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聖女なんか知らない  作者: 鷹取ヒオ


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22 オークション会場

 クレアとオリバーの二人と別れてからオークション会場へ移動し、開場が始まっていたので人の流れのまま中へ入った。

 仮面を着けるのは競りに参加する人間だけで、既に仮面を着けている人間をちらほら見かけ、美愛も忘れないように仮面を着けた。

 オークションが行われるメインホールまでの通路には警備の人間が立っており、その横を過ぎれば本日のオークションにかけられる商品が丁寧にケースに入れられ展示されていた。

 数にして五つ程である。


「うーん、思ったより少ないね?」

「そのようですね」


 美愛と同じようにメアリーも首を傾げた。


「ここで展示されているのは鑑定士によって高額なものと判断された商品だけです。リスト上では高額ではないにしても価値のある骨董品もいくつかあるみたいです」


 いつの間にかリストを所持しているカインに驚いたが、彼は確か侯爵家の人間、こういう場所には慣れているのだろう。カインが居てくれれば安心安全。早くオークション始まらないかなぁ、とウキウキでケースの前から移動しようとした。


「ちょっと、邪魔よ! 見えないじゃない!」


 急にキンキンとした声が響いた刹那、メアリーの体が勢いよく展示ケースにぶつかった。


「うっ」

「メアリー! 大丈夫?!」


 小さく呻くメアリーに駆け寄り、大丈夫かと体を支えた。

 こうなった原因を突き止めるように視線を向けた先には、一体どこから人一人を吹っ飛ばすほどの力が出るのか疑問に思える華奢な女の子だった。

 ブロンドヘアーは緩めのソバージュで赤いリボンが飾られ、ひらひらのフリルがふんだんあしらわれたドレスは、洋子が流行らせたデザインを魔改造したのかというようなデザインだった。

 なによりも目が行くのは、ギラギラとした宝石が散りばめられた仮面と胸元の大きな宝石のついたネックレスだ。少女のような彼女に似つかわしくないそれは、彼女の品位を損なうには十分な代物だった。

 そういえばこのキンキン声に派手で奇抜なドレス、今日どこかで……。


「なによ、人を悪者みたいに。少しぶつかっただけじゃない、大げさね。これだから平民は」


 不満げに腕を組み美愛達を見下し、フンと鼻を鳴らす彼女の瞳には不遜な色が垣間見えた。

 ぶつかっただけと主張しているが、明らかに突き飛ばしていたように映ったし、なんなら通路脇に等間隔で並んだケースとケースの間に立ってたメアリーに、どうぶつかればケースに頭をぶつけるくらいに吹っ飛ぶと言うんだ。


「ちょっと貴女ね」

「人を突き飛ばす非道な行為に平民も貴族も関係ありませんよ。まず謝罪するのが人間なのでは?」


 メアリーを支えるように立ち上がった美愛の言葉を遮ったのは般若のような顔をしたカインだった。

 カインの剣幕に一瞬たじろいだように見えたが、その少女は地団太を踏むようにヒールを鳴らせば、プルプルと震え出した。


「この大貴族である私が平民ごときに頭を下げろなんて、お前たち無礼にも程があるわ!」

「無礼なのは君だろ」


 ぴしゃりと言い放つカインの声は冷たかった。


「この会場で仮面を着けている以上、身分を笠に着た発言は止した方がいい」

「私に説教? なんて浅慮で愚かな男なのかしら。今すぐ跪いて謝るというのなら許してやってもいいわよ」


 言っても分からないのか、話の進まないこの状況にカインは呆れたように頭を振った。

 今でも自分が優位に立っていると勘違いしているのか、不遜な態度を崩さない。カインが侯爵家の人間だと知ったら彼女はきっと卒倒するんだろうな。美愛は彼女に対して怒りでいっぱいだったが、この場はカインに任せることにして、メアリーにハンカチを差し出した。


