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聖女なんか知らない  作者: 鷹取ヒオ


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18 聖女のジレンマ


 あれから美愛は聖女とはなんだろうと深く考えるようになった。

 あそこまで聖女であることに拘る彼らに異常なものを感じてしまったからだ。

 小さな書斎で、どうして聖女が必要なのかという疑問を解消するためいくつかの書籍を読みふけっていた。

 今更聖女という役職に興味などない。洋子が代理から正式に聖女に昇格することだってどうでもいい。だがそうなった場合、歴代の聖女はただ一人だったはずなのに美愛と洋子、二人の聖女が存在するということになる。

 そして問題なのが聖女のはずである洋子がロイドを治療できないという事実。

 文献の聖女たちは不治の病を治療し、毒や瘴気を浄化できる存在だったとあるが、美愛自身でさえロイドを治療できるという保障なんてない。もしかしたら美愛ですら治療できないのかもしれない。

 だとしたら、今代の聖女とは何だとなる。


「創作物の世界だと聖女様って全知全能なイメージなのに、この世界はそうじゃないのかなぁ?」


 最終的にこの世界が抱えている問題って一体何? という疑問にぶち当たる。

 歴々の聖女たちは召喚された当時、この世界に大きな問題があり、その問題の原因を突き止めて解決に導いた。

 そんな聖女たちの活躍は沢山の歴史書に記されているが、それだけなのである。それ以外の二百年、王国の歴史は特筆すべき事象もなく正に平和そのもの。

 聖女のお陰で二百年の平和が確約されているだけなのかもしれないが、平和な日本ですら二百年の間に様々な自然災害、人災、疫病、経済や科学の発展、世界情勢など色々なことが変化する。なのに、この世界はまるで時が止まっているようにそれがない。

 初代から千年以上も経っているのに基本的な通信手段が紙媒体。貴族市民問わず移動は馬車に徒歩、魔力や魔法があるのに発展しない生活水準に貧富の差。未だに結界を越え海の向こうへ渡る手段すらない。

 そして、そんな生活を当たり前のように享受し生まれてから死ぬまで結界の外へ出ることがない人々。

 この世界はどこかおかしい。

 

「問題が発生したから聖女が来るのではなく、聖女が来たから問題が発生する?」


 ぼそりと呟いた言葉はストンと素直に降りてきた。

 もし、なんらかの原因で問題が発生し、聖女によりそれが発覚するのなら、次の聖女が現れるまでの間が平和だというのは納得がいく。その問題を認知する聖女が居ないのだから。

 それを前提で考えるのなら、今この時代で起きた問題とはなんだろう。

 自分が知っている範囲での大きな問題を上げるのであれば、離宮に幽閉されているこの状態、は違うか。

 二人の聖女に居るはずのない場所に現れた魔物、それにより死にかけている王子。

 これくらいだろうか。

 そこまで考えて、この世界に対しての情報が少なすぎると頭を抱えるだけだった。洋子のように外の世界へ頻繁に出ることができていたら、そして、もっと頭の回転が速ければ気付けることもたくさんあっただろう。


「……卵が先か鶏が先かみたいな話? 頭パンクしちゃうよ」

「聖女様、お時間よろしいですか?」


 うーん、とデスクで頭を抱える美愛に遠慮がちにメアリーが声をかけてきた。

 

「聖女様宛にお荷物が届いてます」 


 荷物? 通販なんて頼んでないけどな。

 誰にも通用しない冗談を心の中に押しとどめ、メアリーの後について書斎から出た。

 美愛の前に届けられたのはたくさんの箱だった。


「えっと? どういう状況?」


 カインが業者を案内し、クレアが荷物をどこに置くかの采配を取っている。


「舞踏会は四日後ですから、その準備品です」

「ってことは、ドレス間に合ったの?」

「はい、カイン様のお陰で無事届きましたよ」

「カインさん、本当にありがとうございます!」

「いえ、自分は相談しただけで、用意してくれたのは」

「カイン、こちらを手伝ってくれ」


 クレアが咳払いをしながらカインの腕を引いった。

 不思議に思ったが、今はそれどころではない。

 わーい! と嬉しさのあまり小躍りしそうになる美愛をメアリーはソファに誘導した。

 しばらくして業者が立ち去り、次いで入室してきたのはドレスを仕立てた者たちだった。

 恭しくお辞儀をするドレスメーカーは美愛の前に二つの布を被せたトルソーを並べた。二つもあることに驚いた。


「お初にお目にかかります、先代王にお抱え頂いておりましたドレスメーカー、ロジェットより参じましたモネロでございます。この度は急ぎ準備した次第で二着しか持参できず、申し訳ありません」

「一着でもよかったのに、二着も準備していただいてありがとうございます!」

「まぁ、心お優しいお嬢様で大変恐縮でございます。このドレスがお嬢様のご希望に添えられているとよろしいのですが」


 モネロと他の従業員たちがドレスの後ろにドレスの色が映えるように濃い色の幕を垂らした。


「それではせ、コホン。お嬢様、今からお見せいたしますので、どちらを舞踏会でお召しになるかお選びください」

「は、はい!」


 するりと被せられた布が解かれ、現れたのはタイプの違う二種類のドレス。


「わぁ……どっちも素敵」


 二つとも白を基調としているがポイントの色が違う。

 片方はシルクの様な生地感で、淡いブルーのロングのプリーツスカート。スリットが入っておりその間からは綺麗なレースが顔をだしている。白い刺繍のデザインがとても美しく、腰に巻かれている紫紺のリボンも印象的だった。

