表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界のアサシン~歴代最高の暗殺者は転生後も暗殺する~  作者: シュカ
ChapterⅠ:デリック王国
2/3

EpisodeⅠ:家族

「う、産まれたわ!あなた!

産まれたわよ!私たちの子供が!」


叫びに近い女性の声が目の前から聞こえてくる。


「本当か?!良くやった!!」


今度は男の声か。

一体何なんだ?


俺はゆっくりと目を開く。

眩しすぎるほどの陽光と屈託の無い笑顔を浮かべた二人の人物がそこにはいた。


女性の方は秀麗なブロンドの髪をしているな。

見てくれはとても美しく、吸い込まれるようなエメラルドグリーンの翠眼(すいがん)をこちらに向けている。


男性の方も意外と立派だ。

体は(たくま)しく、俺を見つめる赤眼(せきがん)と日光に照らされた黒髪は眩いほどに輝いている。


そうか…転生に成功したのだな。


俺はつい最近、暗殺者としての生涯を終えた。

恥ずかしながらも、裏切られ暗殺されてしまったのだ。

長くも短い人生だった。

だが、こうして転生することができたのだ。暗殺されたのも何かの縁だったというわけだな。


さて、そんなことよりこの目の前の二人は親なのだろうか?

確かに女神は赤ん坊に転生させると言っていたが、この状況は色々とまずい。

俺は30を過ぎたおっさん、にもかかわらず20代前半の男女に抱かれている。

なんとも言えない気分を抱いてしまうな。


だがまあ、そんなこんなで俺の新しい人生が始まったわけだ。


***


俺は5歳になった。


言語の習得には酷く時間がかかったが2歳になる頃には、マスターした。

そのせいか、両親や使用人たちは俺のことを神童やら勇者やらと褒めちぎってくる。

最初は気味悪がられないよう発達スピードを抑えようとしたが、晩熟(ばんじゅく)のふりをしても周りは大層喜ぶので、すぐに自重することをやめた。


だが、俺がチートスキルを持っていることには誰も気づいていない。

どうやらこの世界ではスキルは10歳になって教会で調べてもらうか、どこかの団に所属して鑑定するしかないらしい。


だが幸い、この世界の情報は家の書庫を読み漁ることである程度補えた。

ほとんどが女神がくれた情報と類似していたが知らなかったことも少し知ることができた。


例えば、俺は男爵家の家に産まれたということだ。

貴族なだけあって、俺の父、”ジークフリート”は一領地の領主を担っている。

家名はオルデナール。

男爵家の中では子爵家に一番近いと言われているらしい。


俺はその家の長男、”アビス・オルデナール”

この年でありな………


「アビィー?お昼ごはんが出来たわよ~」


よくとおる明快な声が家中に響き渡った。

この声は俺の母、”ソフィア”のものだろう。


「ああ、今行くよ」


俺はそう答え、食堂に足を向けた。


食堂に向かう途中には父さんの書斎がある。

特に豪勢に装飾が施されているわけでもなく、シンプルな入口だ。

何度か、中に入ったことはあるが、とても質素な造りになっていた。

父さんが言うには、領民と差をつけすぎると軋轢(あつれき)が生じるらしい。


だが、領民は父さんを慕っている。

領主になって間もない父さんが領民と同じ家で過ごそうとしたときは反対の意見を出す者が多く、渋々この家を建てたらしい。


食堂に着くと、俺以外の者は既に席についていた。


「あ!来たよ!」


元気溌溂(はつらつ)な声が食堂に響く。


声の主は、俺の妹、”カノン・オルデナール”だ。

俺の2年後に生まれたのだが俺に似つかず、母さんに似た綺麗な金色の髪とスカイブルーの碧眼(へきがん)を持っている。

さらに、昔から人当たりも良いせいか領内のマドンナ的存在になっていた。

生まれた時からブラコ……、いや俺に懐いているのか事あるごとに俺の周りをウロチョロしている。


「アビィ?座ったらどうだ?」


「あ、うん!」


ボーッとしていたせいか、父さんが俺に声をかけた。


俺が椅子に腰を掛けると、食事が始まった。

食事中は最近の近況を報告しあっている。

と言っても、ほとんどが父さんの領主としての仕事の話だが。

俺やカノンが学校に行き始めたら、もう少し話も弾むだろう。


食事を終え、部屋に戻ってゆっくりしていると、使用人の一人が俺の部屋にやって来た。


「アビスお坊ちゃま、旦那様がお呼びです」


何だ?

