出会い
「……今日も、ひとり?」
聞き慣れない声に、久遠静はそっと顔を上げた。
薄曇りの昼休み。校舎裏のベンチに座って本を開いていた静の視線の先に、制服を着崩した少女が立っていた。
同じクラスの――伊織玲。
「あなた、伊織さん……でしたっけ」
「そう。それで?」
玲の声は、どこか熱のない響きをしていた。
興味があるのかないのか、判断できないほどに感情の起伏が薄い。
「一人の方が楽じゃない? 誰にも合わせなくていいし」
「まあね。けど……一人でいる人って、大抵、無理してるよ」
玲はそう言って、静の隣に腰を下ろした。
その動きもまた、どこか機械的で、感情が薄かった。
だが静は、不思議と不快には思わなかった。
むしろこの“踏み込み方の温度差”が、周囲の誰よりも自然に感じられた。
「……あなたみたいな人にも、そういうの、わかるんですか?」
「わかるよ。観察するの、好きだから」
短く答えた玲は、静の開いた本のタイトルを無言で見つめた。
玲が静に近づくのは、あくまで無理のない距離で。
優しさというより、静にとって初めて違和感を覚えない存在だった。
誰も触れてこなかった、静の過去。
両親と同じくらい大切だった姉の存在も、玲だけは――最初から知っているように、何も聞かなかった。
(お姉ちゃんが消えてから、誰も何も言わなくなった。まるで最初からいなかったみたいに)
玲はそれすらも知っているような無関心さで、ただ隣にいた。
だからこそ、静は――惹かれた。