表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女なんか知らない  作者: 鷹取ヒオ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/34

24 仮面の下の

 数字が飛び交う中、どんどんと跳ね上がるその値段に、美愛はガタガタと震える手を押さえこんだ。


「に、にひゃくっ!」


 ついに到達してしまった絶対に使ってはいけない上限金額を宣言してしまった事に震えた。ごめん、メアリー!

 心の中で許しを請う美愛は、どうしてこうなってしまったのか頭を抱えた。



 司会の男がオークションについて説明をしている。参加する人間は仮面を着け、配られた数字の札を上げて金額を宣言する。

 そして、上げ幅は自由だがシルバーから開始され、購入者の声がなくなり次第終了する。

 そうして説明が終わり、司会が静かに呼び込んだ最初の商品。

 華やかに青く輝く五つの宝石で花を表現している花モチーフのネックレスだった。サイドにアクセントとして緑色の違う一粒ストーンが添えられている。

 このネックレスは展示されていた商品のうちの一つである。


■サピロのネックレス

・青い宝石はサピロ(地球ではサファイアにあたる)

・緑の宝石はラーキ(地球では孔雀石にあたる)

・推定価値800G


 ぐっ。

 やっと出てきてくれたウィンドウの内容にとんでもない声が出そうになった。こんな価値のあるネックレスが出てくるなんて。

 そうこうしている間に値段がどんどん跳ね上がっている。10シルバーから始まって、もう10ゴールドまで来ている。


「よし、30ゴールド!」


 美愛の気合の入れた声が響いた。

 可愛いし、価値が高いものなら尚更。

 だが、そう思っていたのは自分だけではない。


「40ゴールド」

「54ゴールド」

「60ゴールド」


 どんどんと声が上がる中、一際大きな声が耳に届いた。


「100ゴールド!!」


 美愛は見たくなかったが、自然に声の主に視線をやってしまった。

 そこに居たのは、メアリーを突き飛ばした名も知らぬあの憎き大貴族様。

 あれに負けるのは気分が悪い。だがしかし、競っているのはなにも彼女だけではない。周りの人間全員がライバルなのである。

 美愛の提示した金額をはるか飛び越え、大貴族様も小刻みに値段を上げている中、既に220ゴールドまで来ている。

 手が届かなくなってしまった金額に、美愛が札を上げることはなくなった。

 220ゴールドと言ったのはあの大貴族様だ。実質、美愛の負けである。

 このまま決まるのだろう。ふぅ、とため息が漏れた。歯痒い思いではあるが、きっと本当にどこかの貴族令嬢なのだろう。財力では適うはずがない。

 このまま誰もが彼女の勝利を告げるハンマーが振り下ろされるの待った。


「300」


 静かに響いた声は、美愛の隣から出ていた。美愛が札を上げているときは何も反応しなかったニクスが札を上げていた。


「さ、305!」


 突然跳ね上がった金額に、札を上げ競い合っていた者たちも静かになった。だが、食い下がる大貴族様。

 ニクスと大貴族様の一騎打ちが始まった。


「310」

「311!」

「320」

「321!」

「330」

「333!」

「400」

「うぅっ」


 呻く声が響いた。

 ニクスの勝ちである。

 落札を知らせるハンマーの音が鳴り、拍手が沸き上がった。

 すぐさま商品は下げられ、ニクスの傍に黒い燕尾服の男がやってきた。ニクスは燕尾服の男が差し出した契約書のようなものに慣れた手つきでサインをしている。


「落札おめでとうございます。商品の方は」

「すぐ受け取りたい」

「かしこまりました。ではお帰りの際に」


 慣れた滞りない会話に美愛はぽかんと口を開けている。


「お、おめでとうございます!」


 落札の祝福を伝えると、仮面越しでも分かるくらい優しく微笑むニクスに、あの大貴族様に勝ってくれてありがとうございます! と、心の中で賛辞を述べた。

