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【2期】Baby Tune 〜謎の少女に人生を破壊されながら頭痛だけは治る件〜  作者: 末紀世(まつきよ)


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8/12

アチキ 何処からきたの?



朝。


京都のホテル。


カーテンの隙間から差し込む光が、やけにまぶしかった。


ユウは目を開けた。


頭が重い。


少しだけ。


「……飲みすぎた」


昨夜の記憶がゆっくり戻ってくる。


焼き鳥。


ビール。


笑い声。


そして――


泣いていた。


安田パイソン。


ユウは横を向いた。


隣のベッド。


そこに――


正座したまま寝ている男。


背筋がまっすぐ。


手は膝の上。


口を半開きにして、静かに寝息を立てている。


ユウはしばらく見つめた。


そして。


「なんでだよ……」


小さくつぶやいた。


---


その時。


ガラッ。


カーテンが勢いよく開いた。


「おはようございます!」


ミナだった。


朝日が一気に部屋に流れ込む。


まぶしい。


「うわっ、まぶし……」


ユウは目を細めた。


パイソンは微動だにしない。


まだ正座している。


ミナが首をかしげる。


「……どういう寝方ですか、それ」


「さあ……」


ユウはため息をついた。


---


ふと。


視線を感じた。


窓際。


チェリが立っていた。


外を見ている。


静かだった。


いつもなら:


- 「朝だぁあああ!!!」

- 「お腹すいた!!!」

- 「今日なにする!?」


と騒ぎ出すはずなのに。


今日は違う。


ユウは少しだけ眉をひそめた。


「どうした?」


チェリは振り向かない。


窓の外。


京都の街を見つめたまま。


小さく。


「ねえ」


間。


「ここさ」


さらに間。


ゆっくり振り向いた。


「どこ?」


沈黙。


ユウは一瞬、言葉に詰まった。


「……京都だよ」


チェリは首をかしげた。


「そうじゃなくて」


少し考えて。


そして。


ぽつりと言った。


---


「アチキ、どこから来たんだろ」


---


部屋が静かになった。


その瞬間。


パイソンが寝言を言った。


「……すまん……」


ユウは思わず吹き出した。


ミナも小さく笑った。


空気が少しだけ軽くなる。


でも。


その言葉は残った。


---


朝食会場。


ホテルのレストラン。


焼き魚の匂い。


味噌汁の湯気。


人の話し声。


いつもの日常。


チェリは元気を取り戻していた。


「これなに!?納豆!?うわぁああああ!!」


「混ぜるんだよ」


「うわぁあああああ!!糸ぉおおおお!!」


ミナが笑う。


パイソンはまだ少し顔色が悪い。


「……二度と飲まん」


「昨日も言ってました」


「本当にだ」


そんなやり取りを聞きながら。


ユウはふと考えていた。


---


どこから来たんだろ。


---


そして。


もう一つ。


胸の奥に浮かぶ疑問。


---


「……なんで」


小さく。


自分にだけ聞こえる声。


---


「俺にだけ見えるんだ?」


---


その瞬間。


ズキン。


こめかみに痛みが走った。


「……っ」


ユウは思わず手を当てた。


チェリがすぐに気づく。


「また痛いの!?」


心配そうな顔。


ユウは苦笑した。


「大丈夫」


でも。


少し冗談っぽく言ってみた。


「なあ」


チェリを見る。


「お前が原因だったりしてな」


笑いながら。


軽く。


からかうように。


そのつもりだった。


---


でも。


チェリは笑わなかった。


動きが止まった。


目が少しだけ揺れた。


そして。


小さく。


本当に小さく。


言った。


---


「……そうだったら」


---


間。


ほんの一秒。


でも長く感じた。


---


「ごめんね」


---


ユウは言葉を失った。


チェリはすぐに笑顔を作った。


「にゃんてぇ〜♪ にひひーっ!!!」


明るく。


いつもの声。


でも。


どこかぎこちない。


ユウは何も言えなかった。


---


夜。


帰りの新幹線。


窓の外。


流れていく景色。


夕焼け。


静かな車内。


今日は騒がしいこともなかった。


珍しく。


本当に。


静かだった。


チェリは窓の外を見ていた。


小さな声。


「ねえ」


ユウは目を閉じたまま答える。


「ん?」


チェリは少しだけ迷った。


そして。


言った。


---


「アチキ、いなくなったら」


---


間。


ほんの少し。


---


「寂しい?」


---


沈黙。


車輪の音だけが響く。


ゴトン。


ゴトン。


ユウは目を開けた。


少し考えた。


そして。


いつもの調子で。


ぶっきらぼうに。


言った。


---


「…うるせー」


---


チェリが少しムッとした顔をする。


でも。


次の言葉を聞いた瞬間。


目を丸くした。


---


「けど困る」


---


短い言葉。


それだけ。


チェリは何も言わなかった。


ただ。


少しだけ。


嬉しそうに笑った。


---


新幹線は。


静かに。


前へ進んでいた。


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