アイノカタチ
風の音が強い夜だった。
教室の窓は閉められているのに、外から木々が軋む音が聞こえていた。
ふたりきりの教室。放課後はとうに過ぎて、廊下の明かりも消えている。
静は机にうつ伏せていた。眠ってはいなかった。ただ、身体が動かなかった。
その隣に玲が座っている。窓辺に背をあずけて、外を見つめていた。
「疲れた?」
「……ううん。ちがうの。頭の中が、静かすぎて」
静かすぎて怖いのか、それとも心地よすぎて戻れないのか、判断がつかなかった。
「今日、誰とも話してない」
「私がいるじゃん」
「そうだけど……それが、普通になってきた。なんか……おかしい?」
「ぜんぜん」
玲は変わらず、淡々と応じる。
「静が、自分で選んだんでしょ?」
静は小さくうなずいた。
「……選んだの、かな。本当に」
「うん」
「わたしが“望んで”こうなったの?」
「うん」
玲は笑わない。でも、確かにその言葉には揺るぎがなかった。
「でも、わたし……人を遠ざけて、ひとりになって、あなたしかいなくなって……。それって、わたしが自分を壊したってこと?」
玲は答えなかった。
沈黙。静は顔を上げ、玲を見た。
「ねえ、玲。わたし、あなたに会ってから、全部変わった」
玲はゆっくりと視線を静に向けた。
「もう、もとには戻れないの?」
「戻りたいの?」
静は少し考えて――かぶりを振った。
「ううん。……戻りたくない。だって、あなたがいるから」
静の目は潤んでいた。けれど涙は落ちない。
「……はじめてだったの。誰かに大事にされた気がして。あなたは嘘をつかないし、正しいことばかり言わない。だから……」
手が震えていた。けれど、握るその先には、玲の手があった。
「わたし、あなたとなら――」
言葉が途切れる。
玲がゆっくりと立ち上がり、静のそばにしゃがみ込んだ。
「静。いま、幸せ?」
「……うん。幸せ、だと思う」
「なら、よかった」
玲の声が、かすかに優しかった。
私の腹部に感じる玲の手は冷たく、固かった。
そして私の視界に映る玲の目は、とても、優しかった。
翌朝。
教室には、静はいなかった。
朝のチャイムが鳴っても、静は姿を見せなかった。
玲の姿も、どこにもなかった。
机の上には何もない。置き手紙もない。
けれど――窓が開いていた。
誰かが、そこから出ていったように。
そして、そこには薄く、赤い染みがあった。
彼女は愛されたのだ。その愛が歪んでいたとしても、玲と関わったあの瞬間は彼女の人生で1番幸せだっただろう。
きっと……
〜[完]〜
この作品はある程度のAI補助が行われています。なので私の完全オリジナルとは呼ぶつもりはありません。