第7章 疑問と真実の入り口
「正直に言えば、レベルなんて高くても低くても、普段はまったく気にしない。
だけど――この《靴職人》という職業、他のプレイヤーと成長の仕組みが違うんじゃないか?
それが、どうしても気になってしまう。」
管理者から届いた通知を思い返す。
《靴職人》はただのサブ職ではない、そう言っていた。
果たして、本当に彼の言う通り、困難を極める職業なのか?
それに、作った靴のステータスが異様に低いのも、ずっと引っかかっていた。
あれほど時間をかけたのに、+1もつかないなんて…。
この世界のすべての生産職が、こんな理不尽なのだろうか?
さらに、もっと根本的な疑問もある。
「革屋から素材を買ったのに、お金を払っていない。
それに、メアリーも靴を受け取ったのに、彼女からも報酬はなかった。
――このゲーム、通貨システムどうなってるの?」
そんな疑問を抱えたまま、私はゲーム内の公式フォーラムを覗くことにした。
すべての答えが見つからなくても、何かしらのヒントは得られるかもしれない。
「すごいな……」
そこには、数え切れないほどの書き込みがあった。
ゲームの裏設定に関する考察、レアモンスターの出現位置、トッププレイヤー同士のパーティー抗争――
そして、この世界の果てに何があるのかという、壮大なシナリオ予想。
(みんな……本気なんだな)
VRMMOというものに初めて触れる私には、どれも新鮮で刺激的だった。
フォーラムの右側にある「世界パーティーランキング」という項目が目に入った。
気になって、思わずクリックする。
【VRMMO:DREAM of WORLD 世界パーティーランキング】
1位:黄の竜(ギルドメンバー数:10,000以上)
リーダー:世界ランキング1位《戦士アレックス》(レベル:非公開)
2位:薔薇を愛する者たち(ギルドメンバー数:3,000以上)
リーダー:世界ランキング4位《癒し手ルナ》(レベル:非公開)
3位:青き月の下の家(ギルドメンバー数:3,500以上)
リーダー:世界ランキング7位《鍛冶師マーク》(レベル:非公開)
4位:最強者はここに在り(ギルドメンバー数:10人以上)
リーダー:世界ランキング不明
5位:影を統べる者たち(ギルドメンバー数:1,000以上)
リーダー:世界ランキング13位《影使いエミリー》(レベル:非公開)
「えっ……鍛冶師が3位?」
思わず口を開けて驚いてしまった。
しかし、それと同時に、なぜか胸が熱くなった。
「……生産職でも、ここまで行けるんだ」
けれど、何より気になるのは――
4位の「最強者はここに在り」ギルド。
メンバーがたった10人で、この順位。
(たったそれだけで……この世界を制してるのか?)
その凄さに感嘆しつつも、私は自分がまだ初心者であることを思い出す。
彼らのような高みには、簡単には辿り着けないだろう。
いや、きっとギルドに勧誘されることすら、今の私には無縁だ。
気を取り直し、検索窓に「靴職人」と入力する。
他のプレイヤーたちの意見を知りたかった。
【スレッドタイトル:靴職人なんて選ぶな! 絶対に! 絶対に!】
「俺はこのゲームで最初に《靴職人》を選んだ奴だ。
正直、マジで後悔してる。
他の職業はあっという間にレベルが上がるのに、俺は男NPCに頼まれた靴を渡しても、なぜか経験値すら増えない。
しかも!
レベル1になるためには、NPC3人と信頼関係を築く必要があるらしい!
いや、意味わからんって!
他のプレイヤーがレベル1から始まってるのに、俺は苦労してようやく1だよ!?
まじで馬鹿らしくなって、NPCのくせに俺を見下してきたくるくる巻き毛の城兵の女にブチ切れて、アカウント消した。
もう一度言う。靴職人だけは選ぶな!」
――投稿者:Edward0896
「……うわあ」
あまりにも怒りに満ちた投稿に、読んでるこちらが少し引いた。
フォーラムの他のプレイヤーたちも、この書き込みに影響されているようだ。
【レス:このゲームで一番無意味な職業=靴職人】
「俺も《靴職人》選んだ理由は単純にレアだから。
でも……こんなに後悔するとは思わなかった!
なんとかレベル2になったけど、未だにお金稼げてない。
なんで?
靴を2つ作ったけど、NPCたちは金を払わずにサッと持っていっただけ!
鉱山師やってるフレンドに相談したら爆笑されたよ!
ほんと意味わかんない!
あと、あの《トーマス》って名の靴職人の親方。
あいつ超遅いから、1足作るのにリアル2週間かけてんの。
二度と頼まない!
ついでに言えば、このゲーム、靴なんて必要ないってみんな言ってる。
初期装備でも十分だし、なんと世界1位の戦士アレックスが履いてる靴でさえ「+10の敏捷性」しかつかないとか。
靴なんて、この世界ではゴミだよ!
――投稿者:Samurai555】
「……なるほど、これが管理者ショウが言ってた2人か」
どちらも《靴職人》を選んで挫折し、去っていったプレイヤーたち。
通貨システムは依然として謎に包まれている。
これはバグなのか? それとも、《靴職人》だけの特別仕様なのか?
そして――
「やっぱり……靴に、何かある気がする」
わずかな違和感が、確信に変わりつつあった。
この職業には、誰も気づいていない秘密が――
きっと、隠されているのだ。