第29章 夢の靴と癒しの草――新しいお店の名前、決定!
グレイスは自分の仕事のために治癒の店へ戻っていった。残されたのは僕とメアリー、そしてベアトリクスの三人。僕たちはまず、破壊のせいで埃だらけになった靴屋の掃除から始めることにした。
幸いなことに、店の中には掃除用具が残っていて、それらを使ってすぐに作業に取り掛かった。正直に言うと、二人の元近衛兵が膝をついて雑巾がけをしている姿は、まったく想像できなかった光景だった。
「掃除、これでやっと楽にできるわね」
ベアトリクスは掃除しやすくするために、身に着けていた鎧と、太ももに装着していた鞘付きの剣をカウンターに置いた。初めて彼女の鎧の下の服を見ることができたのだが、それは黒のパーカータイプの長袖ドレスと、同じく黒の伸縮性がありそうなパンツだった。
……黒が好きなのだろうか。少なくともその服装からは、そんな印象を受ける。
一方のメアリーは想像以上のスピードで掃除をこなしていた。まるで光速で床を磨く妖精を見ているかのような錯覚に陥るほどだ。もしかして掃除に慣れているのだろうか?
「やっと終わった……」
椅子に座り、僕は深く息を吐いた。
三人がかりで掃除したこと、そして特にメアリーの活躍もあって、想定より早く店内は綺麗になった。
けれど、店内がいくら綺麗になっても、最初に来た時のように大きな課題は山積みだ。これから来るかもしれないお客様のために、快適に過ごせる空間を整えなければならない。ソファやカーテン、装飾品も必要だし、それらを揃えるには当然お金も必要だ。
でも、きっと時間をかければ全部できると信じている。
まずは、靴屋の名前を決めよう。そしてお店のロゴも作らなければ。
それが終わったらワールドマーケットに登録し、靴の製造を開始して、販売も始める。
……言ってるだけでもすでに息が切れそうだけど、やるしかない!
「靴屋の名前、何にしようか?」
椅子に座りながら、僕はメアリーとベアトリクスの目をまっすぐ見つめた。二人の意見を本気で聞きたい。三人で一緒に素敵な名前を考えたいのだ。
二人は顔を見合わせ、興味津々といった様子だった。
「みんなの頭文字を組み合わせた、かっこいい名前なんてどう?」
ベアトリクスは顎に手を当て、少し考え込んだ。
「いや、それじゃあ単純すぎる。店の名前を見た人が、靴や治癒アイテムに関係しているとすぐにわかるような名前にすべきよ。それに、店の雰囲気も伝わるようにしないと」
メアリーも頭をポリポリと掻きながら真剣に考えている。
三人で頭を悩ませていたその時――
「思いついた!《靴の夢に咲く癒しの草》ってどうかしら?」
ベアトリクスが突然アイディアを口にした。僕とメアリーは思わず目を見開いて、互いの顔を見合わせた。
「えっ……やっぱり気に入らなかった?」
「なに言ってるの!最高の名前だよ、ベアトリクス!大好き!ねぇ、メアリーもそう思わない?」
「すっごく魅力的な名前だと思うわ!おめでとう、ベアトリクス。とても良いアイディアよ!」
僕たちは思わず興奮して、ベアトリクスの両腕を掴んで褒めちぎった。
「ありがとう……気に入ってもらえて、すごく嬉しい!」
ベアトリクスは照れたように微笑んで、僕たち二人に抱きついてきた。
【おめでとうございます!
《靴の夢に咲く癒しの草》があなたの店名に決定しました!
さあ、ワールドマーケットに登録して、商品販売を始めましょう!
システムはあなたの成功を信じています!
※なお、まだレベル2のままですね?店名を決めただけでレベルは上がりませんよ?
生産し、お金を稼ぎ、評価を得てくださいね!
さあ、何をためらってるの?ワールドマーケットへGO!】
……システム、やっぱりたまに煽ってこない?




