EpisodeⅡ:掘り出し物
俺は今日は朝から領内の小さな町に来ていた。
そこは商店街が立ち並び、いつも冒険者や町人達で賑わっている場所だ。
今日ここに来た目的は、アーティファクトを見つけること。
アーティファクトは迷宮や高位のダンジョンで稀に発見される戦利品だ。
仮に、見つけられたとしてもその値段は計り知れないものだろう。
だが、タルタロスを倒すためにはそういった物の力を借りるのが一番だ。
禁書も手に入る可能性ができたしな。
そんなことを考えていると、一際大きな声が聞こえてきた。
「アーティファクトー!アーティファクトー!今なら、アーティファクトが出品されてるよ~!こんな機会は今しかないよ~!」
アーティファクトだと?!
こんな町に本当にあるとは…!
俺は急いでその声のするほうに向かった。
声がした方の近くには大勢の人が押し寄せていた。
小さなオークション会場のようだ。
そんなところにアーティファクトがあるなんて今日はついているな。
人をかき分けて中に入ると、丁度オークションが始まったのか司会らしき者が壇上に上がっていた。
「大変長らくお待たせいたしました!これよりオークションを開始したいと思います!今日の目玉はこれ!」
その瞬間、女性が小さな箱の乗ったカートを押して現れた。
「この中には、今回の大目玉!アーティファクトが入っています!」
そう言って、司会者は箱を開けて観客に見せた。
ほう……。綺麗な翠色の指輪のようだな…。
観客たちは価値を見定めようとアーティファクトに釘付けだ。
「こちらのアーティファクトは”便風の腕輪”と言います!その名の通り、使用者に追い風を与え瞬間的なスピードを生み出すことができます。クールタイムは3分程で、D級アーティファクトに分類されます!」
なるほど…。
意外と使える能力だな……。
アーティファクトには等級が決められている。
S級からE級までの6等級存在していて、S級アーティファクトは天変地異を起こすことができる程の力を持っているという。
今回のアーティファクトはD級だ。
D級アーティファクトということは市場価格にすると10万リロ程か。
リロというのはこちらの世界の通貨の単位だ。
1リロは100円ぐらいに値する。
つまりこのアーティファクトの市場価格は1000万円程ということだ。
それ程の高値がついても買うものが現れるということがアーティファクトの希少性と重要性、有用性を示している。
そんなことを考えている内にオークションは始まっていた。
「それでは最初の品をご紹介いたします!この品は古代王国跡地の地面から発掘された陶器となっております!開始価格は2000リロです!」
そこからオークションは淡々と進んでいった。
「7番、3万5000リロでオリハルコンの勾玉を落札されました~!」
出品されていたもの中には特に良い物も無く、骨董品や宝石などがほとんどだった。
が、8品目に気になる物が出品されていた。
「次の品はこちら!人族の女奴隷です!この品は王国のとある村で捕縛された幼女です!年齢は5歳、落札された方には奴隷紋の付与を追加で行います!開始価格は5000リロです!」
人族の奴隷か…。
俺と同じ年の者がこのように扱われているとは……。
その子は鎖に繋がれ、服もそこらへんに落ちている布切れを縫い合わせたようなものを着ていた。
そんな姿に俺は感情が揺さぶられ、気づけば額を提示してしまっていた。
「1万リロ!」
「27番の坊ちゃんが1万リロです!他にはいませんか~?!」
「1万100リロ」
黒服を着た30代ぐらいの男が額を上乗せした。
「65番が1万100リロです!」
やはりか……。
人族の奴隷は貴族に需要がある。
汚れ仕事は何でもやるし、なにより言葉が通じる。
奴隷にはもってこいというわけだ。
だが、今日俺は10万リロまでなら出せる。
父さんと母さんには怒られるだろうが、そんなことは後回しだ。
これだけあれば、あの子は買い取ることが出来るだろう。
「1万500リロ」
俺は価格を釣り上げた。
だが、男も負けじと札をあげる。
「2万リロ」
俺が提示した額を遥かに超える額を男は提示した。
「2万5000リロ」
「3万リロ」
「4万リロ」
「5万リロ」
俺が1万リロ釣り上げれば、向こうも1万リロ釣り上げる。
このままじゃ埒が明かないな。
ここは俺の持てる全てをかけて勝負を決めにいくとしよう。
