう思うとすぐに林道へ出れると確信できた。薄紫の花弁は太陽に向い目いっぱい開いているように見え、素人ながら出荷のピークではないかと思ったが、刈り取られたところが無い。手入れに通ったであろう道を探したが、広場に切れ目が無い。それとももう何年も手入れもされていない畑なのかとも不安であったが、少しの隙間を頼りに再び藪に分け入った。沢の雰囲気が出てきて、水も流れ出した。

 その水の流れに進むと、あぜ道のようになった。久しぶりの道に心も踊り、藪でボロボロになった体を気にせず道を辿り下りていった。と、今度は確実にミカンの果樹園となり、その先に人が手入れしているのがわかった。

「ありゃ、りゃ。どこからきたんや?」

「いやあ、迷っちゃって。このままいけば林道に出れますよね。」

「大変だったのう、すぐそこじゃ。歩いて宮森まで行くんか?」

宮森はこの先にある島の町だそうだが、車を林道に止めてあることを言うと、

「よし、そこまで送っちゃろ。」

「え、いいんですか。」

藪を漕ぎ疲れ果てていた山田は遠慮なく申し出に甘えることにした。


「丁度休憩しよ思ってたんじゃ。七国見は大概向こうから登るんや。」

お決まりの白い軽トラックであった。山田は不思議な光景を思い出した。

「ところでさっきの山の奥に花畑のようなところがあったのですが?」

運転するおやじは、少し話の間が空いたような気がした。

「・・・そんなもの、ありゃせん。」

 それからも、話が出てこなかったが、すぐに自分の車のところまで来た。

「どうもありがとうございました。本当に助かりました。」

「いや、ええきに。」と短い言葉を残し、来た道を帰って行った。

山田は同じ道を進み、先ほどの畑の横を通ったが、あのおやじの車は無かった。

(休憩だと言っていたが、一度自宅かどこかにもどったのかな。)


「こら、お前、島で花畑を見たそうやな。」

頭に覆われていた袋が取られた。そこは倉庫のような建物の中で、自分の車もその大きな扉の中に止まっていた。男は4人とまた増えていて、4人とも何か常人ではない雰囲気を出していた。

「なんの花畑やと思う。」「?・・・」

「あへんそうや。」「あへん?・・・ケシか。」

「ご名答。」「・・・」(えらいことになった。あのおやじが連絡したんだな。)

「あんたをどうすると思う?」「えっ、まさか。」

「へ、へー。そう、殺して山に埋めるのは簡単じゃ。この島は田舎じゃけんのぉ。」

「・・・勘弁して下さいよ。」

「ふーん。どうしようかのぉ。わしらもここを任されてから退屈しとったんじゃ。」

「・・・」山田は今まで人ごとのように思えていたが、身の危険を意識し急に震え出した。

「ここは、大声出してもかまわんよ。」

「・・・」山田はすでに承知していた。車に乗せられて、しばらくしてから、砂利道になった。その砂利道に入ってからも20分くらいは走ってきたように感じた。

「しかし、良かったのう。福岡の山田さん。・・・わしらも捕まりたくなくてな。あんたを殺して行方不明になったら本当の警察が捜しよる。するとここも花畑もばれてしまうんや。」

「そ、そうですか。じゃあ。・・・」

「あんた、島で花畑見たか?」

「・・・はっ、見てません見てません。」

「そうじゃろぉ。そうじゃろう。でもまさか、カメラで撮ってるんやないか?」

別の男が山田の車の中の荷物からカメラを持ってきた。

「あっ、・・・」

男の言うとおり、珍しかったので3枚ほど撮影していた。

「・・・それ私のじゃありません。」

「わっはっはあ。割とかしこいのぉ。それじゃこれはもらっとこ。」

「さて、どうしようかの。ヤク中にするのも時間かかるし。」

「あのっ、だっ、誰にも言いませんから。何もみてませんからぁ。」

「ほんまけぇ。福岡県福津市の山田芳樹さん。」

「あっ・・・」

「ほな、帰ってもらいましょか。わかっているやろな、あんたの素性はすぐわかるんや。かわいい娘がおるかもしれん。職場では部長なんて呼ばれてるかもな。」

山田はがんがんとすごまれるより、いろんな危険が想像されて心底恐ろしく感じた。

と、いきなり左腕を取られ、手の平に車のシガーライターを押しつけられた。

「ぎゃあー。」今度は大声をあげた。

「指ぃ、落としてもよかったんじゃが、・・・もし思い出しそうになったら痕ぉ見てこらえるんや。できるかぁ、山田芳樹さん。」

「は、はい。」泣きながら答えた。

「ええか、病院にいったらあかんで、こんなん冷やしとけばすぐなおるからよぉ。」



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