表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/26

第12章 騎士の謝罪と靴の奇跡

グレースと別れた後、私は靴屋へと戻った。

トーマス師匠は、私が最後に見た時と同じように、靴作りに集中していた。

できれば邪魔したくなかったが、どうしても言わなければならないことがある。


実は、私の画面に表示された通知の内容を、まだ師匠には伝えていないのだ。

トーマス師匠はその通知の存在を知らないため、私に自分専用の靴をデザインするよう、まだ期待しているかもしれない。


でも……。

「自分の靴を作るにはレベル25を待たなきゃいけない」なんて、どう言えばいいんだろう?

はぁ……本当に、ややこしいことになったな……。


それでも、私の中には一つのアイデアがある。

上手くいってくれるといいけど……。


「トーマス師匠、自分の靴のデザインをするには……もう少しだけ時間が欲しいんです。準備が整ったら、きっと素敵なデザインに仕上げますから」


ちょっと緊張しながらそう伝えると、トーマス師匠はいつものように賢者のような穏やかな微笑みを浮かべ、こう言ってくれた。

「もちろんだ。準備ができた時が、お前にとっての最良のタイミングだ。お前なら素晴らしいものを作ってくれると、私は信じている」


……やっぱりこのNPCは最高だ。

こんなキャラクターを作ったゲーム開発者に、心から感謝したい。


その後、自分の作業机に座り、今後の計画を練り始めた。

トーマス師匠の手伝いをするだけでなく、自分のデザインにも少しずつ挑戦していくべきだろう。

でも、実際にはどうすればいいのか……?


「トーマス師匠、新人の私が訊くのも変ですが、普段このお店には月に何人くらいお客さんが来るんですか?」


情報を得るには、それっぽい理由が必要だ。

まだ弟子になって日が浅い私にとって、今は一つでも多くのことを知るべき時だ。

これまでこの店に来たのは、NPCのメアリーただ一人だ。


「数人くらいだな。でも、それで十分さ」


「そうなんですね……。それともう一つ、気になっていたことがあるんです。

この間、革屋でヤギの革を手に入れた時、代金を払っていないんです。

それと、メアリーも靴を受け取っていましたが、お金のやり取りはありませんでした。これはなぜですか?」


「それは簡単なことだ。

この街の店同士は、物々交換で成り立っている。

必要な時に、必要なものを互いに交換しているのさ。

彼らに靴が必要な時は、私が作って渡す代わりに、彼らは私の必要な素材や料理をくれるんだ。

……ただし、城の守備隊員だけは例外だ。

彼らは王命で街を守っているから、何も請求してはいけないことになっている」


そう言って、彼は手を頭の後ろに回して、しばらく考え込んでから長々と説明してくれた。

この情報は、私がこれまで見たどのフォーラムにも載っていなかった。


……ということは、これは靴職人だけの仕様なのか?

でも、以前この職業をやっていた二人のプレイヤーの記録には、こんな話は一切なかった。


知れば知るほど、ゲームの仕組みは奥が深い。

だが、これで現実的な計画が立てやすくなったのは確かだ。


ただ、一番の問題は……

トーマス師匠が言っていた「月に数人しか来ない」という部分。

しかも、それはNPCだけ。


私はまだ弟子の立場なので、この店では他のNPCに靴を売ることができない。

つまり、販売するには自分の店を持たなければならないのだ。


それに、グレースに支払った1ゴールドは……もしかして、ただのチュートリアル?

そして、開放された「ワールドマーケット」はどう使えばいいのか?

ああ、わからないことばかりで、頭がごちゃごちゃする……。


でも……

きっと、少しずつこの世界に慣れていけば、いつかは全部わかるようになる。


そんなことを考えながら、私は椅子にもたれて深く考え込んでいた。

――その時、店の扉についたベルが鳴った。


誰だろうと思って立ち上がると、見慣れた声が聞こえてきた。


「ただいま」


「メアリー? 任務に出てたんじゃなかったの?」


「うん、でも早く終わったから、すぐ戻ってきたの」


「怪我がなくて良かった」


ほっと安心して微笑んでいると、メアリーの隣にもう一人の姿が見えた。

頭上に名前の表示がない……つまり、これもNPCだ。


よく観察すると、全身を鉄のような重厚な鎧で覆っており、メアリーとは違い、剣を背負わず、脚のホルスターに収めている。

さらに、ヘルメットをかぶっているせいで、性別すらわからなかった。


そして次の瞬間――


「ご無礼をお許しください!」


その鎧のNPCは、私の前に来るなり、いきなり頭を下げて謝罪してきた。

……な、なんで?


メアリーはその背後から彼の鎧を叩いて、励ましている。


「えっと……何があったんですか?」


「お許しください!

任務中に靴の効果がここまで素晴らしいとは思わなかったのです!」


「どういうこと?」


「あなたの作った靴のおかげで、メアリー先輩の動きが格段に上がり、

私が川に落ちそうになったところを助けてくれたのです!」


相変わらず、彼は頭を下げたまま動かない。


「そうか、君も無事で良かった」


「本当にありがとうございます!」


ついに顔を上げたそのNPCは、感情を抑えきれない様子だった。

そして突然ヘルメットを外し、私にその顔を見せてきた。


右目の下には縫い跡のような傷、黒髪、そして――

エルフのような薄い肌色。


……まさか、この人って、本当にエルフなの……?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