 もう片方は、白とグリーンのグラデーションのフレアドレス。裾のほうにいくに従い色が濃くなり、散りばめられた宝石たちは草原に咲く花のように少女らしさを演出し、清涼感のあるドレスになっている。


「ど、どうしよう、どっちも素敵で選べないっ」

「どっちもお似合いになると思います、好きな方をお選びください」

 

 モネロがにこりと微笑みながらあちらのドレスはこうで~、こちらは~、と色々説明してくれた。

 そんな最中、扉付近に立っていたカインが伝言を預かった他の護衛に声を掛けられていたのに気付いた。

 もしかしてついに王宮からの要請が? そう思ったが、伝言の相手はクレアで、カインが耳打ちすればクレアが少し席を外します、と顔色を変え部屋から出て行った。


「何かあった?」

「ご家族の方から緊急の連絡があったそうです」

「そう、何事もなければいいけど」

「今はドレスを選ぶのに集中しましょう? 一度試着しておなおしがあればお願いしないといけませんので」


 今日中に選んでお願いしないと間に合いませんと言われ、再度二つのドレスを見比べた。

 グリーンのドレスはとても可愛くて両側についているオーガンジーのリボンもひらひらしていて私好みだ。でも、背中が少し開きすぎている気がする。

 もしこのドレスでダンスを踊るのなら、相手の手が素肌に触れてしまう。それはちょっと恥ずかしいかもしれない。そこまで考えた瞬間、ニクスの顔が浮かんだ。

 いやいやいや、ニクスさんはどうしてかみんなの前では杖をついているから、ダンスなんて絶対踊らないでしょ。いや、でももしかしたらチャンスあっちゃうかも?

 も、もしこれをきてニクスさんと踊るのなら、ニクスさんの手が素肌に??

 キャーッ、ダメダメ破廉恥すぎる~!

 ぶんぶんと理性を取り戻すように首を振った。

 そこまで考えれば、美愛の中で答えは決まった。

 

「こっちにします!」


 指さしたドレスに一度袖を通し、修正箇所を確認すれば急ぎ取り掛かります、そういってモネロたちは帰って行った。

 

「さぁ、この中からドレスに合う装身具を選びましょう」


 メアリーとカイルが箱を一つ一つ開封し、中の靴や手袋、アクセサリーを全て確認しながらドレスに合うものを選んでいった。


「舞踏会に参加する人って毎回こんなことしてるの?」


 ぐったりとソファに寝そべる美愛は、ありえない量の煌びやかな装飾品たちに気圧され、後半は殆どメアリーの言葉に「はい」と返事するだけだった気がする。既に日が暮れている窓を見て、何とか今日中に終わることができたと胸を撫でおろした。


「いえ、今回は急だったので二着しか準備できず選ぶことができませんでしたが、普段ならば店の新商品から流行までグレードの高いもの全て持参して、その中から選べます」


 なので、装飾品も数倍の量になります。と、当然のように言われ気が遠くなった。


「はぁ、お貴族様って凄い……ところで、この残った商品はいつ返すの? っていうか、これ全部でいくらするの? お金足りる? 貰ってたお小遣いで足りるかな?」


 今更ながらドレスの支払いについて美愛は背筋が冷たくなった。ローン? この歳でローン組んじゃう?


「何を仰ってるんですか、ここにある商品は全て聖女様に贈られた品ですよ?」

「え?」

「だから、これぜーんぶ、聖女様の私物になります!」


 部屋に散乱している商品を全て箱に戻す作業をカインと共にしながらメアリーはふんぞり返っていた。

 全部、私の?

 先ほど説明されたように、本来であれば、たくさんのドレスの中から好きなものを選び、装飾品と合わせてその場で購入するそうで、今回は二着しかないドレスとそれに合う装飾品を全部前もって誰かが購入して持ってきてくれたそうだ。


「一応聞くけど、誰からの贈り物?」


 美愛の突然の質問に、メアリーもカインも動きをぴたりと止めた。


「それは……か、カイン様、どなたでしたっけ?」

「えっ?! えっと、いや、あの……忘れました」

「そんなことある?!」


 しどろもどろなカインが絞り出した答えにすかさずツッコミ、カインはバツが悪そうに外の見回りに行ってきますと、そそくさと部屋を退室した。

 メアリーは「ああ、大変。ドレスルームがいっぱいになっちゃう。今すぐ片付けなくちゃ夕食の時間に間に合わないわ」とわざとらしく声を出しながら残ったもう片方のドレスをドレスルームに移動させ、それからしばらく戻ってこない。


 え? 私てっきりニクスさんだとばかり思ってたけど、何? 違うの? 言えないような人からのプレゼントってこと??

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