ゼウスとレダ — 白鳥に変身した神の誘惑
オリンポスの王、ゼウスは数多の神々を支配し、天空の雷を自在に操る力を持っていた。しかし、そんな神ですら一人の美しい女性には抗えなかった。その女性の名はレダ。彼女はスパルタの王女で、その清らかな美しさと気高さは人間界でも神話の世界でも評判だった。
ゼウスは彼女に一目惚れしたものの、神の力を持つ自分が直接現れるのは禁じられていることもあり、変身の術を使うことにした。彼は優雅な白鳥の姿へと姿を変え、暗い森の中、レダのいる池のほとりに近づいた。
白鳥となったゼウスは、冷たい水面を優雅に滑りながら、レダの注意を引いた。レダはその美しい白鳥に魅せられ、自然と手を伸ばし、その柔らかな羽を撫でた。ゼウスは彼女の手を取ると、優しく囁くようにその姿を変え、神の本来の姿を隠しながらも、彼女に近づいた。
その夜、二人は密やかに交わり、神と人間の間に新たな命が宿った。
やがてレダは卵を産んだと言われている。卵の中からは、英雄の双子カストルとポリュデウケス(ポリュックス)、そして後にトロイ戦争の火種となる美しきヘレネが誕生した。
カストルとポリュデウケスは「ディオスキュロイ(神の子たち)」と呼ばれ、兄弟愛や勇気、忠誠心の象徴として多くの物語に登場することとなる。
この神話は、ゼウスが人間界に神の意志を注ぎ込み、偉大な英雄や伝説の人物の祖先を生み出すために行った壮大な物語の一つだ。