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【2期】Baby Tune 〜謎の少女に人生を破壊されながら頭痛だけは治る件〜  作者: 末紀世(まつきよ)


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2/11

桜木医院


「朝霧さーん」


呼ばれて、ユウは立ち上がった。

体はだるいが、さっきより少しだけ安心している。

診察室のドアをノックする。


「どうぞ」


低い声。


ユウはドアを開けた。


診察室に入ると、院長が回転椅子に座っていた。

こちらに背を向けている。


ユウは一瞬、足を止めた。


(……怒られそう)


これが、ユウが病院へ行きたくない理由の一つだった。

怒られるわけじゃない。

でも、なんとなく怒られそうなのだ。


その時。


椅子が、ゆっくり回った。


くるり。


院長が振り返る。

いつもの、少し訝しげな表情。


「ふむ」


短い声。


ユウは思わず背筋を伸ばした。


「どうした」


「……風邪っぽくて」


院長は腕を組み、じっとユウを見る。


沈黙。


(やっぱり怒られる……)


その時だった。


院長が急に首元を触った。


「あれ?」


もう一度触る。


ない。


もう一度。


ない。


院長の眉が、少しだけ動いた。


「……チェリーちゃん?」


ユウは固まった。


(なんだ?)


院長は少し焦った様子で、診察室の外へ向かって声を上げた。


「チェリーちゃん?アレ持ってきてよアレ」


(なんだよ“チェリーちゃん”て)


数秒後。


ドアが開いた。


そこには、受付で絵の話をしていた女性看護師が立っていた。


「院長!!」


少し呆れた声。


「ちょっとちゃんとして下さいよぉ」


ユウは思わず視線を往復させる。


院長。

看護師。


院長。

看護師。


看護師はため息をつきながら、手に持っていたものを差し出した。


聴診器だった。


「トイレ行く前に外して、洗面台に置きっぱなしでしたよ」


「……おお」


院長はそれを受け取り、少しだけ気まずそうに咳払いをした。


「あと」


看護師は腕を組む。


「チェリーちゃんやめて下さいよ。恥ずかしいんですけど」


少し頬を膨らませる。


院長は一瞬、困った顔をしてから、ユウの方をちらりと見た。


「あぁ、失礼」


小さく咳払い。


「おほん」


そして少しだけ照れくさそうに言った。


「娘なんだよ」


短い沈黙。


ユウは瞬きをした。


「な?」


院長は照れ隠しのように笑う。


「すまんな。どれどれ」


聴診器を首にかけ、いつもの顔に戻る。


「では、診よう」


ユウは小さく頷いた。


診察は手早かった。

喉を見て、胸の音を聞いて、体温を確認する。


「少しこじらせとるな」


「……やっぱり」


院長はカルテを書きながら言った。


「早めに来たのはいい判断だ」


短い言葉。


でも、どこか優しかった。


ユウは少しだけ肩の力が抜けた。


「薬出しておく。無理はするな」


「はい」


診察は終わった。


ユウは軽く頭を下げて、診察室を出た。


少しだけ安心したような、でもまだ体はだるい。

受付で会計を待つ。


奥から、さっきの看護師の声が聞こえた。


「院長!ちゃんと手洗ってくださいよぉ」


「分かっとる」


少し呆れたような、でもどこか楽しそうなやり取り。


ユウは小さく笑った。


その時。


ふと、視線が下に落ちた。


胸元。


白い制服。


小さな名札。


---


桜木 智絵里


---


ユウは一瞬だけ、その文字を見つめた。


どこかで、聞いたことがあるような気がした。


でも。


思い出せない。


「お待たせしました」


顔を上げる。


優しい笑顔。


「お大事にしてくださいね」


ユウは軽く会釈した。


外に出る。


春の風が、少しだけ強く吹いた。


桜が、ひとひら舞った。


何かが、少しだけ引っかかった。


でも。


今はそれより。


「……早く寝よう」


そう呟いて、ユウは歩き出した。


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