02 変わらない明日
洋子の仕事っぷりは目を見張るものがあった。
快進撃とはまさにこのことだろう。
魔物退治に帯同したり、慰安のため診療所や孤児院へ顔をだしたり、貴族の大会議に出席したりと大忙しのようだった。生来の彼女の性格もあって、あっという間にみんなの輪の中心となり、ここが何かの物語だというのなら、きっと彼女が主人公なのだろう、と思うほどに。
それに比べて私は、ひっそりと隠されるように離宮へ追いやられ、初日から私の世話をしてくれていたメイドたちの数は日に日に少なくなっている。
昨日、私の髪を結っていたメイドが今、洋子にお茶を出している。朝、タオルを持ってくれたメイドが今、洋子に日傘を差し掛けている。
何もかも、洋子に持っていかれたのだ。
どうしてこうなってしまったのだろう。私、一言でも聖女やりません、なんて言った?
そんな記憶欠片もない私はといえば、聖女の力は使いもしてないのに、日に日に力を増している。自動レベルアップ機能でもついているのだろうか。
自分の体がどうなっているのか知るためには、心の中でステータスと念じれば、なにやらパネルのようなものが現れる。これは自分以外には見えてないようで、この力も一週間前に漫画の知識で偶然発見したものだ。
そして、毎日チェックするのが日課になっており、何もしてないのに所謂MPと呼ばれる魔力のキャパシティーが、一週間前見た時よりも倍ほど増えている。
ただ、スキルのレベルは使用しないと上がらないようだった。
聖女の力もどうやらこのスキルに分類されているため、自分自身が怪我をしたり、ちょっと体調が悪い時に力を使うくらいで、そこまで上がってはいない。
何より一番気になっているのがロックのかかった不明のスキル。レベルが上がればこれは解除されるのだろうか。試すにしても現状、魔力が上がってるだけで変化という変化はない。
強いてあげるのなら、感覚と神経が以前よりも随分鋭くなっている。例えばちょっと意識して集中すれば、遠く離れた庭で楽しくおしゃべりしている彼らの声が一言一句、はっきりと聞こえるくらいだ。
「ロイド殿下ってば、今日も会いに来てくれたんですか? 本当に暇ですね!」
「誰が暇だ。必要だから様子を見に来てやってるんだろう? 少しは感謝くらいしてもらいたいな」
「ふふ、そんなに頻繁に会いに来なくてもいつも食事の時にお話してるじゃないですか。ねぇ、フォルカ?」
「二人ともここは王宮の庭ですよ。方々の目があるのですから、外でイチャイチャしないでいただきたい」
洋子と第一王子のロイドがにこやかにティータイムを満喫し、騎士団長のフォルカが二人の幸せそうなやりとりに苦言を呈し、傍にいたメイドたちが笑っている。微笑ましい彼女の日常風景。
もしかしたらそこは、私の場所だったかもしれないと思うと、胸が苦しくなる。
何もしてない私の力が大きくなるのだから、毎日何かしらやっているだろう洋子も、きっと最初よりも力が増しているのだろう。
やってられない。
そもそも彼らが私の存在を認知しているかも怪しい。何故なら、私はここに来てから一度だって彼らに自己紹介なんかしていない。私の名前が美愛だというのもきっと彼らは知らないし、洋子以外に興味もないのだろう。
誰も私を必要としてくれない。
ここに私の居場所なんてないんだ。