今日は父さんと会う予定は無いはずだが……。

もしかして、”例”の話か?


「分かった。すぐ行く」


俺は部屋を出て、父さんの書斎に向かった。


本当に”例”の話なのか…?

もしそうなら、早すぎる。

1週間前に頼んだばかりなのに……。


俺は書斎の扉をノックした。


「父さん、俺です」


「来たか、アビィ。入りなさい」


父さんに言われるがまま俺は父さんと机を挟んで向かい側に立った。


「今回呼んだのは、先週お前が私に頼んだ件の準備が整ったからだ」


「本当ですか?!それにしても早かったですね!」


「ああ。昔の伝手を使ってちょっとな…。それより、お前が学校に行きたいと言い出した時は驚いたぞ」


そう。俺は1週間前に父さんに学校に通っても良いかと提案したのだ。

理由はもちろん、魔王神タルタロスの討伐のためだ。


俺が家の書庫を読み漁っていた時に気になる記述を見つけたのがきっかけでもある。

女神は言っていなかったが今、タルタロスは力を蓄える為にある場所に眠っている。

そこに行くためには、”七宝”という7つの聖武器の力を借りなくてはならない。


だが、そこで問題があった。

七宝のほとんどは行方が分かっていないということだ。

さらに所在が分かっている七宝も大国の騎士団長や王の側近が所持している。

しかも、肝心の七宝を捧げる場所も分かっていない。


万事休すかと思ったところである学校のことを知った。

その学校の名は”王立魔法学院”。

ここはこの国一番の学院で他国との交流も広い。

また、魔王学院では年に一度、学院の一位を決める武道会がある。

そこで優勝できれば俺の名は一気に他国まで知れ渡り、交渉も捗るだろうという魂胆だ。


ただでさえ、SS級スキルを持っているのに誰も気づかないぐらいだからな…。


「いえ、この国のことを知るのもいい経験になるかと思いまして」


父さんにも俺の本当の計画を話すことは出来ない。

例え、それが悪い結果になろうとも……。


「そうだな。魔法学院は歴史ある学校だ。もしかすると、書庫には”禁書”も眠ってるやもしれんぞ?」


禁書か…。

本当にあるんだとしたら、アーティファクト並みに厳重な警備なんだろう。

なにせ、本に触れるだけで罪になる代物だからな。


「冗談はやめてください、父さん。仮にあったとしても触れはしませんよ」


俺がそう言うと父さんは真剣な顔つきになった。


「いや。そうとも限らんぞ?最近、(ちまた)である噂が話題になっていてな…。何でも、魔法学院の武道会で優勝すると禁書を拝見できるとかなんとか……」


「それは本当ですか?」


「分からん。だがもし本当ならば、これほど貴重な機会は無いだろう。自分の実力を知るついでに武道会に出てみるのも良いかもしれんぞ」


確かに、その噂が本当ならばさらなる力を手に入れられる可能性ができたということだ。

元々、武道会には出るつもりだったし丁度良い。


「そうですね。考えてみます」


「入学式は来週だ。それまでに一人、連れていく使用人を選んでおいてくれ」


「使用人をですか?」


「ああ。魔法学院には最大一人、使用人を同行させることができるんだ。別に連れて行かなくてもよいが身近に知り合いがいたほうがお前も心強いだろ?」


「分かりました。そちらも考えておきます」


俺はそう言って父さんの書斎を後にした。


はぁ……。

しかし、使用人を一人連れて行かなくてはならないとは…。

家の使用人は全員30代を超えたじじば…いや、貫禄のある者だからな。

父さんは別に連れて行かなくても良いって言ってたし、一人の方が行動もしやすい。一人でいくことにデメリットはほぼ無いだろう。


そんなことを考えながら歩いていると、気づけば自室にいた。

時計を見ると、時刻は10時を回っている。

5歳がこんな時間まで起きているのは今後の行動に支障がでるやもしれない。

もう休むとしよう。


俺はベッドに寝転がり、ゆっくりと目を閉じた。


それにしても、転生してからもう5年も経つのか。

時というものはいつになっても過ぎるのが早い。

そうだ、明日は少し領内を探索してみるとしよう。

何か面白いものが見つかるかもしれない。


明日のことを考えているうちに、俺は深い眠りに落ちていた。

次回の投稿日:10/2 12:00

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