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商談  (その5/5)

 山尾が県警に出向いてから3日空いたが、静岡県警の刑事が二人いきなり訪ねてきた。

「あっ、山尾さん。犯人を捕まえましたよ。」

「な、なんて。」

「ご説明に伺いました。お時間ありますか。」

「も、もちろん。どうぞ。」


「真犯人は19歳の少年でした。」

「私じゃなかったのですね。」

「その節は申し訳ありません。・・・あれからずっと現場付近で網を張ってましてね。」


 少年は、沼津市の専門学校に通っていた。先週の木曜日は、朝九時に目が覚めた。部屋の中が荒れたアパートの一室である。

(どうせ学校は遅刻だな。また、あそこへ吸いに行くか。)

 少年はバイクにまたがった。裾野市から県道24号を北上し、須山の交差点を直進、国道469号に入った。目的地に着いたのは、午前十一時前、いつものようにバイクを止め、電波塔の基礎コンクリート部に座り込んだ。

 スマートフォンからイヤホンでお気に入りのヒップホップを聴き、ジャケットの内ポケットから銀の小袋を取り出した。

 少年は脱法ハーブの常習者であった。部屋で吸っていると周りの物を破壊するので、十里木高原の林道をバイクで上がるのであった。

 吸引し始めてしばらくすると、体の中の台風が音楽に合わせ踊っているような押し上げる感覚になり、聞いていたヒップホップのイヤホンを引っ張り外した。

 しばらくして、よだれを垂れ、ウトウトと、しかし妄想が頭の中を巡っている時であった。“ザクッ、ザクッ”とほぼ一定間隔で近づいてくる音が聞こえた。ものすごい恐怖感を覚え、その音のする方から逃げるように、よたついている足で身を隠した。

 岡川が山から下りてきたのであった。展望台で止まった足音に、少年はいつの間にか握っていた鉄パイプで殴りつけた。すぐに動かなくなった体を足でススキの谷に落としたのであった。

 自分を襲うものがいなくなったことを確信した少年は、定位置に戻り再び座り込んだ。


 昨日も、天気が良く、少年は同じように出かけた。同じ場所にバイクを停め、同じ場所に座ってイヤホンを耳にはめた。

「おいっ、そこで何しているんだ。」

 振り返ると青いつなぎを着た男が二人こちらに迫ってきた。静岡県警の捜査員であった。

「持っているものを見せてみろ。」

やけに高圧的であった。と、銀の袋を取り上げられた。

「これは、危険ドラッグだな。」

「い、いや、これは合法だって店の人が、・・・」

「わかった、後でその店も案内してもらうから。」

「あっ、いっ、いや。」

四の五を云う間は無かった。そのまま静岡県警まで連行された。

 

 凶器の鉄パイプは、その前に発見されていた。遺体の20m下方に放り投げられていたのを、捜査員が回収していた。 岡川の血痕のついたそれは、バイクのグローブを外した少年の指紋がしっかり付いていた。

「お前、先週の木曜日あそこの展望台で人を殴り殺しただろう。」

 もう確実であったが、

「いや、そんなことは絶対していません。」

凶器の指紋のことを聞かされても、認めなかった。薬物にラリっていた少年は、夢かうつつか幻か、境界線が無かったのである。


 その後、山尾に電話が入った。不動産会社の社長からであった。

(大変だったねえ。)

(いえ、・・・)

(さぞかし、心労をしただろうに。)

(いえ、なんとかもう、・・・)

(また、こちらに遊びに来てくれないか。)

(はい、えっ?)

(仕事を、名古屋ホテルの改装を手伝ってくれないか。)

(えっ? どういう・・・、本当ですか?)


 山尾は、再び〈越前山〉へ一人で登った。登る途中の展望台で花を供えた。岡川の考えた再試験合格を知ることはなく、理不尽な憎い先生であったが、結果は思うようになり、命を落とした憐れみからの思いであろうか。


 今回は靴ずれもなく登った頂上で振り返り、頭を白くした富士山に感動した。

(先生、天気がよくすごい迫力ですね。・・・悪いけど合格しましたよ。)



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