お爺ちゃんが散歩から帰って来た
「オーイ、美千代帰ったぞー」
と言って何処かのお爺さんが自宅の庭に入って来た。
庭の花壇の手入れをしていた私はその見知らぬお爺さんに問い返す。
「何方様ですか?」
「何言ってんだよ、お前の亭主の礼一じゃないか」
「え? 嘘! 礼一お爺ちゃんなの?」
私は驚き思わず大声を出してしまう。
「何だよお爺ちゃんって?」
「美千代お婆ちゃんは90年程前に亡くなってます。
私は礼一お爺ちゃんと美千代お婆ちゃんの孫で、お爺ちゃんが未来永劫幸せにって考えて名前を付けてくれた、未幸です」
「え?」
今度はお爺ちゃんが驚き黙り込む。
礼一お爺ちゃんは100年程前、散歩に出かけたまま行方不明になる。
90を過ぎていながら足腰が衰えておらず、散歩と称して川沿いの遊歩道を歩き続けて隣の街まで行ってしまったり、展望の良い山の上まで登って行ってしまったりしていた。
だから行方不明になったと知って、周辺市町村の人たちまで巻き込んで大捜索が行われたが見つからなかったのだ。
それから騒動になった。
100年前に行方不明になった老人が、行方不明になった時と同じ年齢で見つかったのだから当然と言えば当然だろうけど。
礼一お爺ちゃんと直接面識があった私とお爺ちゃんの1番下の息子で、今現在重力が地球より軽い月面基地で暮らしてる吾郎叔父さん、私たち2人と礼一お爺ちゃんとの間で記憶の擦り合わせが行われた結果、間違い無く行方不明だった礼一お爺ちゃんだと認定される。
お爺ちゃんによると、行方不明になった日は近くの山を散歩しようと山道を登っていたら、記憶に無いトンネルを見つけてこんな物何時出来たんだと入ってみたらしい。
トンネルは不思議な事に中で湾曲しているのか、トンネルから出てきたらトンネルに入った場所に出たという。
それで狐か狸に化かされたのかと気持ち悪く感じて帰って来たら、100年経っていたのだと話してくれた。
街の警察が近くの山に行きそのトンネルを探したのだけど、トンネルなんて何処にも無かったという。
そして礼一お爺ちゃんは、私の孫で礼一お爺ちゃんの玄孫を連れて今も元気に散歩を続けている。