第2章 師匠との出会い
街を歩きながら周囲を観察する。中世ヨーロッパを思わせる街並みの中心には威容を誇る城がそびえ、その周囲には無数の建物がひしめき合っていた。
どの建物にも見慣れない紋章が掲げられており、おそらくギルドやショップのマークだろう。
道行くプレイヤーたちの奇抜なファッションに目を奪われながら、地図を確認すると――なんと、すでにトーマス親方の工房の真前に立っていた。
「……これが工房か」
他の建物と比べて明らかに老朽化した外観。かすかに色褪せた靴のシンボルマークが扉に残っている。中に入ると、外観とは対照的にモダンで洗練された内装が広がっていた。
壁には数々の美しい絵画が飾られていた。
「ごめんください! トーマス親方にお会いしたいのですが!」
「奥だ。声のする方へ来なさい」
渋い年配男性の声が響く。声のする方向へ進むと、作業台に向かう白髪の老人の姿があった。長い白髭をたくわえ、一心不乱に靴を仕上げている最中だ。
「おや、来たか。悪いが客用の椅子はないな。コーヒーか紅茶なら淹れるが」
親方は立ち上がり、温かい笑顔で手を差し伸べた。その笑顔からは、本物の職人らしい温かみが伝わってくる。
「お気遣いなく、立ったままで結構です」
私も笑顔でそう返答すると、親方は満足そうに頷いた。
「随分長いこと、新しい弟子を待っていたんだ。君は『靴職人』を選んだんだな?」
「どうしてわかったんですか?」
「この職業を選ぶ者は、最初から靴を履いていないからだ」
ああ、だから初期装備に靴がなかったのか。NPCの知能レベルの高さに改めて驚かされる。
そんなことを考えていると、親方は作業を再開し、私に見学するよう手招きした。
(すごい……これが本物の職人技……)
作業台の上には様々な道具が並んでいる。親方は慎重に革を裁断し、金槌で丁寧に縫い目を補強していく。最後にサンドペーパーで形を整えると、あとは塗装だけが残っていた。
「塗装をやってみるか?」
「え? 私がですか? でもまだ一度も……」
「靴職人を目指すなら、今が最初の一歩だ」
親方はにっこり笑いながら席を譲ってくれた。手の震えを抑えながらブラシを握る。額にじんわりと汗がにじむ。
(絶対に失敗できない……)
最初は大胆に、細かい部分は慎重に。何度も絵の具を足しながら――
【システム通知】
『トーマス親方があなたの技術を高く評価しました!』
弟子入りしますか?
▷はい
▷いいえ
迷いなく「はい」を選択すると、部屋の一角に『Shoemaker』と刻まれた新しい作業台が出現した。
「これが……私の……」
思わず涙がこぼれそうになる。ついに夢への第一歩を踏み出した瞬間だった。