 だが、商品はこれだけじゃない。続々と出てくる商品に、賑わうオークション会場。

 最初の一つ以外はウィンドウも出てこず、競り落とせはしなかったけど、参加できたことが嬉しかった。

 展示されていたケースの最後の品が誰かに落札された。これでもう終わりかと凝り固まった体を伸ばした。

 司会が再び前に出てきて、現れた商品は万年筆だった。

 深みのある茶色のシックな色合いの軸に、金のペン先に装飾が施され、高級感を演出していた。


「こちらの万年筆は、ラウダ公爵様より提供されており、提供品の収益は全て孤児院へ寄付されます。皆さまこぞってのご参加何卒よろしくお願い申し上げます」


 それでは1シルバーから。そう言うや否や、多くの声が上がった。

 これは万年筆が欲しいからではなく、寄付をしようというみんなの誠意が現れたのだろう。

 大貴族様も札を上げていて、ちょっとほっこりしてしまった。

 勿論、美愛も札を何度か上げたが、20ゴールドのあたりで静かになった。美愛的には、ただただニクスの物が欲しかったという、推しの出したグッズが欲しいファンの図であった。

 無事に54ゴールドで競り落とされていた。おめでとう、誰か知らない人。大切にしてね。絶対だからね。そんな私怨のような念を込め拍手を送った。


 ここからは一般人が持ち寄った商品のオークションとなる。

 司会も巷で有名なエンターテイナーに変わり、面白可笑しく進行していく。

 出品者も登場したりとコメディ溢れるオークションとなっていた。


「では、続きまして……えー、こちらが本日最後の出品物になります、えっとこれは、なんということでしょう、誰かの日記のようです」


 司会が冗談交じりにこれは大丈夫なのかと零した。ドッと沸く会場。


「この日記は、出品者の曾祖母様の所有物で、曾祖母様は神殿で働いていたそうです。当時の甘酸っぱい記憶や、もしかしたら先代聖女様の事を書かれている可能性は大いにありますね。では、この日記を1シルバーから」


 シンと静まり返るオークション会場。

 何故他人の日記を競売に出すのだ。と全員が思っているだろう。これには司会も苦笑いを隠せない。

 美愛もただの日記ならば笑って終わっていたが、それが出来ない事実にふるふると震えるその手が札を上げていた。


■聖女の日記帳

・初代聖女の使っていた大学ノート

・保存の魔法がかけられている

・推定価値不明


「2シルバー」

「10シルバー」


 美愛の宣言のすぐ後、食い気味に宣言された10シルバー。きっと誰も買わないだろうと思っていたのに。

 声の方を見れば、あの大貴族様があからさまにこちらを見ている。仮面では隠せないくらい吊り上がった口元がまるで嘲笑っているようだった。

 な、なんか、ムカつく……。


「15シルバー」

「20!」

「30!!」


 最早因縁の対決である。

 周りの人たちは女の子が二人で争っているのを微笑ましく見守っていた。


「えー、ここで追加での補足となりますが、なんとこの日記、読むことが出来ないそうです。どの国の言語が使用されているのかも不明だそうで……ですが、出品者の曾祖母様が生前とても大事にしており、もしかしたら価値があるのかも、と思い今回出品したそうです。これは本当に過去の歴史を綴っている可能性もあるかもしれませんねぇ」


 頼むから余計なこと言わないで!!


 司会の補足情報に心の中で涙を零しながら拳を握りしめた。

 神官が所持していた言語不明の日記。その言葉に魅せられた人間たちが続々と札を上げだした。

 それにつられ、もしかして本当に価値のあるものなんじゃ? と札を上げる者、面白半分に値段を吊り上げるだけの者が参加しだした。

 まさにお祭り騒ぎのようにどんどん吊り上がる値段に美愛は頭を抱えた。

 あんな何が書かれているか分からないノートがすでに50ゴールドまでに上っている。

 それ以上は声を出さないで欲しい。切に願いながら札を上げ続ける美愛に、ニクスは首を傾げた。

 ついに90ゴールドまで達し、続々と降りていく者たちを尻目に美愛は札を上げ続けるしかない。

 

 うわぁあん、もう、やめてよぉ! メアリーに怒られる!


