第47章 静寂に紡がれる足跡
工房に戻り着いた時、空はすでに暮れ始めていた。
疲れていたが、心には奇妙な安らぎがあった。
箱を慎重に作業台に置く。
静寂の石が灰色の輝きを放ちながら微かに震えている。
「材料の特性を書き留めます」
メアリーが手帳を開き、ペンを準備した。
「この石…何か囁いているみたい」
ベアトリクスは腰に手を当て、石を観察している。
私はただそれを見つめる。
この石は…私に静寂を求めている。
「この靴は…あらゆる雑音から解放されなければならない」
私の言葉はゆっくりだが、確信に満ちていた。
「革は柔らかく、しかし丈夫で」
メアリーがメモを取る。
「ソールは完全な衝撃吸収。一切の音を立てないように」
ベアトリクスが頷く。
「縫い目は見えないように。見えないことが静寂の象徴だ」
私は頭の中でデザインを組み立てていく。
「このグレーのベルベット…石の色調に合うわ」
メアリーが生地サンプルを取り出す。
「前に一度使ったことがある。軽くて強かった」
ベアトリクスが古い箱から細い糸を取り出す。
私は静寂の石を掌に載せる。
冷たいが、不思議と心を落ち着かせる。
「さて靴職人。いつ始める?」
ベアトリクスが微笑む。
「今すぐだ」
これ以上待てない。
まず静寂の石を特殊な水晶の収納部に収める。
この収納部は靴のかかとに組み込まれる。
「石は固定されているが、その効果は広がっていく」
メアリーが呟く。
私は革のパーツを選ぶ。
柔らかく、しなやかで、風を通さない質感。
「これほどの質の革は二度と手に入らないかも」
ベアトリクスが警告する。
「これは一度きりのデザインになる」
私は目を細めて答えた。
針を手に取る。
そして最初の一針を刺す。
今、工房では誰も話さない。
聞こえるのは革と糸が交わる音だけ。
時が過ぎる。
一針一針、思考を紡ぎながら進める。
時折、メアリーがメモを取る音がするだけ。
ベアトリクスは祈るように呟いている。
三時間が経った。
だがついに…
『静寂に紡がれる足跡』が完成した。
灰色の、軽く、優雅で、完全に静かな一足の靴。
箱の中に収める。
傍らに小さなメモを添える。
【これらの足跡は、音の終わる場所から始まる】
「本当に…静かだわ」
ベアトリクスが息を飲む。
「これは靴を超えた何かだ」
メアリーが首を振る。
私はシステムを開く。
クエスト納品メニューを表示させる。
【クエスト:静寂に紡がれる足跡】
納品 → はい
指が震えるが、迷わず押す。
クエストが送信された。
光が現れ、
インターフェースに文字が流れる。
【おめでとう!クエスト完了】
【NPC魂の守護者:「静寂を聞いた」】
【報酬:静寂の足跡スキル】
【パッシブ効果:静寂歩行時の感知率-20%】
「これは…特別なスキルだ」
ベアトリクスが驚きの表情で画面を見つめる。
「本当に…やり遂げたわ」
メアリーも感嘆の眼差しを向ける。
私はただ目を閉じた。
そして静かに微笑んだ。




