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聖女なんか知らない  作者: 鷹取ヒオ


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橋都洋子の誤算


 橋都洋子は満足していた。

 素敵な王子様やクールな騎士団長、元気でわんこな大魔術師に、優しくて美しい大神官様、複数のイケメンに囲まれ至れり尽くせりな日々に。

 日本に居た頃の私はどこにでもいるOLだった。ただ、普通じゃないのは婚約者を友人に寝取られた可哀想な三十路女ということ。まぁ、今となってはそんな些細な事、どうだっていい。

 突然、異世界に飛ばされたのだ。

 仕事で疲れた頭ではすぐに理解が追い付かなかったが、見覚えのある聖女召喚儀式の魔法陣、神官や騎士の服装。まさか、という疑いは隣で蹲っている女の子の服装で晴れることになった。

 ここは私が学生の頃にやり込んだ乙女ゲームの世界だった。少し違うのは、ゲーム開始時の時代ではなく、それから千年程後の世界。

 私がプレイしたゲームは初代の聖女が魔王を討伐する王道の物語。勿論当時の世界に行きたかったけれど、初代の聖女はとても可憐で剣を振り戦う勇敢な聖女様なのだ。勿論聖なる力も絶大で、この世界の結界をたった一人で築いた少女。もしも、その時代へ行っていたのなら、そんな完璧主人公から自分の推しキャラを奪うことはきっと出来ないし、そもそも私なんてそこらへんの石ころと同じだろう。


 咽るようにやっと起き上がった、初代の聖女と同じ制服を着ている平凡な女の子。きっとこの子がこのシナリオの主人公なんだ。そう思った瞬間、ふつふつと湧き上がった感情の正体は、今思えば嫉妬だった。

 こんな平凡な子が主人公だなんて許せない。没個性もいいところ。こんなのだったら私の方がまし。

 そうだ、私が成り代わってやればいいんだ。この子の攻略対象である男達を全部私のものにしてやる。悪いけれど、貴女の場所は私が貰うわね。

 そう意気込んだのも束の間、私にも聖なる力が宿っていると知り、もしかしたら、最近流行ってる脇役主人公なのかもしれない。彼女じゃなくて私が本当の主人公なのでは?

 勿論最初は半信半疑。まさか、そんなわけない、そう思っていたが、私が奪うように聖女代理となった日から今の今までとんとん拍子で話が進んでいる。

 私のために彼ら(イケメン)が集まり、ピンチになればすぐに誰かが駆けつけ、問題が起きた孤児院や病院へ赴けば即トラブル解決! 魔物の弱点だってゲームの知識のお陰で欠伸が出る程簡単。初代聖女の見様見真似で剣を振るい戦う私の姿が可憐だと興奮する可愛い男達。そんな彼らが私の隣に立つために争って喧嘩するのだって、ちょっと注意すればすぐに私のペースになる。

 綺麗な場所に行きたい、美味しいものが食べたい、可愛い服が着たい、ちょっと呟いたら競うように全部叶えてくれる素敵な旦那様候補たち。その所為でちょっと嫌がらせを受けたり牽制されたりしてイラつくけど、そんなことも気にならないくらい毎日のようにデートに誘われて困ってしまうけれど、それも仕方ないの。

 そして、ついに国王陛下が私の為に舞踏会を開くと御触れを出した。陛下からは直々に聖女としての功績を称え、代理ではなく正真正銘の聖女として貴族達に紹介すると仰ってくれた。最後にはロイドの事を頼む、とも。

 ああ、やっぱり私が主人公なんだ。この世界はそう、私のためにある。

 私の舞踏会が開かれると聞いた途端、旦那様候補たちがドレスを作るためにそれぞれデートのお誘いをくれた。

 全員の手紙を受け取り、誰を選ぶかによってルートが決まるんだ、と。

 私は迷わず王子(ロイド)を選んだ。ゆくゆくは聖女で王妃なんて初代の聖女様みたいで素敵じゃない?

 ロイドは聖女代理ではなく正式に聖女として認められることをすごく喜んでくれた。そういえばあの子の名前は何だったかしら? 聞いてないから分からないけど、私の周りの人間には、彼女はまだ子供だから自由にさせてあげたいの、と念を押しておいた。

 そんな舞踏会を前にトラブルが起きた。

 ロイドとデート中に彼女と遭遇してしまった。おそらくロイドルートの強制イベントだと思う。

 どういうシナリオか分からないけど、これは絶対にロイドルートなんだわ。と確信を得るように、ロイドは私を庇ってくれたけれど、彼女はそれでもロイドに噛みついた。きっと彼の気を惹こうとしているんだわ。

 ロイドもヒートアップしている。私が止めないと。

 ロイドも大切だけれど、聖女にへそを曲げられても困る。招待状を送るつもりなんて毛頭なかったけれど、背に腹は代えられない。

 向こう二百年、次の聖女が現れるまでの間、この世界中の結界維持する程の力は、残念だけど私には無い。世界を守るためには彼女の力が必要不可欠。

 だからとても不安だった。彼らが私ではなく彼女を選ぶ日が来てしまわないかと。

 それも今回の件で杞憂だと分かったし、ロイドが私を選んでくれたと言う事実に幸せの絶頂を感じた。

 ようやく聖女が去って、買い物という気分にもなれず、そのまま帰宅しようと二人きりになった馬車の中でロイドは拗ねるように私を抱きしめ離さなかった。

 彼女は子供なんだから喧嘩なんて駄目よ、と言いつつ見つめあう男女。二人の唇が重なるのは時間の問題で、濡れた唇が何度も何度も求めてくる。ああ、私の幸せはここにあったんだ。