「100ゴールド!」


 大貴族様の声だ。

 もうだめだ。ここはいっきに吊り上げて引いてもらうしかない。だが、美愛に出せる上限金額は200ゴールド。しかも、使っていい金額は150ゴールドまでと念まで押されている。それでもこのノートは自分が獲得しないといけないノートだと、本能で理解している。

 ごめん、メアリー! 次の申請日まで贅沢しませんっ、パンとスープで耐えるから!!


「に、にひゃくっ!」


 ぎゅっと目をつむり、宣言した金額に札を持つ手が震えて止まらない。

 もう誰も札を上げないでくれ頼む。

 大貴族様の声は聞こえない。ああ、本当にごめん、メアリー……。

 美愛がそっと目を開けた瞬間。


「201ゴールド」


 心の底から祈った美愛の願いは虚しく、誰かの声が響いた。

 誰?

 札を上げている人は、すぐ隣に居た。

 静まり返るオークション会場。

 振りかざされるハンマー。


「に、201ゴールドで落札! おめでとうございます!」


 司会の声が静寂を打ち消し、拍手が響き渡った。四方から、お嬢ちゃん盛り上げてくれてありがとう。だとか、よく頑張ったね。だとか、残念だったね。など、労いの声が届く中、全身から力が抜けて放心状態だった。

 酷いよニクスさん……。

 恨めしそうに二クスの方を見れば再びサインをしていた。


「落札おめでとうございます。商品の方は先程の物と同様に」

「ああ、頼む」

「かしこまりました」


 ちょっとだけ読ませてくれないかお願いしよう。

 

 えんもたけなわ、司会が呼び込んだ歌姫の歌がフィナーレを飾り、拍手喝さいでオークションが終了した。

 結局、自分が競り落とせたものはなかったけれど。

  

「楽しかったー!」


 長時間座っていた体をほぐす様に背伸びをしながらオークション会場を出れば、辺りはすっかり暗くなっていた。

 花祭りはこれから終盤に差し掛かる。


「これから花火があるらしいが」

「花火、見たいです! あ、でもメアリー達が」


 会場前を見渡してみるが、メアリーとカインの姿が見えない。治療が終わればオークション会場まで戻ってくると思っていたが、二人に何かあったのだろうか。


「居ないようだな」

「何かあったのかな?」

「やぁ。侍女と護衛君は教会の方に居るみたいだよ」


 突然背後から現れた影にびくりと飛び跳ねた。

 ニクスはやれやれといった感じでその影の正体を睨んだ。


「……それ以上彼女に近づくな」

 

 低く苛立ったようなニクスの声に悪びれる様子もなくニコニコと微笑んでいるフィロが居た。

 夜に紛れるような黒い外套に身を包み、その手には屋台で買ったのかフルーツ飴があった。

 

「教会? 仮設救護室じゃなくて?」

「仮設救護室は順番待ちの患者が多かったらしくて、そのまま教会の方まで行ったみたいだよ」

「そっか。花火まで時間あるかな?」

「気になるのなら教会の方へ行こう。ここから教会までは一本道、入れ違いになることも無いだろう」


 歩き出すニクスにフィロがそっと駆け寄って何かぼそぼそと喋っている。途端にニクスから距離をとり「じゃあね」と姿を消した。

 凄い身のこなしに関心していると、少し顔の赤くなったニクスがこちらに向き直ってスッと手を差し伸べてきた。


「えっと」


 これは、もしかして、手を繋いでくれる、と?


「はぐれるといけない」

 

 普段のエスコートではない。差し出された大きな手を美愛は迷うことなく握り返した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