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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

下っぱ、おしまい。

作者: 佐伯
掲載日:2013/04/06

結局俺は

どこかでクラクションを鳴らす音がした。それは、味気ない街の雑踏に別の色を与えた。

淡白な音だが、誰かの苛立ちだ。

それを別な物に例えるなら、指をトントンとか、貧乏揺すり。

同列に並ぶ、ロクなもんじゃない。

不必要な催促だ。

催促か、督促か。まあ集金だ。

集金ねぇ。

ヤクザ流のは、違法だから、一般寄りになった。だからって舐められちゃいけない。

微妙なニュアンスでやるんだ。

時には刃物の様な雰囲気で……。

くだらない連想をしながら、俺は歩いていた。


「加藤」

振り向くと、尖った奴がいた。細身だから、そう思うのか。もちろん先が尖っているわけでなく、雰囲気だ。喩えばその造形が尖っていたとしたら、こいつは頭が尖っていて欲しい、取り返しのつかないビジュアルになればいい。


「屋島」

俺が目を合わせると、奴は顔を緩ませた。「どうだい、景気は?」


奴はにやける。

俺は、ため息をつき。

「……いいわけないだろ」と言った。


「だろうな」「あ?」俺は胸を掴む。


屋島は俺の腕を制す。

「いきり立つなよ、俺はお前を助けに来たんだから」


「なんだよ……それ?」

「まあ、聞けよ」

なんだとぉ、

俺の眉間にシワが寄った。


その様子に奴は薄ら笑った。



「笹川が今日殺される」

「?」アニキの事だ。


「犯人はお前だ」

「……」


「そう言う事だ。取り敢えず任せろ」


『なにを言ってるかわからないだろうが、うまくやってやる。信用しろ』

うまくやる、か……。



**

俺が事務所に戻ると、笹川のアニキが頭から血を流していた。血の乾きからして、1時間は経っている。凶器は、ガラスの灰皿か。


腰を落とし『それ』を持ち上げ、眺める。


「犯人は鈍器の用なもので、被害者の頭部を何度も何度も叩きました。即死ではなかったでしょう。被害者は痛みに次ぐ痛み、やがて絶命しました。最後に思い出したのは、援交に明け暮れる娘? 自分に似た出来の悪い息子? それとも、いつもいびっている舎弟?」


「俺には、興味ねえな」

ああ、百万の机だって自慢していた。

思い出したよ。

灰皿の角がぶつかって傷になったけど、もう死んでるからいいよな。

俺は机に腰を下ろしタバコに火をつけた。

ぷふうと吐き出す煙は、天井に登っていく。



思えば、


思えば、笹川さんとは8年の付き合いだ。長い付き合いだ。『加藤!!』あの怒声が耳に残っている。

そうだなあ、

これは。

俺は目を細め、タバコを眺める。

これは、線香の代わり、あんたには『悪香』で十分だ。


俺はポケットに手を突っ込み、屋島に電話をかける。呼び出しのコール音は、俺を懐かしい気持ちにさせた。


それは時間にすると数秒の事……


(1)

高校ではだいたい寝ていたなあ。1時から朝刊準備があったからさ。それでも留年せず、卒業できたのは、俺の親友の存在が大きかった。


**

「由紀夫」俺は名前を呼ばれ振り向いた。


タケルは目が合うとふふ、と笑った。

「なんだよ」

「用がなければ、呼んじゃダメ」

「……ダメだ」


「そんな、つれないの」


オカマのタケルちゃん。しなっと、歩くその姿は、そのあだ名を強く連想させた。

「ねえ、ご飯作ってあげよっか?」

「今日はいらない」


「途中まで一緒に帰っていい?」

「ああ」

「学校、卒業だね」

「ああ」

「寂しい?」

「別に」

タケルは、僕は……僕は寂しいな。ボソリと言った。


「由紀夫、卒業後、何するの?」

「新聞配達、今の集配プラス、勧誘。勧誘なんてやったことないけど、他の仕事、俺にはできないよ。寮もボロだけど愛着あるし」


「そう」


「タケルは大学だろ? 東京の」


「うん」

「頑張れよ」


「うん」


男2人の影は夕日で伸びていた。

寄り添っては、ちょっと気持ち悪い、けれど。


「タケル、今までありがとう」

「うん、寂しいな」


「向こうに行っても、そのなんだ、元気でな」

「うん、ありがとう」


**

翌日、タケルは、学校の屋上から飛び降りた。跡は、黄色いテープで封鎖され、中央はブルーシートで覆われていた。


**

「事件ね」

俺の背後から、彼女は顔を出した。

「オカマのタケル、いじめかしら、そうすると……」

「てめえ、誰だよ」

「私?」

「クラスメイトでしょ? お忘れ」

腰に手を当てた女は、美人の部類だった。

「……」

俺は教室に向かう。

「ああん、どこに行くの」


「……」


**

「あれ、今日は寝てないの?」

「……」


「朝会ったじゃない?」


「そういうことじゃねえよ、絡んでくるな」


「犯人、知りたくない? 屋島先輩を殺した?」

得意げな顔、犯人。タケルを殺した?


「あらためまして。私、ユウキと申します」


「さて、この事件のポイントはなんだと思う」

「?」

「屋上から落ちた。落とされた。

犯人と、名探偵の私が言うからに、落とされた前提で話すわ」

彼女は後ろに手を組み、


「まず容疑者ね。


1.いじめていた。佐川洋太郎

2.教師の、高梨秀夫

3.彼の姉弟の屋島瞳


」


「次に舞台ね、屋上。5限目が終わる時には封鎖されるわ、内側からね。この際の内側とは、校舎側」


「そして、被害者には抵抗の痕がなかった」

ふうと、鼻息を零す。


「で?」

……。


「一緒に考えましょう」


「……」


はぁ。

「真相は、俺の胸の中だ。そして、謎はない。だから、茶化すな」


「ええ、つまんない」むくれながら、彼女は自分の席に着く。


「謎、か……」彼女の背中に呟いた。


(2)

「もしもし」ハスキーな屋島の声が聞こえる。

「瞳」


深いため息が聞こえる。

「どうなのか、お前みたいなクズは葬るべきかな?」

俺は喉を鳴らす。


「指紋は残した」


「そうか、こちらも、お前の死体を用意した」


「……ありがとう。さよならだ」


「んーだな」


「愛してたぜ、瞳」


「ばーか」


照れた、あの顔が浮かぶ、タケルに似た。


オカマのタケルちゃんは、女になれない自分に、親友にしかなれない自分に、絶望して、飛び降りましたとさ。

恋愛至上主義とでもいうのかな。

別に想いなんて叶わなくてもいいのに、『それ』に追い込まれなくてもいいのに、

話は変わるが、俺はたまにタバコを吸っている幸せを噛みしめる事がある。社会悪と言われんばかりのものは、ささやかな何かを俺にくれるのだろう。


魂と言える存在があり、輪廻が有るなら、もう一度人間に生まれておいで、

ついでにアニキも。


俺は、短くなったタバコを咥え、部屋を出た、『悪香』を肺に吸い込み。口角を上げた。

ネオン輝くこの街は悪くない。平和ボケと言われようがこの国も上等だ。


フィルターの焼けたタバコが口からこぼれる。


「バイバイ日本」


【おわり】

自分以外興味がない

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