 その日、ロイドに誘われて彼の部屋でワインを飲んで、そして、二人でベッドに入った。

 一度触れてしまえば、二度、三度。時間があればロイドに体を預ける日々。周りの人間は気付いてるのか分からないけど、誰からも注意をされないのなら別にいいよね、少しくらい欲を発散させても。


 そして、突然舞い込んできた魔物討伐の遠征。

 そこまで遠くもなく、オオカミ種と聞いていたから余裕だと準備もそこそこに遠征に出た。その当日オオカミの群れは見つからず一泊を過ごすことになった。

 ロイドが私を自分のテントへ連れ込もうとしたからちょっと焦ってしまったけれど、困った素振りを見せ、フォルカにはロイドが心配だから寝るまで傍に居るわ、と言い訳のようにロイドと同じテントの中で過ごした。

 外という開放的な事、近くに見張りが立っているという緊張感、全てがスパイスとなり、いつもよりロイドも私も燃え上がってしまった。

 もしかしたら見張りの人間に気付かれてしまったかもしれないけど、そのお陰で一層ロイドとの将来を思い描いた。王妃として聖女としてロイドの傍に立つこと、絶対そこに私の幸せが待っている。

 そもそも、乙女ゲームなんて最終的に世界を平和にすれば大体ハッピーエンドになるのよ。過程はどうであれ、ね?

 そう、幸せの絶頂を味わっていた矢先に事件は起きた。

 この森に居るはずのない毒タイプの魔物に襲われ、私は間一髪のところでフォルカに助けられたが、ロイドと数人の騎士が攻撃を受けてしまい意識不明の重体。

 準備不足が仇となり、ロイドを連れすぐに帰還することになった。王宮に向かう馬車の中でも、部屋の中でもずっとずっと治癒をしているのに、治らない。ラウダ公爵の時もそうだった。私に毒は治せない。

 

 神様お願いだから私からロイドを奪わないで。


 そんな私の願いは虚しく、ロイドの容態は一向に良くならない。国中の神官、医者、薬師が集められたが、回復の目途はたたず。聖女の力を以てしても体力の回復しか出来ない。

 何日経っただろうか。毎日のように治療を施すが苦しむ彼を傍で見ていることしか出来ない不甲斐ない自分を責めた。

 自暴自棄になりかけている私の耳に、離宮の聖女が贅沢三昧しているという悪い噂が入ってきた。耳を疑った。私が窮地に立たされているというのに、自分は男と豪遊? ふざけてる。

 ふと目に入った窓に反射して映るのは、目の下のクマに食事もろくとってないこけた頬に、艶を失った黒髪。そこに映る自分の姿の酷いこと。ロイドの体を拭くための桶を持ち、ロイドの為にと侍女のように献身している自分が、どうしてこんな惨めな思いをしなくてはいけないのか。

 じわじわと湧き上がる怒りに持っていた桶を力任せに地面に叩きつけた。

 悔しい。どうしてゲームの中で迄こんな惨めな思いをしないといけないの。そう思えば思うほど悔し涙が溢れた。

 そんな涙を拭いてくれたのはフォルカだった。

 少しは休んでくださいと問答無用で抱き上げ、王宮に用意されているロイドでさえ入った事のない私の部屋に、フォルカは立ち入った。

 このままロイドが死んでしまったら……、そう考えれば考える程不安になる。いけないと、分かっているけど、縋らずにはいられない。

 フォルカは私がロイドとイチャイチャしているのを見るのが辛いのか、常に傍に居るわけではなかった。でもクールな彼らしいと思っていたし、騎士団長として鍛錬も欠かさない。今までも魔物討伐の時には必ず私の傍にいて守ってくれた。

 今回もロイドではなく、私を庇ってくれた。それに対して責任を感じているのか複雑な表情をしていたから、自分を責めては駄目と優しく抱きしめるように首に腕を回せば、そのままフォルカに後ろへ押し倒されるような形で私のベッドに入った。

 彼の温かさに触れ、やっぱり彼も私を愛しているのね、と私の心は満たされた。

 目が覚めた時、フォルカの寝顔が隣にあると幸せだった。

 ロイドを回復させることができるのは本当の聖女だけなのだとしたら、ロイドルートは失敗しているかもしれない。勿論、私の中の聖女の力が覚醒するという可能性はまだ残っているが、それに賭けるなんて事、私にできるだろうか。

 保険ではないけれど、このままフォルカのエンディングでもいいかな。

 窓の外はまだ暗く、朝になるまでまだ時間があると再び眠っている彼の胸に顔を寄せた。


 規則正しい寝息に目を閉じうとうとしていると、急に扉を叩き開ける音にびくりと跳ね上がった。


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