ダンスパーティー
当然のように夜のパーティーではもともと与えられていた仕事を取り消されることとなった。昼間の件で上から怒られた俺はパーティーの間、仕事をさせてもらえないだけでなく、城内への立入禁止となった。
城内に入れないとすると、一体どうすればいいのだろう。
庭の仕事をしていたが、途中でそれさえも邪魔だという理由でさせてもらえず結局使用人べやで一人悩むこととなった。
「城内立ち入り禁止かーお前一体何やったんだ?」
部屋に戻ってきた使用人仲間が俺の肩に腕を回して話しかけてきた。
「別に。ただ姫さまとお話しをしていただけですよ。」
「懲りないやつだねーお前も。」
そういって、着替えてパーティー会場の装飾準備があるとかいってすぐに出て行ってしまった。
ダンスパーティー。私があまり得意とするとしないものの一つです。
「まぁ、姫さま。今日のドレスもとても素敵ですわ。」
「ありがとうございます、あなたのその紫のドレスとてもお綺麗ですわ。」
こんな会話をもう今日まだ始まって一時間もしていないのに何度としてきました。
それからもう一つ私の苦手なものがあります。
「これはこれは姫さま。今日もよく晴れたいい日でしたね。だから今日僕は馬に乗って草原を散歩しましたよ。今度姫様もうちの城に来てくれると嬉しいんだが。そしたら、一緒に乗馬を楽しみましょうよ。もしやったことがなければ僕が教えますから。」
「ありがとうございます、王子。是非そうさせていただきたいわ。」
たくさんの人たちに話しかけられることです。特に男性の方と話すのが得意ではないです。
「やぁ姫様。今日のその真っ赤なドレスあなたにとても似合っている。赤は僕の好きな色でもあるから、なんだか親近感が沸くよ。」
「ありがとうございます。あの、すみません、少し席を外させていただきます。」
彼女ははなんとかテラスに逃げられました。多くのの男性が、姫と結婚してこの国の王になること、または自国の領土を広げることを目的として近付いて来ることが彼女にはありありとわかってしまい、男性、特に王子と話すことが苦手になってしまいました。
彼女がテラスから空を見上げると満天の星空が広がっていました。ふと、物音が聞こえた気がしてテラスの下を眺めました。ここのテラスの下は中庭となっており、今は城の者は皆城内にいるはずでだれも中庭にはいないはずです。
中庭は真っ暗でよく目を凝らさないと何も見えない状況で、目が慣れてくると次第に人が動いているのがぼんやりと見えてきました。
あ。。。
そこには彼女に一番近い召使がいました。彼は暗闇の中剣を振り回していて、剣術練習をしているのだと分かり、それから暗いというにもかかわらず彼が楽しそうに剣術練習をしているのが分かりました。
今日、彼がこうして屋敷外に追いやられているのは昼間自分といたから。そのバツとして場内立ち入り禁止にされたのだ、とパーティーの準備の時に執事に教えられていたので、まさかこんな形で彼の姿を捉えることができるとは思って見なかったので彼女はとても驚きました。
驚き、嬉しさ、申し訳なさ。
彼女の中にできた感情はこの三つがぐるぐると混ざったもので。
それでもやはり一番大きくはみ出してきた感情は嬉しさで。
今まで何度となく考えたこと。考えて考えて考えて。
結局答えの見つからなかったもの。
どうしたら、誰にも邪魔されずに、堂々と彼のとなりで笑えることができる?
