第28章 靴屋と三人の同盟者――再建への第一歩
「実はお茶よりも大事な問題があるんだ。招待したのはいいけど、店には椅子が二つしかないんだよね」
そう言いながら、俺は靴屋の入り口をくぐり、すぐさま製作室へと向かった。
昨日までトーマス師匠と一緒に作業していたこの部屋に入ると、胸の奥がきゅっと締め付けられる。
「……俺は絶対に立派な靴職人になるよ、師匠。これからも見守っていてくれ」
強く言い聞かせ、製作室から椅子を二脚抱えて戻る。
「お待たせしてすみません」
戻ると、メアリーはすでに床に座っており、他の二人は立ったままだった。
「ごめんね、手間をかけさせちゃって」
「大丈夫ですよ。どうか、立ったままじゃなくて座ってください」
ベアトリクスとグレースが椅子に座る。おそらく俺が部屋にいない間に、メアリーがそう促したのだろう。彼女の自然なリーダーシップと謙虚さが垣間見えた。
俺もメアリーと同じように床に座る。現在、靴屋の入り口の中央で円を描くように四人で集まり、未来について語り合う準備をしていた。
「私はね、一緒に働きたいと思ってるの」
「一緒に? でも、どうやって?」
「ベアトリクスの言う通りだと思う。一緒にやれば、この街を元に戻せるかもしれない」
「そうだね。でも具体的にはどうするの?」
「メアリーの言う通りだと思うよ。回復薬のお店も無事だったから、もっと広い市場を目指せるはず」
「ちょ、ちょっと待って。何が起きてるの? ついていけないんだけど」
まるで俺抜きで勝手に会議が進んでいたような気分になる。三人とも、すでに腹を決めているようだ。
「お願い、ベアトリクスと私をこの靴屋で働かせて」
「えっ?」
予想外の申し出に、思わず声が裏返る。これは、冗談なのか?
「本気なの? 君たち、確か騎士団の人間じゃなかったっけ?」
「王様はもういない。城も崩れた。今さら騎士である意味なんてないよ。この街にはもう人も少ないし、私たちにできることは、あなたと一緒に働くことくらい」
「あなたなら、この街をもう一度輝かせられると信じてるの」
「で、でも君たち、靴なんて作れないでしょ?」
「私は販売でサポートするよ!」
「私は他の種族との交渉役になるわ」
二人とも、もう完全に自分たちの役割を決めているみたいだ。……もしかして、この会議、俺じゃなくて彼女たちが主催してたんじゃないのか?
【おめでとうございます!
NPCとの交流の成果が現れました。
メアリーとベアトリクスが、あなたと一緒に働きたいと申し出ています。
レベル2の新人でありながら、従業員を雇うことに成功しました!
彼女たちと共に働きますか?】
▶ はい
いいえ
もちろん、迷わず「はい」を選択した。
【おめでとうございます!
新たな従業員が加わりました!
メアリーとベアトリクスのステータスとスキルを確認できます。】
◆メアリー(元職業:城の衛士)
新職業:販売担当
レベル:88
スキル:特別な剣術スキル
◆ベアトリクス(元職業:エルフ衛士)
新職業:外交担当
レベル:75
スキル:エルフの剣技師
な、なんだこのレベルの高さは!? すごすぎる!
「そして私からは、大きな提案があります。靴屋と回復薬のお店の業務提携をしませんか?」
まだ驚きの余韻が残る中、グレースが微笑みながら話し始める。
「え? 提携?」
「トーマス師匠との過去の契約は知っているでしょ? 王がいなくなった今、旧システムは無効になった。これからは世界市場にあなたが店を出すことになる。その時、靴と一緒に回復薬も販売すれば、もっと多くの人にアピールできるわ」
なるほど、確かにいい提案だ。街を立て直すには、協力が不可欠。元々、世界市場に出店するつもりだったし、靴と回復薬を一緒に売るのも悪くない。
【おめでとうございます!
ヒーラー・グレースが素晴らしい業務提携を申し出ました。
この提携により、世界市場で注目される可能性があります。
提案を受け入れますか?】
▶ はい
いいえ
通知が次から次へと来るが、迷わず「はい」を選んだ。
この瞬間から、俺の新たな目標が二つできた。
一つ目は、この靴屋を世界市場でトップクラスに育てること。
二つ目は、この街を再建し、かつて以上に賑やかな場所にすること。
――俺の物語は、今まさに始まったばかりだ。




