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第10章 グレースの優しさとワールドマーケット

グレースは手助けしてくれたお礼として、自分が働いている治癒ショップに招待してくれた。ちょっとした飲み物でもどうかと。俺もそれを快く受け入れた。


治癒ショップの中に入ると、数人のプレイヤーたちが治癒用のハーブやマナポーションを買っていた。レジに立っている別のNPCに、ハーブやポーションひとつにつき2ゴールドを支払い、買い物を済ませていた。


彼らが満足そうにショップを後にするのを見ながら、俺の頭の中には一つの疑問が浮かんでいた。


(このゲーム、靴職人にだけ違う通貨制度でもあるのか?)


だって、俺はまだ一度もゴールドを使って買い物したことがないし、そもそもこのゲームの通貨システムについて何も知らないのだ。


ゲーム画面を開いてみても、ゲームを始めてから一度も一般チャットやゲーム内マーケットの表示が出ていないことに気づいた。普段ならそんなもの気にしないのに、掲示板を見ていたとき、他のプレイヤーたちが楽しそうに取引しているログを読んで少し羨ましくなってしまった。


俺がそんなことを考えていると、グレースが手で二人掛けのテーブルを示した。


治癒ショップにしては、テーブルにはカラフルな花柄の布がかかっていて、まるで花屋のような雰囲気だ。よく見ると、壁の棚には様々な花が飾られており、ここが治癒ショップというよりも花屋のように見える。


「何を飲みたい?」

「コーヒーで大丈夫です、ありがとう」

「わかりました、すぐ持ってきますね」


感情がコロコロ変わるタイプの彼女だが、今は穏やかに別の部屋へと消えていった。


……と思ったら、すぐに部屋から戻ってきた。手にはコーヒーカップが二つ。俺の向かいに座り、さっそくコーヒーを一口飲んでみた。


……これは……うまい!


たぶん、コーヒーにココナッツの香りが混じっている。予想以上に風味が豊かで、とても驚いた。


もし星をつけて評価できるなら、間違いなく10点満点をつけたい。……いや、治癒ショップのコーヒーに点数つけるのも変か。


「立ち上がるときに助けてくれて、靴ひもまで結んでくれて、本当にありがとう」

「そんな、何度もお礼なんていらないよ。ほら、こうしてコーヒーをごちそうしてくれたし、俺の方こそありがとう。このコーヒー、本当に最高!」


「よ、よかったぁ……。気に入ってもらえないかとドキドキしてたから……」


安堵の表情を浮かべながらコーヒーを飲み続けるグレース。メガネが湯気で曇っていて、少し面白い。


――だが、その「いい感じ」の雰囲気を壊したのは俺だった。


持っていたコーヒーカップが手から滑り落ち、机の上に落ちてしまった。手にもコーヒーがかかって、少し熱い。


「だ、大丈夫!? 手、痛くない?」


慌てた様子のグレースは、俺の返事を待たずに棚の近くに走っていった。何やら瓶を一つ開け、中からハーブを取り出して俺のところへ戻ってきた。


今度のハーブは、前に使ってくれたときみたいに噛まずに、直接手に塗ってくれた。どうやらハーブはすべて噛めばいいというわけではないらしい。


「これで……大丈夫、だよね?」

「ああ、平気。ありがとう、わざわざごめんね」


【おめでとうございます!

NPCとの交流が順調に進んでいます!

これでお買い物の準備が整いました。

グレースが使用したハーブの代金を支払ってください。

支払いのために、ズボンの右ポケットに自動的に1ゴールドが追加されました。右ポケットを確認してください。

グレースが受け取りを拒否しても、ハーブの支払いは必須です! 忘れないでください、必須です!


新アップデート……

新アップデート……

新アップデート……


また、画面下部の「ワールドマーケット」タブのロックが解除されました!

他のプレイヤーに自分の作った商品を販売できます。トーマス師匠と作ったアイテムも売れます!

もちろん、気に入った商品を購入することも可能です!


注意!!!

現在のレベルは1ですので、自分用の靴を作成することはできません!

レベル25になってから、自分専用の靴を作れるようになります!】


……なんだこの長い通知は。強制支払いだって?


右ポケットを確認すると、本当に1ゴールドが入っていた。


グレースは最初、支払いを固辞していたが、何とか説得してようやく受け取ってもらった。


支払い後にまた通知が来るかと思ったが、何もなかった。


それより気になるのは、画面右下に新たに表示された「ワールドマーケット」のタブだ。


ワクワクしながらそのタブを開くと――


……なんだ、これ?



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