深まる関係
昼休み。いつもの校舎裏。
風が柔らかく吹いていた。桜の花びらが一枚、静のひざに落ちた。
「……風、強いですね」
ぽつりと呟いた静の隣には、今日も玲がいた。静かに、無遠慮に。
「春って、生き物のくせに死に近いと思わない?」
「……変わってますね」
「よく言われる」
玲はそれ以上、何も言わなかった。ただ、静と同じ方向を見ていた。
いつの間にか、二人は当たり前のように一緒に過ごすようになっていた。昼休みも、放課後も。玲は口数が多くないが、静もまた無口な人間だった。
会話がなくても、そばにいることが自然になっていた。
「……昨日、夢を見ました」
「ふうん。どんな?」
「お姉ちゃんが出てきた。――いなくなる前のままで、笑ってた」
玲は少しだけ静を見た。その視線はどこか鋭く、けれど温度が低い。
「会いたい?」
静は黙ってうなずいた。
「でも、どこにもいない」
その言葉は、心の底からのものだった。
誰も、お姉ちゃんのことなんて話題にしない。存在ごと忘れてしまったかのように。家の中でさえ、思い出話をすることは禁じられていた。
玲だけが――それを否定も肯定もしないで、黙って話を聞いてくれた。
ある日、帰り道。
玲が突然、静の髪に手を伸ばした。
「……なにを」
「ゴミ。ついてたから」
玲の指先がふれた場所は、確かにあたたかかった。
その一瞬が、なぜかずっと心に残った。
誰にも期待しなければ、誰の手も痛くなかった。
けれど今、目の前の玲がその“常識”を壊そうとしていた。
帰宅して、静は久しぶりに机の引き出しを開けた。
そこには姉と一緒に撮った古い写真があった。
「……お姉ちゃん。わたし、いま……」
呟きかけた声が途中で止まった。
玲のことを、姉に言いたくなかった。
違う。言えないのではなく、取られたくないと、思ったのだ。
この感情は悪い物な気がするけど、どこか気持ちがいい。