04 いつもの今日
おはようございます。
英美愛です。
今日も一日、元気に頑張りましょう。
ベッドからゆっくりと起き上がり、太陽の光を浴びるためカーテンを開ければ、そこから覗く風景は……いつもと同じだ。
そろそろメイドがやってきて朝食を渡されるのだろう。
そう、決行を決めたあの日、ぶつかってしまった男性と別れてから門近くまで行けはしたのだが、急に目の前が真っ暗になり、ぶっ倒れてしまった。
朝起きたらベッドの上で、結局部屋に連れ戻されていました。
どうして倒れたのか理解できなくて、病気とか何か異常があるのかもしれないと、ステータスを確認したが全くの異常なし。だが、不思議なことに、聖女のスキルレベルが10も上がっていた。
可能性を上げるのだとしたら、初めて他人に聖女の力を使ったからなのかもしれない。ちょっと力み過ぎたか。
それでも負けじと毎晩トライしてみるが、巡回している騎士に首根っこ引っ掴まれ連れ戻されたり、めちゃくちゃ怒られたり、ことごとくを騎士に防がれている。
最終的に部屋の前に護衛が立つようになってしまった。本当に終わってる。
「ここから抜け出すには一体どうしたら……」
美愛は抜け出せない現状にどうしたものかと、唸るように頭を抱えた。
「おはようございます」
そう言いながら部屋に入ってきたメイド、メアリーは毎日朝食を準備してくれる唯一の世話係である。
美愛が夜な夜な逃げ出すようになってから、食事が段々と豪華になっていってくのに比例して仕事が増えるため、毎日何かしらイライラしている。
別に食事に不満があって抜け出そうとしているわけではないのだが。衣食住のグレードアップをはからってくれるのはとてもありがたい。まぁ、依然としてメイドの数は増えないし、この建物にはこの人だけなんじゃないかというくらいに、彼女しか見ない。
メアリーはピンクのくるくるした髪をゆるく結い、ぱっちりしたブルーの瞳はお姫様のような印象である。
この世界の女子は本当にレベルが高くて、純日本人の美愛は羨ましいかぎりであった。
「はぁ、私も早くヨーコ様付のメイドになりたいわ。こんなハズレじゃなくて」
ただし、本人を目の前にしてこの性格である。陰でこそこそするとかじゃないんだよね。もう、これはこれでいっそ清々しくはあるが、やっぱり腹が立つのは当然ではある。なのに強く言い返せない根性なしの私を笑うなら笑えばいい。だって怖いもん。
「貴女、聖女の力があるのにヨーコ様に全部押し付けて何もしないハズレ聖女って、呼ばれてるのなんとも思わないわけ? 自分の仕える主人がこんなんじゃ私の立場がないじゃない」
それはとても申し訳ないけれど、ハズレ聖女は言う必要ないよね?
そもそも勝手に人の仕事を奪ったのはあちらの方だと抗議する言葉は持ち合わせていない。ただ、メアリーが食器をカチャカチャ音を立てながら並べ、反論しない美愛に聞こえるくらいの独り言を話し続けた。
「ヨーコ様は貴女と違って毎日、ロイド殿下とお食事を共にしてるし、移動する度にロイド殿下の近衛騎士様も、大神官様も、大魔術師様も、留学中の隣国の第三王子様も、ヨーコ様と行動を共にしてるらしいじゃない? 本当に羨ましい。はぁ、どうして私、ここに居るのかしら」
「ぐぬぬ」
美愛の口から絵に描いたようなぐぬぬがこぼれた。完全に洋子がこの世界の主人公で、私が脇役だったってこと? 最早ハーレムを築いてるじゃないか。
「知らないのも当然よね、ハズレの聖女様だもの。あ、じゃあこれも知らないんじゃない? 来月、ヨーコ様のために陛下が舞踏会を開くってこと」
「え、舞踏会?」
「ヨーコ様は昨日、その舞踏会でお召しになるドレスを仕立てるために、ロイド様がわざわざお呼びになったフレイベルのデザイナーとお会いになったそうよ」
フレイベル? と、疑問を浮かべていた美愛に、鼻で笑いながらメアリーはつづけた。
「フレイベルは、今この国で一番人気のドレスデザイナーが居る有名なドレスメーカーで、現国王陛下が即位なされてから王室のドレスは全てフレイベルなの。王室お墨付きのドレスメーカーよ、貴族ですら予約をするのにも1年待ちなんて当たり前なんだから。それなにのヨーコ様付のメイドたちなんて、持参されたサンプルのドレスを何着かいただいたって! 本当にずるいわ!」
それだけじゃないの、と憤りを食器に当たり散らしながらメアリーは止まらない。
宝石に靴、帽子、装飾品一式揃えるために有名なデザイナーたちがやってきていたそうだ。
メアリーはヨーコ様のお付きだったらと、悔しそうに何度も言葉にする姿は滑稽ではあるが、そんなことよりこれはチャンスなのでは?
今まで夜、不法に抜け出そうとしたからよくなかったのだ。合法的に外に出られるのなら、これを逃す手はない。またとないチャンスだと、美愛はメアリーに飛びついた。
「その舞踏会、私も行けるのかな?」
今まで黙って聞いていた美愛が突然食いついてきたことにメアリーは驚きはしたが、すぐさま首を横に振った。