第91倭 シ=アペヌイ=シュメール・カムイ
社についたミケヒコは…
「…これは…そうか…皆…ありがたい…! そしてあれか…!」
形容しがたい空間に浮かび存在するは…先の入り口と同様の姿の社であった。
「…あそこにスサノヲさまが住まわれているのだな…」
半球状の結界に覆われ、宙に浮かび建つ社の中へ入ろうと手を伸ばすと…思いのほかすんなりと結界を通り抜ける事が出来た。
「ここまでは何も苦労はなかったな…」
ミケヒコは何となく肩透かしな感覚を受けていた。
「案ずるでない…継承の儀は手強きモノ故…。良くぞ参られた若きルーガルよ…!」
ミケヒコに対し社の扉が開き出てきたモノがそう言の葉を投げかけてきた。
立派な体躯に長く伸びた髪を携えた武人…いや武神であった。抑えているであろうに内包せし底知れぬ強さがありありと伝わってくる。その徳と品格の高さも。
「はは…! これはすさまじい…! っと…失礼しました…オレはミケヌイリヒコと申す。ご仁がスサノヲさまであられるか?」
「いかにも。われが…そなたのエカシにあたるスサノヲであり…先代ホカカリでもある」
「さっそくだが…ホアカリの称号…譲り受けたくはせ参じました! 継承の儀をお頼み申す!」
「うむ。今のそなたであるならば…ホアカリの持ち得しチカラに耐えきり…発揮する事叶うであろう」
「で、あるとうれしいものだ…! して、継承の儀とは…?」
「うむ。難しき事ではない。ホアカリのチカラ揮いし先代に立ち向かえば良い」
「…エカシどのと立ち合い…生き延びれば…であるな!」
「左様。われに勝たずとも良い。コスムナタラせず…立ち向かいしラムの強さこそ…ホアカリさまが母カムアタツヒメより受け継ぎし最高のイコロなり。努々忘るる事なき様ラマトゥに刻み付けておくが良い…!」
「承知いたした! ところでエカシどのは…観た処アぺの属性…持たれておらぬようだが…その状態でホアカリのチカラ…いかにして出されるのか?」
「ふっふ…。案ずるでない…パセ=トゥスクルたるムカツヒメよ…われの呼びかけに応えこのモシリにエウンせしめよ!」
スサノヲがそう唱えると空間の一部が揺らぎ人影が顕れた。
「あ…! パセ=トゥスクルさま…! どのようにしてこのモシリへ…?」
「ミケヒコや…久方ぶりですね…息災の様で何よりでございます…」
「われのチカラで呼び寄せたのだ…瞬時に旅する門のチカラの応用である!」
「あの門の…! すごい…! しかし何故でありますか…?」
「われの…シンノ=マゥエにてミケヒコ…次代のルーガルたるそなたと相まみえる為…! ムカツヒメよ…参るぞ!」
「かしこまりました…! 我が業は我が為すに非ず…スサノヲさま…お受け取り下さいませ!」
再び空間が大きく揺らぎ巨大な炎の塊が出現した! 天に輝く日之神威が眼前に顕れたかの如き熱量と輝きにミケヒコは思わず顔を覆い飛び退いた。
「ふっふ。そなたの欲するモノはこれであるぞ? さあ…われの元へ還れ…シ=アペヌイ=シュメール・カムイよ!」
その言の葉と共に紅蓮の炎纏いし光球は、上空に舞い上がりスサノヲ目掛け急降下してきた! 熱風吹き荒れる中から顕れたのは…まさしく炎の化身そのモノであった。
「…シ・パセアンペソネプ エ=イタク=エチゥ…スメル=キロル…ピタッパマク!」
神呪と同時にスサノヲよりすべての属性の権能が吹き上がる! 元々の大海、大凬に加え…先の大焔、大地…そして虚空…! 高位の段階で五大全てを備えしその姿はまさに全能の神威であった…!
「ニスの属性持たぬモノでこの儀に挑むは…ミケヒコ…そなたが初めてである…! ラム=アサムよりのアリキキノで…己のすべてで応えてみせよ!」
虚空を頂点にした五芒の輝きを背負いゆっくりとスサノヲは歩み寄る。
(…絶望的なチカラの差とは…このことだな…! 全ての属性がそろった今…アペヌィのチカラもケタ違いに跳ね上がっている…!)
「…左様である…! 全ての属性揃いし刻こそ、己が得手のチカラもより強く発する事叶うのである…!」
スサノヲはそう言うと全権能を炎へと集中し始めた…!
「…イレス=カムイよ…これが…イレス・シュメール・カムイのチカラである…! とくと味わうが良い! カムイ=マェ…ホノムスヒカグツチノミコト!」
叫びと共にスサノヲは渦巻く炎を纏った剣を振りかぶる!
