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第8章 動き出す地図と動かぬ靴


ゲームの世界にログインした私は、いつものようにトーマス親方の工房に転送された。これにもすっかり慣れてしまったようだ。奥の作業部屋へと向かい、親方に挨拶をする。


「おはようございます、親方」


いつものようにトーマス親方は靴の作業に集中していた。メアリー以外に客やプレイヤーの姿は見えない。


「──そろそろ、次の段階だな」


「え? 何がですか、親方?」


突然の言葉に、私は胸の奥がざわついた。もしかして……ゲーム内で誰にも語られていない、何か特別なイベントの扉が、今、開こうとしているのでは──


「自分だけの靴を持つ時が来た」


「……あっ、そういえば!」


私は自分の素足を見下ろす。裸足のままこの世界を歩くことに慣れすぎていたのか、すっかり忘れていた。


親方は、机の上にあるいくつもの素材を私の前に並べた。


「親方、手伝ってくれないんですか?」


「忘れるな。靴職人は、自分の靴を必ず一人で作れねばならん。靴台はお前の戦場だ。勝ち取って、前へ進め」


優しく、しかし力強い言葉とともに、トーマス親方は背中を軽く叩いてくれた。──その手は、まるで親のような温もりを感じさせた。


私は自分の作業台へと向かい、椅子に座る。親方が渡してくれた素材を慎重に並べる。


使用可能な素材:


靴型ラスト


ヤギ革×1


靴用ナイフ


メジャー


定規


鉛筆×1


靴職人用ハンマー


「……ふぅ、これで全部だな」


どんなスタイルの靴にしようか、しばらく頭をひねる。アマチュアとはいえ、これは“初めての自分だけの一足”なのだから。


──そのとき、目の前にシステムウィンドウが出現した。


【警告】

プレイヤー『Shoemaker』の知識および経験値が不足しています!

トーマス親方が信頼していても、レベル1の靴職人は自分の靴を作ることができません!


▶ 自作可能レベル:25以上必要

▶ NPCとのさらなる交流が推奨されます


新たなクエストをAIが生成中……

新たなクエストをAIが生成中……

新たなクエストをAIが生成中……

新たなクエストをAIが生成中……


【新クエスト発生】

▶ NPC『グレース』の元を訪れ、彼女を手助けせよ!

▶ マップ上にグレースの位置を表示中……


クエストの成功を祈っています!


「な、なんだって……?」


目を疑った私は、通知を何度も読み返す。どうやら、レベル1の今では自分の靴を作ることすら許されないらしい。


【警告】

素材に触れることはできません! クエストを進行してください!


素材に手を伸ばそうとした瞬間、さらに新たな通知が現れ、まるで“見えない力”に妨げられたように手が止まった。


(これは……このゲーム、やっぱり“普通”じゃない)


もしかしたら、他の職業でもこういう強制イベントがあるのかもしれない。でも、それを確かめるには、もっと多くのプレイヤーと接する必要があるだろう。


「親方、ちょっと出かけてきます」


振り返って声をかけたが、トーマス親方は作業に没頭していて、私の声には気づかない様子だった。


(……すぐ戻るつもりだし、まあいいか)


工房を出て、地図を開く。グレースの居場所は、皮屋とは反対方向──西の果て、城の外れにあるようだ。


……だが、そこで、私は奇妙な違和感に気づく。


「……えっ、グレースが、動いてる?」


地図上のマーカーが、静止していない。まるで、生きているかのように、NPC『グレース』はゆっくりと歩いていた──

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