第44章 砂漠の陰に新たな設計図
朝日が工房にそっと差し込んでいた。
机の上には、まだエルドリンの巻物が置かれている。
「砂の上で滑らず、魔法への耐性も...」
私はデザインスケッチに見入り、呟く。
「本当に難しい注文ね」
メアリーがメモを確認しながら首を振る。
「風の強い砂漠を歩くためには、ソール構造が重要よ」
ベアトリクスは作業台の端に座り込んでいる。
私は《製図師》のスキルを使うため、目を閉じた。
心の中に砂嵐、乾いた熱、ひび割れた石畳の道が浮かび上がる。
「湿気を吸わず、柔軟だが堅い素材が必要だわ」
メアリーが真剣な面持ちで言う。
「魔法耐性の革は通常、呪われた森で手に入る」
ベアトリクスが地図を指差す。
私は頷く。この案は理にかなっている。
「でもあの地域はまだ未開拓エリア。危険かもしれない」
メアリーが唇を噛む。
「危険こそが、成功をより意味あるものにする」
私の言葉には決意が込められていた。
「さすが私たちの靴職人!」
ベアトリクスが笑みを浮かべる。
地図をテーブルに広げ、
呪いの解かれた道と安全なエリアをマークしていく。
「砂漠の暑さに耐えるインソールも必要ね」
メアリーがリストに項目を追加する。
「そのためには、熱分散要素をインソールに組み込むといい」
ベアトリクスが指先でテーブルを軽く叩く。
「何か案は?」
二人が同時に私を見る。
「『太陽苔』はどう? 火魔法に強く、冷却効果もある」
ゲーム開始前に魔法関連のリサーチをしておいて良かった。思い出した瞬間、胸が希望で満たされる。
「太陽苔は枯れ地峡谷にしか生息していないわ」
メアリーが目を丸くする。
「つまり行かなきゃいけないってことね」
ベアトリクスがすぐに立ち上がる。
手帳を開き、メモを書き始める。
材料リスト
・魔法耐性革(呪われた森)
・太陽苔(枯れ地峡谷)
・砂吸収アウターソール生地(NPC織工から購入)
「最初の目標:峡谷に到達すること」
メアリーが計画を手帳に記入する。
「出発の準備はできてる!」
ベアトリクスが鞄をまとめる。
新たな注文には、新たな旅が必要だ。
ドアに近づいた時、一瞬立ち止まる。
エルドリンからの注文の重みが肩にのしかかる。
これは単なる納品品ではない。
職人としての証明になるはずだ。
メアリーがドアを開ける。
そよ風が彼女の髪をなびかせる。
「冒険の始まりだ!」
ベアトリクスが太陽を見上げる。
私は深く息を吸い込む。
工房を背にし、
パロウニアの静かな通りを通り抜ける間、心臓の鼓動が速くなるのを感じた。