剣を振り回す姿はとても無邪気で、心から楽しんでいるように思えました。それが正しい剣の振り方なのか、型にはまっているのかは全くわかりませんが、彼のその楽しそうな姿を見て姫さまは先ほどの暗鬱な気持ちが晴れていく気がしました。
「やぁ、姫様こんばんは。彼は一体何故城の外に出てあんなところで剣を振り回しているのかな?」
手すりからかなり身を乗り出して下を覗き込んでいたため、彼女の近くに近づいて来る人物に全く気づきませんでした。
「きゃっ」
驚いてバランスを崩しかけた彼女を支えるように、近づいてきた人物は彼女を丁寧にテラスへと着地させました。
見上げると、そこにはかなり身長の高い男性がたっていました。パーティーにはふさわしくないまるで騎士のような服装に黒地に金の刺繍の入ったマントに身を包んでいました。
「驚かせてしまって申し訳ございません。私、山二ツ超えたところの国の騎士団の隊長を勤めておりまして、自国の姫の護衛としてこちらに参ったのですが。」
そこまで話すと、一旦言葉をおいて困ったような笑みで部屋の中を指差しながら、
「あのような場所は変に疲れますね。」
その仕草が、自己紹介の中にあった「騎士団の隊長」とはかけ離れた態度だったので姫さまは面白くてつい微笑みました。
それから、この愉快な騎士団隊長に彼がどうしてなかには入れないのか、今日のパーティーである自分がなぜ中に入らないのか、反対に隊長の国の姫はどういう人なのか、などをお互いに話しました。
「ところで姫様、彼はどこで剣術を習ったのでしょうか?」
「私も初めてあのような彼の姿を見たので知らないのです。彼の剣術の腕はあなたから見てどう思われますか?」
うーん、と腕を組んで悩むような態度を取ったあと、中庭から目線を姫に移して意地悪な笑とともに彼は唐突に言いました。
「姫様は彼に特別な感情を抱いておりますね?」
「え?」
あまりにもいきなりな返事で、しかも話題がガラリと変わり、そして誰にも触れられたことのない話題へ。
驚いて目を見開いて彼を見れば、やはりまだ意地悪な笑のままで。
「あなたのおかげで退屈な時間がとても楽しい時間に変わりました。ありがとうございます。パーティーももう終わりの時間ですよね?では私はこれにて護衛に戻ります。ばいー。」
まだ何も返せていない彼女にひらひらと手を振って、背の高い意地悪な彼はパーティー会場へと戻って行きました。
バレた?
パーティーも終わりどき。パーティー主催の王様の挨拶。姫様相変わらずの思考停止状態。顔面蒼白。
「バレたらまずいこと?俺は別にいいと思うんだけど、姫どう思う?」
周りから頭一つ飛び抜けた長身の護衛が、となりに立って王様の挨拶をつまんなさそうに聞いている振りをしている、周りから頭一つ背の低い姫に話しかけました。
「あたしもテラスに行けばよかったぁ。あの姫様とお話したかったぁ。サンタの話しつまんなーい。」
「はいはい、ごめんなさいってば。そして、王様のこといくら太ってて白いひげ生やしているからってサンタとか言わないの。ところで俺の話聞いてました?」
「だいたい護衛が護衛してないってどういうこと?あんた一応隊長よね?サボりじゃん、帰ったらパパにチクるー」
「こらこら、姫ぇー。姫なんだから、サボりとかチクるとか言葉遣いが汚い言葉使っちゃダメですよっ。」
「自分のこと棚に上げてるぅ。ずるいー。」
王様が話しているのにもかかわらずに堂々と会話をする二人。
流石にそろそろ、周りの目線が気になったためサンタのつまらない話を聞くことにした。
「今日はね、えー、遠いところからね、えーわざわざ来てくれてね、えーありがとうね。」
会場中から拍手が沸き起こる。
「なんで拍手?‘えーが多いで賞’授賞式?」
「ひーめっ、ダメだってそんなこと言ったら。みんな同じこと思っていらっしゃるけれど我慢して、王様の挨拶素晴らしいよ~って拍手しなさっているのだから。」
相変わらずの周りの目を気にしない態度で適当な会話をしていた二人だが、王様の次の言葉には流石
に二人も一瞬凍りつくこととなった。
「最後に、我が娘の姫が今夜のダンスパーティーで許婚を決められた。こんな嬉しいことはない。みなからも祝福してやって欲しい。」
寝耳に水の姫は突然のことに父である王を凝視し、先ほどよりももっと顔色が優れない状態になった。
「どうして、、、」
勝手に話が勧められたことだとは知らない会場の人々からは先ほどよりも一層大きく盛大な拍手が送られた。そんな拍手なんていらないとばかりに俯く姫さま。彼女は相手の顔も名前も知らないだろう。パーティーの最中に相手を決めたなんて嘘同然。彼女のいないところで隠れて話が決まったに違いない。
「おいおい。俺この展開は望んでなかったなぁ。」
「これじゃあ姫様がお可哀想よぉ。そんなのんきなこと言って、どうせ何か手立てがもうあるんでしょ?私もこの先は全く期待していないわぁ。できそう?」
「さすが。俺のことよくわかっていらっしゃってくれますねぇ。俺これから勝手に動くんで、姫は他の護衛と先に帰っていただけますか?」
「結局私の護衛はしないのねぇ、まぁいいわ。姫様の幸せのためによろしくね。」
拍手のやまない会場の中、大きな騎士と小さな姫はお互いに背を向けてそれぞれの行動のため歩き出
した。