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藪に道なし (その1/3)

登山者にとっては、行く道の状況がその後の行動時間を左右する。

道の傾斜、平坦なのか、登り下りがあるのか。

道の広さ、行き交いができるのか、ナイフリッジになっていないか。

道の状況、足元のグリップは効くのか、ぬかるみはどうか。

道の周囲の木々、道に被さっていないか、目線に突き出していないか。


ただ、それを道と呼ぶか、そうでないかは、人それぞれの基準で異なる。



『とびしま海道』というのを知っている人は限られているであろう。瀬戸内海の島をつなぐ道である。本州と四国を結ぶ本四連絡道路というのは3ルートであり、1988年開通の児島-坂出ルート、1998年開通の神戸-鳴門ルート、翌年1999年開通の尾道-今治ルート(しまなみ海道)となる。

『とびしま海道』は、裏しまなみ海道とも揶揄されるが、尾道より西の呉市川尻町より安芸灘大橋により、下蒲刈島へ渡っている。四国本島に繋がっていないが、愛媛県今治市となる岡村島まで、段階的に橋が渡され、上蒲刈島と豊島を渡る豊島大橋が2008年に開通されている。



 山田は、七月の休みを利用して、“七国見山”の登山を計画した。

“七国見山”、瀬戸内に浮かぶ上蒲刈島にあり、標高457mの低山である。なんとなく山名にひかれただけではあった。国見山という山は日本各地にあって、そこに上がれば自国が見渡せたのであろう。また、三国山とういう山も各地にあり、その頂が三国の堺をなしていた。それに比べ豪勢な名をつけた“七国見山”、周防、安芸、備後、備中、豊後、伊予、讃岐の七国が見えるという云われからの命名であった。


 山田は自分の名前がありきたりで、変わった名前にあこがれもした。二人だと どっちの山田?、3人以上だと どの山田?、あの山田?、こっちの山田?と、特定が難しいようで、ほかの山田とは、なるべく同じカテゴリーにはまらないようにもしてきた。中学の時は、サッカー部に入りたかったのだが、あっちの山田が先に入部を表明しており、野外活動部なる中途半端なクラブを選んだことを今でも後悔している。まあ、そのことが今回の〝七国見山“の選択に関係あるとは言い切れないが。


 

“七国見山”の登山ルートは南側のウォーキングセンターから観音堂を経由する観音コースが主である。あまのじゃくである山田は地図を見て、島の北側の標高300mに敷設された林道から最短コースで頂上に向う道を見つけた。広島市のホテルに前泊した山田は、朝早く車で上蒲刈島を目指した。天気良く瀬戸内の海はギラギラと朝日を浴びていた。1時間半ほどで上蒲刈島に入り、ナビを頼りに林道の入り口を探した。斜めに入る道が分かりにくかったがナビ上の地図にのっかることができ、目的地である最短登山口に着いた。

 林道は、途中車を止め道路に横たわる倒木をどかすなどして、地元の人もほとんど使っていないように思われた。駐車スペースがあるか心配であったが、1200㏄の車1台がやっとのマムシでもすぐに出てきそうな沢筋に駐車した。


 行動食となる飴と飲み水500ccだけを持って、登山道に入った。道はかつて整備されていたのであろう、ところどころで『蒲刈ふるさと自然のみち 支線コース』なるタグが丸太杭に打ち付けられていた。ただ、倒木が横切っていたり、丸太階段が流されていたりして、現在ではほとんど歩かれていない雰囲気であった。夏の瀬戸内の日差しは木々によりさえぎられていた。

高低差100m、水平距離で400mほどで稜線の登山道に出会い、そこから西へ200mで三角点のある頂上の展望台にあっけなく着いた。駐車したところから20分ほどであった。稜線の道は軽自動車が通れるくらいの幅があり、こちらは常に整備している感じがした。


 展望台から七国を見ようとしたが、南の四国側だけが開けており、北の本州側は樹木により全くの展望が無かった。このままでは七国見の名に偽りありと、来た道より先の西へ少し進んだり、帰りも分岐を過ぎ東のピークまで歩いたが、北方向は望めず、南へと下る一方だったのであきらめた。


 下山後は、せっかくここまで来たこともあり、観光気分で、広島-愛媛県境を越え岡村島までドライブした。海岸では広島からでも来たのであろう海水浴客が多くキャンプしていたが、基本的にのどかな島々である。岡村島へ渡る岡村大橋はわずか228mで2車線ぎりぎりの幅であり、県境の印が橋に表示されている。海の青、島の緑、空の青と吹きぬける潮風も爽快である。


 岡村島からの帰り、大崎下島に渡ったところに、海の駅の看板を見つけた。食事と土産でもと立ち寄ることにした。そこは小長港というフェリー乗り場に隣接した『ゆたか海の駅 とびしま館』という施設であった。フェリーは、橋で繋がっていない大島上島への1路線だけである。食事をしようとしたが、先客の多くがまだ注文品を待っている状態だったので、缶コーヒーだけで食事を先送りすることにした。


 車に戻りエンジンをかけようとしたら、「コン、コン」と窓ガラスをたたく男がいた。なにかなと窓ガラスを下ろした。

「あ、すいません。呉の警察ですが、今県外ナンバーの車に声をかけておりまして。」

スーツの男と作業服風の男の二人が立っていた。

「やあ、お手間は取らせません。少しお話を。」

「なにかありました?」としぶしぶ車を降りると、

「観光シーズンなもので、免許証を。」

スーツ姿の男に財布から免許証を手渡した。

「福岡の山田さんね。」

もちろん免許証を見ればわかる。

「ちょっとこちらへ。」

作業員風の男がやや強引に、後ろの駐車ラインに引っ張っていった。

「おい、この車に乗れ。」

「え、何を・・・」

口も抑え込まれ、黒いワゴン車に引っ張り込まれた。その車は別の男が運転席に座っていた。と、突然袋のようなものを被らされた。

「後で説明しちゃるきに、静かにせい。」

すごむ声であった。刃物でも突き付けられている気がした。



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