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避けられている、そんな気がしてしまう

教室の空気は、相変わらず。


誰かが笑って、誰かが寝て、誰かが本を読んでいる。


そんな風に、僕もその一部として過ごしているつもりだった。


でも、少しだけ、何かが変わった気がした。


窓際の席、水月さん。


以前よりも僕と目を合わせる回数が減った気がする。


いや、そもそも話しかけてこなくなった。


もしかしたら偶然かもしれない。たまたま、目が合わないだけかもしれない。話す機会がないだけかもしれない。


でも。


それでも。


人の距離って、ほんの少しのことで分かってしまうものらしい。


話さなくても分かる。


声をかけられなくても、何となく感じる。


あ、避けられてるなって。


その日も、美術の授業で提出したデッサンが先生に褒められた。


何人かの女子に声をかけられた。


「笹本くんって、絵うまいんだね」


なんて、笑顔を向けられた。


僕は、ただ


「そうかな」


って返すのがやっとだった。


別に目立ちたいわけじゃないし、絵が特別上手いわけでもない。


それなのに、誰かの注目を浴びてる自分が、やけに落ち着かなかった。


水月さんの視線が気になって、ふとそちらを見る。


でも、彼女は僕を見ていなかった。


いつも通りのように装って、でも僕の存在ごと避けるようなその姿が、変に胸に引っかかった。


気のせいであってほしいと思う自分と、


そうじゃないと分かっている自分がいて。


僕は静かに席に戻った。


そして、誰にも見られないように、そっとため息をついた。


昼休み。


いつもなら、水月さんと一緒に食べることもあった。


別に、毎回ってわけじゃないけど。


でも、たまに


「隣、いい?」


って彼女から言ってきて、僕はそれにうなずくだけで、それだけで満たされるような時間だった。


今日も、彼女の方を見た。


彼女は、もう別の女子グループの輪の中にいた。


笑っていた。


箸を動かしながら、誰かの話に頷いている。


その表情は自然で、僕がいた頃と何も変わらない……はずなのに、どうしてこんなに遠く感じるんだろう。


こっちから声をかければいいんだと思った。


でも、それができないのが僕だ。


タイミングとか、空気とか、言葉の選び方とか。


全部が曖昧で、怖くて、足が止まる。


僕は、ひとりでパンをかじった。


教室の喧騒に紛れて、ひとつも味がしなかった。


午後の授業。


席替えしてから、僕と水月さんの席は離れてしまった。


それが良くなかったのかもしれない。


話す機会が減った。


目が合うことも減った。


だから、きっと距離もできた。……と思いたい。


ふと、黒板の前に立つ先生の声が遠くなる。


横目で、水月さんの方を見る。


彼女はノートを取りながら、真面目に授業を聞いていた。


僕の方なんて見ていない。


……いや、少しだけ、視線を感じた気がする。


でも、次の瞬間にはもう彼女は視線を黒板に戻していた。


僕の思い違いか。


それとも、ほんの一瞬だけこっちを見たのか。


答えはわからない。


それでも、胸の奥に何かが落ちた。


言葉にならないまま、ゆっくりと沈んでいった。

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