第21章 初めての納品と、城門前の再会
【おめでとうございます!
靴の製作に成功しました。
靴の詳細情報は以下の通りです。
〈ステータス〉
スピード+1
バランス+3】
通知が立て続けに届く。まず新しいスキルを習得し、さらに今作った靴の性能まで表示されてきた。
私はまず、その靴の性能に目を通す。……やっぱり、メアリーの靴と同じく、そこまで高性能なわけではない。でも、問題じゃない。性能よりも、それを履く相手が笑顔になれるかどうかの方がずっと大切だと思う。つまり、全てはベアトリクスの反応次第というわけだ。
それから、「早期納品の達人」という新しいスキルにも注目する。きっと、ベアトリクスに靴を約束の日よりも早く届けられるようになったから、このスキルが解放されたのだろう。
【〈スキル〉早期納品の達人(レベル1)
効果:予定された納期より早く靴を製作・納品できる。作業の集中力とスピードが上昇し、周囲の状況を素早く把握する能力も向上する。
※このスキルにはクールタイムがありません!戦闘中でも製作中でも、いつでも使用可能です!】
詳細を読めば読むほど、このスキルはなかなかに面白いと感じる。製作時だけでなく、戦闘時にも使えるらしい……でも私は戦う職業じゃないし、今のところ戦うつもりもない。靴作りの中で集中して素早く動けるなら、それで十分だ。
とはいえ、最も嬉しい点は――このスキルに時間制限がないこと。好きな時に使えるって、すごく便利だと思う。……少なくとも、私はそう信じている。
新しいスキルも、靴の性能も嬉しいけれど――何よりも私を喜ばせてくれたのは、レベル2になったことだ!ようやく……ようやくレベルアップできた!
嬉しさのあまり思わず笑い声を上げそうになって、椅子から落ちかけてしまったけど……なんとか体勢を整える。
「靴が完成したのなら、ベアトリクスの方から来てもらうのを待たずに、君から届けに行ってみるのはどうだい?」
トーマス師匠が、いつものように優しく声をかけてくる。やっぱりこの人は、私がより多くの経験を積めるように導いてくれる存在なんだ。NPCとの関わりが増えれば、それだけ私にとってプラスになる。だから、私は無言でうなずいた。
【ベアトリクスの現在地が地図に表示されました。目的地を確認してください】
よし、タイミングばっちりだ。私は店を出る前に地図を開き、ベアトリクスの現在地を確認する。表示された場所は――王城。
今まで王城には近づいたことはあるけど、中に入ったことは一度もない。だからこそ、中がどうなっているのか、とても興味がある。
店を出て、私は歩き出す。目の前に広がるのは、いつもと変わらぬ光景。戦闘職のプレイヤーたちはパーティメンバーを募り、生活職のプレイヤーたちは街のあちこちで自作アイテムを売ろうと声を上げている。
でも、その賑やかな風景の中を歩く私は、なぜか心が穏やかだった。それぞれが、それぞれの目的と夢を持ってこの世界に関わっている。その一人一人の思いが、このゲームの価値を高めているように思える。
穏やかな気持ちのまま、王城の門へと近づいていく。再び地図を確認する。……うん、ベアトリクスは動いていない。どうやら北門の前で警備任務中のようだ。
店々を通り過ぎながら、見覚えのないショップや見慣れないエンブレムが描かれた看板が目に入る。行列ができている店もあれば、まったく人気のないところもある。需要と供給、つまりはあの靴屋で学んだ通り、商売には波があるのだろう。
そう思っているうちに、とうとう北門の前へとたどり着いた。そして……そこに立っていたのは、まさにベアトリクスだった。
鋭い視線で、通り過ぎる者たちをひとりひとり吟味するように見ている。……あの鎧姿じゃ確信できなかったけど、本当に彼女なのだろうか?
そう考えていた瞬間、彼女はこちらに気づき、手を上げて合図を送ってくる。私はもう一度地図を確認する――そう、目の前の鎧姿の人物がベアトリクスに間違いない。
私はゆっくりと彼女に近づく。一瞬、風が吹き、まるで決闘を控えた西部劇のワンシーンのような空気になる。なんだか緊張する。
彼女の前に立つと、私の手に持った靴を見て、すぐに鎧を脱ぎ始めた。そして、やはり彼女は……ベアトリクスだった。エルフの騎士といえば、他に誰がいるというのだろう?
「それって……もしかして、私の靴?」
「はい、予定よりも早く完成しましたので、お届けに参りました」
「ここまで届けてくれて、ありがとうございます。……わぁ、本当に理想通り、ピンク色でハートの模様まで!」
彼女は靴を受け取ると、嬉しそうに隅々まで確認している。顔を少し赤らめながら微笑むその姿が、とても愛らしくて、私も思わず頬が緩んでしまう。
「すぐにでも履いてみたいです!」
「もちろん、ぜひ。……でも、今は警備中じゃ?」
「あっ、そうでした……でももうすぐ交代の時間です。もしお時間があるなら、城内でお茶でもどうですか? せっかくなので、新しい靴をあなたの目の前で履いてみたいですし」
「ご迷惑じゃないですか?」
「靴をわざわざここまで届けてくれたんです。そのお礼をさせてください」
「それでは……ご一緒させていただきます。光栄です」
――こうして、私は初めて王城の中へと足を踏み入れることになる。胸の高鳴りが、しばらくは止まりそうにない。