「10万リロ!」
観客からどよめきの声が聞こえた。
当然だろう。
奴隷と言っても1000万円出す者はそうそういない。
ましてや人族の奴隷なんて、王族や貴族の者でなければ相場は5万リロ程度だ。
「10万リロ!10万リロが出ました!他にはいませんか!?」
黒服の男性は黙って下を向いた。
よし……勝ったな。
「それでは25番が10万リロで落札です!」
アーティファクトは惜しいが、またいつか手に入るだろう。
今回はこの子が手に入っただけでも儲けもんだ。
俺はオークションが終わると、奴隷の女の子を受け取りに行った。
品の受け取りを行う場所では数人の老爺が対応にあたっているようだ。
俺は一番空いている列に並び自分の順番が来るのを待った。
しかし、ここのオークション会場は他のところとはレベルが違うな……。
アーティファクトだけでなく質の良い人族の奴隷をも出品しているとは……。
何か裏がありそうだな…。
だが、まだ調べることは出来ない。
この年齢だと迂闊に外に出て調査するということは難しい。
じっくり時間をかけて外堀を埋めていくとしよう……。
そうしている間に俺の順番がまわってきた。
対応してくれているのは老爺の中でも一番の年配者だ。
俺は引き換え番号と1000万リロを老爺に手渡し、女の子を待った。
しばらくすると、老爺が鎖に繋がれた幼女を連れてきた。
女の子は酷くやつれていて、今にも死んでしまいそうだ。
こんな仕打ちをするなんて、この国の貴族たちはどれだけ腐っているんだ…?
「25番様、こちらが品になります」
老爺が鎖を俺の方に渡そうとした。
「いや、鎖はいい。外してくれ」
この子は家のメイドとして雇うのが良いだろう。
それなら、鎖はいらないし後で服と食事も提供しよう。
「分かりました。奴隷紋の方はどうされますか?」
奴隷紋。
奴隷と主の主従関係を明確にするためにつける紋だ。
つけられた方は主の命令には絶対に逆らえなくなる。
俗に言う絶対服従というものだな。
「遠慮しておく」
「左様でございますか。それではこのままでの引き渡しとなります。落札、誠にありがとうございました。またのお越しを心よりお待ちしております」
俺は女の子を連れてオークション会場を出た。
女の子は静かに俺の後をついてきてはいるが、かなり怯えているようだ。
「君、名前は?」
「…………。シュナです…」
俺が名前を聞くと、女の子はゆっくりと自分の名前を口にした。
「シュナか…。よし、ついてきて!」
「え?ま、待ってください!」
シュナの返答を聞く前に俺はシュナの手を取り走った。
少しの間走り、俺は足を止めた。
「ここは……?」
そこは小さなレストランだった。
小さいといってもファミレスよりは断然大きい。
貴族御用達のレストランといったところだ。
「レストランだよ。お腹すいてるでしょ?」
シュナは明らかに何日も食べていなさそうだった。
当然、お腹は空いているだろう。
「いえ…、でも……」
シュナは遠慮しているようだったが、俺はそんなシュナの言うことを無視して中に入った。
「「「いらっしゃいませ!!!」」」
中では、一流のホールスタッフやコックが列をなしている。
後から入ってきたシュナはその様子を見て、卒倒しそうになっていた。
席に案内された後もシュナはそわそわしながらこちらをずっと見てくる。
「ご、ご主人様は貴族なのですか…?」
シュナが俺に怖ず怖ずと尋ねてきた。
「俺か?俺はここら一体の領地を取り締まるオルデナール家の跡取り、アビス・オルデナールだよ」
「オ、オルデナール家ですか?!」
シュナは目を見開き、俺に近寄った。
「あ、ああ…」
その勢いに俺は押されていた。
歴代最高の暗殺者と言われた俺が…こんな幼女の圧に押されるとは……。
「良かった……。辿り着いたんだ…」
シュナが泣きそうな顔をして呟いた。
どうやら、訳アリのようだな。
家の家系と関係があるようだが、どこの家の者だ?
父さんが時々、王国に出向いているのは知っているが…。
まさか、そこで出来た隠し子か?!
いや、あの父さんだ。そんなことはあり得ない。
なら、どこかの貴族の令嬢か…。
何にせよ、これは父さんに話を聞かなくてはな。
「いったん落ち着け。家とどんな関係なんだ?」
そう聞くと、シュナは涙を拭って俺の目をまっすぐ見た。
「私は…私は、あなたの許嫁です!」
次回の投稿日:10/8 12:00