「君のそれが、淑女教育もまともに出来ないような家だと宣伝して回っていると何故気付かない? そんなにご自慢の御家なら、そろそろ家名を名乗ったらどうなんだ?」

「い、今、私を馬鹿にしたの? 私を馬鹿にしたわね、あんた! もう絶対許さない! お父様に言いつけてお前たちなんて王都から追い出してやるんだからッ!」

「お、お嬢様、警備の者がこちらを見ております、これ以上はおやめになった方が……ご当主様に知られたら」


 後方に居た召使のような気弱な男性がやっと止めに入った。心もとない声だったため、誰もが忠告を聞くわけないと思っていた。しかし、当主という言葉に反応した彼女は悔しそうに口を曲げた。


「うるさいわね、もういいわ。お前たちの顔覚えたわよ、精々最後の王都を楽しむといいわ」


 お付きの男性が頭を深々と下げる一方、結局家名も明かさず謝罪もせず捨て台詞のように吐き捨ててスカートを翻して行ってしまった。

 そんなことよりメアリーだ。

 ハンカチで押さえてはいるが血が止まらず、小さな怪我でも頭部だと出血がひどいのは当たり前なのだが、それが痛々しくて我慢できなかった。

 

「待って、今」


 治すよ、と言う言葉と行動はメアリーによって遮られた。


「こんなところでいけません」


 ちらりと周りを見回せば警備の人間がこちらの様子を伺っていた。警備の人間も貴族とのトラブルなんて御免なのだろう、助ける素振りすら見せないが、しっかりと視線はこちらを向いている。


「でも」

「広場の方に仮設の救護室がありますので、そこで手当してもらいます」

「こんな人混みなのに怪我人を一人で行かせられないよ」

「これくらいへっちゃらです。それに、オークションすごく楽しみにしてたじゃないですか」


 額をハンカチで押さえるメアリーに優しく諭され、美愛は口籠った。だけどどう考えてもメアリーを一人で行かせることなんてできない。


「カインさん、メアリーを救護室まで連れて行ってあげてください。私ここで良い子で待ってますから」

「さすがにそれは……」


 カインとメアリーはそれは駄目だと口を揃えた瞬間だった。


「では、彼女のエスコートは私に任せてもらおうか」


 突如降ってきた声に三人が顔を上げた。

 仮面を着けていても声や仕草でわかる。

 ニクスその人だった。



「わかってますか、200ゴールドありますけど、使っていいのは150ゴールドまでですからね! それ以上使ってしまっては次の申請日までかっつかつになりますからねっ?!」

「わ、わかった、絶対それ以上は使わない! それより早く救護室に行ってきて」


 これでもかと念を押すメアリー達の背中を押し、強引に二人を見送った。


「ニクスさん、今日はよろしくお願いします」


 返事をするようにすっと腕を開けてくれた。ニクスにとっては当たり前のことだろうが、美愛にとってはエスコートを受けことにまだ慣れておらず、少し恥ずかしそうに、その空いた腕の隙間に手を回した。

 みんなの前では不自由を見せていた足も、仮面で素性が隠れているからか今は杖をつくことなくファッションのようにただ持っているだけだった。何かあるのだろうけど、それを深く聞くことに躊躇い、美愛は見ないふりをしてオークションが行われるメインホールへと入場した。

 オークションが行われるメインホールは、三層吹き抜け階段のある大ホールで、参加はしないが見学をする者たちは二階と三階にそれぞれ上がっていた。

 中央にはよくわからないシャンデリアのようなオブジェクトがぶら下がっている。グレードの高いホテルのような規格外の装飾に美愛はぽかんと口を開けるしかなかった。

 動きが鈍い美愛を急かすことなく、ニクスはゆっくりと空いている席に誘導してくれた。

 ペアシートのようなゆったりしたソファに腰掛け、ふと隣を見た。

 長い脚を組み背もたれに体を預けているニクスは、まるでどこかの美術館から飛び出してきた芸術品なのでは? という優雅さを醸し出している。

 これが本当の貴族の優雅さなのだろう。さっきのキャンキャン煩い大貴族様に見せてやりたい。


「オークションに参加するとは、何か欲しいものでも?」

「いえ、狙っているものがある訳じゃないんですけど、初めてなので参加してみたいなって」


 興味本位です、と恥ずかしそうに頬をかく美愛にニクスの口元がフッと柔らかくなった。


「このオークションは誰でも気軽に参加ができるから、楽しむと良い」

「はい!」


 掘り出し物があればなぁ。ここは突然現れるウィンドウに期待を込めてオークションの開始を待った。

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