第46章 静寂の石を求めて
呪われた森を出るとすぐにキャンプを張った。
誰も口を開かず、皆が思索にふけっている。
「あの魂の視線…体の奥まで染み込んだようだった」
ベアトリクスが火を起こしながら呟く。
「『静寂の石』…伝説級のアイテムかもしれない」
メアリーが手帳を開き、クエストの詳細を確認している。
「明日、出発する。枯れ地峡谷へ」
私の声は冷静だが、胸の奥で不安が膨らんでいた。
「あそこも安全とは言えないわ」
ベアトリクスが唇を歪める。
「貴重な材料が簡単に手に入るはずがない」
メアリーが真剣な面持ちで言う。
夜が更けていく。
キャンプファイアがパチパチと燃え続ける。
私の眠りは浅い。
朝、最初に目覚めたのは私だった。
太陽が靄の向こうにかすかに見える。
メアリーが荷物をまとめ、ベアトリクスは剣の手入れをしている。
「準備ができたら出発しよう」
二人が頷く。
枯れ地峡谷へ向かう道は岩だらけで起伏が激しい。
所々に崩れた柱や古代の建造物が現れる。
この地域もかつては賑わっていたのだろう。
「静寂の石…通常は古代の瞑想場で見つかる」
メアリーが知識を共有し始める。
「つまり古代の寺院か祭壇を探せばいいんだな」
ベアトリクスが周囲を警戒しながら言った。
道の終わりに峡谷の入り口が見えてきた。
巨大な裂け目が断崖のように口を開けている。
「ここだ」
私が囁く。
峡谷の中へ降りていく。
一歩進むごとに気温が上昇する。
地面は乾き、ひび割れている。
風さえもここでは息苦しく感じる。
「中央部に古代の石造プラットフォームがマークされている」
メアリーが地図を広げる。
その方向へ進むと、静寂に包まれた古代の柱が立ち並んでいた。
プラットフォームを見つけた時、太陽はちょうど真上に来ていた。
時間が止まったかのようだ。
「ここにあるはず」
メアリーが身をかがめ、石の彫刻を調べる。
ベアトリクスが石片をひっくり返すと、
下から灰色に輝く水晶が現れた。
「まさか…こんなに簡単に見つかるなんて?」
私は驚く。
メアリーが手を伸ばし、水晶をつかむ。
画面に通知が表示された:
【静寂の石
貴重品。魂を鎮め、静寂の効果をもたらす】
「これだ!」
ベアトリクスの目が輝く。
しかしその瞬間…
地面が震えた。
プラットフォームの端から半透明の人影が現れる。
古代の戦士の魂だ。
「静寂の守護者へようこそ」
声は剣のように鋭い。
「石を得る代償として、何を捧げる?」
言葉が空中に残る。
三人で顔を見合わせた。
誰も退く気はない。
「一足の靴を」
私が一歩前に出る。
「靴職人…?」
メアリーが驚く。
「何を言ってるんだ?」
ベアトリクスが眉を上げる。
「これが私の仕事だ。魂のために特別な靴を作る」
声は揺れなかった。
魂は黙ったまま、
やがて頷いた。
「認めよう。ただし一つ条件がある。静寂の中で完成させよ」
そして人影は消えた。
「新しいクエストを受領」
メアリーが手帳を開く。
【クエスト開始:静寂に紡がれる足跡
内容:静寂の石に相応しい靴を制作せよ
納期:3日】
「また始まったわ」
ベアトリクスが微笑む。
私は箱を取り出し、
中に石を収めた。
「これまでで最も特別な仕事になる」
心が静寂で満たされていく。
そして私たちは…
ゆっくりと峡谷を後にした。




