蛙と私の夏日記
井の中の蛙、大海を知
りつつも俺はこの場所が好きなのだと、従容として井の中に住まう。
「へぇ そうなんだ 海っていいところだよ」
私がそう言うと、蛙は顔に付いた雫をそのとぅるんとした手で撫で、こう言った。
「知ってる いいよね 確かに」
「なんだ 知ってるんじゃん 海 行けば?」
「ああ なんていうか 海ってさ」
「うん 海って?」
「だから 海ってさ 淡水じゃないじゃん 魚 怖いし」
「あ そっか 君 淡水じゃなきゃ駄目か そっか 魚も 無理か」
「そーゆーこと」の言葉のあと、蛙飛び込む水の音。
縁側では、ちりんちりんと風鈴が鳴る。
何時の間にか蚊に刺された右肘が少し痒い。
溶けかかった檸檬アイスは、棒を伝って私の人差し指を甘く染めた。
蛙、聞こえるかい。この花火の音。
どーん どーん
大海を知りつつも井の中に住まうことは、矢鱈と責められやしない。