表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

成長

作者: マーク
掲載日:2026/03/02

『いやー、君ももう入社二年目だねぇ。最初の頃とは見違えたよ』


『そうですか?』


『あぁ。最初の頃は慣れないことが多かったせいなのか、戸惑っていたことが遠目からでも分かったよ』


話しかけんなよ。

臭いよ。


『いやー。成長を感じるねぇ』










『あ゛~』


家だ。やっとだ。

倒れ込むように床で横になる。



……一年前。

仕事ってこんな感じなんだと。

この先を考えるのが辛くなったことを思い出す。


そのときから考えると。

よくやれていると、自分で思う。



…成長、成長か。


私はその言葉が嫌いだった。


いや、その言葉を、物理的なもの以外に使うことが、どうしても嫌いだった。


––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––


『ちょっと  。なんで洗い物してくれなかったわけ?』


『え~?そんなこと言われてない』


『言われなくてもやってよ~。それぐらい』


『それぐらいって言うなら、お母さんがやればいいじゃん』


『そういうことじゃないでしょ?』


『じゃあどういうこと?』


『…はぁ』


『おい。説明の放棄だぞ~』


自分でも分かってた。

ただめんどくさかっただけ。

甘えてただけ。


でも、こんなくだらない話をするのが、私は楽しかった。






ある日。


なんとなく、私は洗い物をしてみた。

それでお母さんがどんな反応をするのか、気になったから。


『あ!洗い物してくれたの?』


『うん。偉いでしょ』


『ありがとう。助かるわ』


嬉しかった。


お母さんの役に立てたことが。

褒められたことが。



それから。

私は、いろいろやった。


学校でも、みんながやりたがらないことを率先してやった。


我ながら単純だと思う。


それでも、間違ってないと、そのときは思ってた。

疑わなかった。





三者面談のときだった。


『  さん。配布物を配るときとか、荷物を運んでほしいとき、率先して手伝ってくれるんです』


その言葉を聞いて、誇らしかった。

やれば評価はついてくる。

そんな実感があった。


『そうなんですね。うちの子、あんまり学校のこと話したがらなくて。こんなときぐらいしか様子を知れないものですから』


『そうなの?  さん』


『わざわざ家で学校のこと話さなくてもいいじゃないですか。必要な連絡はしてますし』


『家でお母さんと話さないわけじゃないんだよね』


『はい』


『お母さんは学校でのことが知りたいみたいなんだけど、話したくないかな』


『…?そんなに気にする必要あります?』


『あぁ、違うの。責めてるわけじゃなくてね。こんなに成長できたんだから、きっと、  さんなら出来るかなって思ったの』


『まぁ…できますけど』


『ほんと?ありがとう』


それで、面談は終わった。





そこから、いつも通りの日々が続いた。

当たり前だけど。


『  。洗濯機回しとくから干しといてもらえる~?』


『はーい』


ハンガーに服を通しながら、鼻歌なんかを歌いながら。


ふと、思った。


私、なんでこんなことやってるんだっけ。


洗濯物を干し終えて、ベランダの手すりに寄りかかる。夕方の風は少し冷たくて、洗剤のにおいがした。


私がやらなくても、別に回ってたはずだよね。


だって、実際私はやってなかったわけだし。


「成長」


そのとき、気づいた。


気付いてしまった。


その言葉を言われる、意味を。


その人の中で、より都合がいい存在になること。

それを、成長したと言うんだと。


………あれ。


それって、嬉しいこと?


忘れ物も減った。空気も読める。

何か頼まれてもきっと、いいよって言う。


成長したね。


それを言う人の目を、私は知っている。


前より手がかからなくなった。前より扱いやすくなった。前より期待通りに動くようになった。


私は、そう言われて、嬉しいの?


––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––


ミスをしなくなった。 文句を言わなくなった。 顔に出さなくなった。 我慢が板についた。


怒る前に、諦めてしまうようになった。


それを成長と呼ぶなら。


私は、成長なんてしたくない。


『…はぁ~~』


大きなため息をついた。


それでも。


成長しないと、世の中うまくはやれない。



それを、知っているから。


褒めるときはね。

頑張ってるねって言うんだよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