人のモノ盗っちゃいけねえっつったよなあ?
アマツ諸島の片隅の、とある小島。
そこは領主と同等の権力を持つ、裏の権力者が経済も治安も握っている状態で。
しかし代々の権力者は身内には優しいので、島民から過剰に嫌われる事なく。
金銭を過剰にむしり取るようなこともないので、平和な状態が続いている。
その十八代目、トウイチロウは、三人の息子と二人の娘を持つ大家族の長でもあるのだが、ある日娘たちの空気が悪いことに気が付いた。
そこで、まずは気性がおっとりした長女にこっそり話を聞いた。
「アズサよう。オメェ、アンズと感じ悪いじゃねえか。
何かあったんならとうちゃんに言ってみろ」
「……そんじゃ言うけど。あたしの男、あいつに寝取られたの。
酒飲まして、ぐでぐでになったとこを襲われたって。
その癖処女だってウソついて責任取れって」
「はァ?あいつは十歳の時に付き合った男で散らしてんだろうが」
「そうなの。だからムカついて口きいてないの」
トウイチロウは激怒した。
ビキビキッ!と青筋の浮いた額を見たアズサが止めるよりも早く、食後の団欒に勤しんでいたアンズの首をひっつかみ、壁際に押し付けた。
「が、と、とう、ちゃん」
「オメェよぉ。
酒飲まして酔った男に跨って交尾するのはまだいいけどよ。
姉ちゃんの男に跨っちゃいけねえって分かんなかったか?おう?」
「だ、だって、いい、おと、こ、で」
「ヒト様のモンに手ェ出すんじゃねえって父ちゃんは小せえ頃から耳にタコ出来るくらい言ってきたよなあ?」
ぐいぐいと壁に首を押し付けられることでアンズはどんどん顔色が悪くなる。
窒息して意識が落ちるかどうかというところでパッと離し、ゲホゲホと咳き込む娘の襟ぐらを掴み、顔を起こさせる。
姉のアズサは気立ての良さそうな美人だが、アンズは我儘そうだが可愛い顔をしている。
その顔も顔面蒼白でよだれが垂れるのも構わず咳き込んでいるとなると大分醜女だが。
「オメェ、そこまで男が好きなら父ちゃんがいい仕事に就かしてやるよ。
娼館だ。毎日男と酒飲んで寝られて幸せだろ?
オメェくらいの顔ならそのうちいい旦那に水揚げしてもらえんだろ。
父ちゃんが話つけてやっから今から行くべ」
「え……」
「アズサよう。それでいいよな?
妹のハレの出発だ、セガレよ、祝い酒買ってきてくんな。
かあちゃんは宴会の準備しておくんなさいよ」
その後。
アンズは縄で手足を縛られた状態でトウイチロウに担ぎ上げられ、場末の娼館に引き渡された。
手前の娘だが男好きなのでよく働くと思うから働かせてやっておくんなさい、と、頭を下げて、だ。
裏を牛耳る権力者が頭を下げたのだから、その娘が喚いていてもお構いなしに娼館の主は引き取った。
そのうえで、痣や傷跡こそ残らないが痛みはしつこく残る加減で「シツケ」をし、泣き伏せるアンズに
「お前はトウイチロウさんに捨てられちまったんだよ。
帰る家なんざなくなっちまったんだから、必死に尻と腰を振って客引きな。
何して見捨てられたか具体的には知らないけど、男絡みだろ。
ウチで問題起こしたらどんな目に遭うか、知りたくなきゃ先輩に媚び売るんだね」
そう告げ、ちょうど空いていた新人用の空き部屋にアンズを放り込んだ。
その頃には暴力を受けたショックや娼館に押し込まれた衝撃から立ち直ったアンズは、ああ姉ちゃんの男なんか寝取るんじゃなかったと思ったが後悔は先に立たずとはよく言ったもので。
翌日にはトウイチロウの家にはセガレが三人、娘は一人と「正式に」なっていて、アンズのその後は杳として知れない。




