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【2期】Baby Tune 〜謎の少女に人生を破壊されながら頭痛だけは治る件〜  作者: 末紀世(まつきよ)


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1/10

少しの違和感と風邪と春。

偏頭痛持ちの主人公 朝霧ユウ。

早春、決算期、無理が祟って風邪をこじらせちまった!



春だった。少し暖かくて、でもまだ風は冷たい。

ユウは鼻をすすった。


「……やっちまったな」


喉が痛い。体もだるい。完全に、風邪だ。


昔の自分なら、きっとこう思っていただろう。

(まあ、寝れば治るか)


でも今は違う。


「……早めに行くか」


そう呟いて、部屋の中を見回す。


「……診察券」


沈黙。


「……どこだ?」


机の上。ない。

棚の上。ない。

カバンの中。ない。


「もー……」


ユウは頭をかいた。


「なんで毎回、隠れるんだよお前……」


引き出しを開ける。ガチャ。


ペン。メモ。よく分からないコード。


「違う」


もう一つ。ガチャ。


書類。封筒。古い領収書。


「違う」


三つ目。ガチャ。


「あった」


診察券。

ユウはそれを掴み、ほっと息をついた。


その時。コトン。


小さなものが、一緒に落ちた。


丸くて。赤くて。


さくらんぼの髪ゴム。


「……?」


ユウはそれを拾い上げる。しばらく見つめる。


「……なんだっけこれ」


思い出そうとする。でも、出てこない。


「……まあいいか」


机の上に置いたまま、診察券をポケットに入れる。

玄関へ向かう。ドアを開ける。


外は、春だった。


少し歩いたところで、ユウは止まった。


「……あ」


ポケットを探る。何もない。


沈黙。


「財布……」


小さく空を見上げる。


「何やってんだ俺……」


ため息。くるりと向きを変えて、家へ戻る。


数分後。再び外へ出る。

今度は財布をしっかり握っている。


「よし」


小さく頷く。

向かう先は、いつもの町医者。


桜木医院


自動ドアが開く。いつもの匂い。少しだけ古い建物の空気。

どこか、安心する。


受付へ向かう。


「すみません……」


診察券を差し出す。

女性スタッフがそれを受け取り、にこっと笑った。


「あ、頭痛はどうですかぁ?」


ユウは一瞬だけ、きょとんとした。


(……なんで頭痛のこと)


でもすぐに納得したように頷く。


「あぁ、えぇ……最近はだいぶ」


「良かったですっ!お待ちくださいね♪」


診察券がトレイの上を滑る。

ユウは軽く頭を下げて、待合室の椅子に座った。


ふと、視線が壁に向く。


そこには、見慣れないものが飾られていた。


さくらんぼ。

赤くて、丸くて、どこか懐かしい。

絵本の一場面のような、小さな絵画。


(……前から、あったっけ)


少し首を傾げる。


「気になります?」


声がした。


振り向く。


そこには、看護師が立っていた。柔らかい笑顔。

どこか、見覚えのある雰囲気。


「それ、院長が好きな絵本の絵なんですよぉ」


少しだけ照れたように笑う。


「顔に似合わず、そういうの好きなんです」


くすっと、小さく笑った。


「小さい頃から、よく読んでくれてました」


その言葉に、胸の奥が少しだけ揺れた。

理由は、分からない。


ただ。


ほんの少しだけ、懐かしい気がした。


「朝霧さーん」


名前を呼ばれる。


ユウは立ち上がる。頭が少し重い。喉も痛い。

でも、それとは別に。


何かが、少しだけ引っかかっていた。


小さな違和感。


でも今は。


「……早く治さないとな」


そう呟いて、診察室のドアを開けた。


外では、桜が少しだけ咲いていた。



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