「…レ、レタㇻ…アペヌィ…?」
温度の上昇と共に色が変化するのは今日では常識であるが、当然ミケヒコにその様な知識はない。通常自然界で目にしない白色の炎とその熱量にたじろいで思わず退いてしまった…。
「…これがトカㇷ゚チュㇷ゚=カムイのアペヌィ…! 見事生き延びてみせるがよい!」
そう言うと大上段から全力でその凄まじき渦巻く炎を振り下ろしてきた!
(ぜ、全力のチカラで打ち消すしかない!)
ミケヒコはヲモヒのすべてを籠めて剣撃を放った!
「カムイ=マェ! イレス=カムイ=ペウプンチセ!」
ミケヒコは同様に渦巻く炎を放出し迎え撃つも…彼我の差に心が折れるのを必死でこらえ技を放ち切った! 莫大な炎の奔流の中…辛うじてミケヒコは自身の放った炎により生き残った…。
「良くぞ生き延びた…見事である…! 次は…アペヌィのシ=パセで参る! 良いか、イレンカの強さがすべてを決める! 決して…コスムナタラせぬ様…己がラマトゥの内なるシンノ=レンカイネの覚悟に至り見事受け止められよ!」
そこまで伝えた後、スサノヲは雄たけびと共に途轍もない権能を放出し始めた! この世界がすべて吹き飛ばされる…そう確信してしまう程の絶大なモノであった。
「…現状このモシリでしか出せぬシンノ=マゥエ…とくと観るが良い!」
「…おう! 必ずや受け切って…みせる!」
懸命に応えるミケヒコを観た刻…一瞬スサノヲは優しく微笑みかけ…一呼吸おいて叫ぶ。
「|シ・アペヌイ=ルーガル《大焔統べる王》封輪火斬! ラムハプル・オピッタ! カムイ=エウン イレス・シュメール・カムイ!」
神呪と共にスサノヲの全身より炎が吹き上がる! 炎の強さ増す毎にその色もみるみる変化していく…! 赤から…橙…黄…白…青…紫…そこを超えた途端観えなくなった。
「!? こ…これは一体…?」
「…ヌプル=インカㇻマクして観てみよ…!」
スサノヲの言うとおりにしてみると…観える。紫を超えて不可視化した後も透明の炎となって更にその威力を高めていた。
「…? これは…! ニスの様なメレメル…!」
「左様…唯一ニスならずとも極みに至れるのがアペヌィ! ここに至らば…ミケヒコ…そなたの様にニスの属性持たずともシ=パセに限りなく近づける!」
その言の葉の後…社はおろか根源の国全域を覆いつくす程の強大な炎の化身が顕れた!
「カムイ=エウン…アメノホアカリノミコト…!」
「ア…アメノホアカリ…この姿が…でございますか…?」
「いかにも。ヒムカ=モシリのオアシ・クル・ルーガル…原初のイレス・シュメール・カムイ…それがアメノホアカリノミコトである…! それをカムイ=エウンせしめたモノが今のわれである…!」
ミケヒコ同様炎の様な輝きの鬣と瞳を携え、全身に揺らめく炎を纏う姿はまさに炎の神王であった。
(…これは…立ち向かってどうにかなるモノでは…ない…! 一体如何様にすれば…?)
「ふっふ…。ア=オマプ・ミッポミケヒコよ…そなたは何をどのようにする為にここに参られたであるかな? とくとイレンカ廻らせてみよ…」
(何を…どのように…? …。…。…! そうだ…そうか!)
ミケヒコは剣を地面に突き刺して肩幅ほどに足を開きゆらりと立った。そのたたずまいはどこにも力みや淀みなく美しささえ感じるモノであった。
「素晴らしきかなミケヒコよ…。まさにその通りである…!」
スサノヲはミケヒコを観て嬉しそうに愛おしそうに褒め称えた。
「…強大さに捉われたら…恐怖にかられ抗って己を保とうとしがち…。しかし…オレは…その強大なモノを賜りに詣でた…だから…抗わず…受け入れる!」
スサノヲは満足げに笑みを浮かべ応えた。
「…その若さ…幼さで良くぞ到達した! 後は…最後まで…そのイレンカ…貫き徹すが良い! これが…トカㇷ゚チュㇷ゚=カムイをも遮り…ニスをも超えるアペヌィのチカラ…カムイ=マェ! ウフィ=ヌプリ!」
スサノヲが叫ぶや否やこの根源の国のあらゆる方向に途轍もない爆発が起こった! 己が神威に至った事など軽々と吹き飛ばされる程の絶望的で猛威…いや暴威的な威力であった。
「-死-!」
瞬時に脳裏に浮かんだのはその一言であった。
「ウェンイレンカに呑まれるでないぞ! 己のシンノ=レンカイネ…無限の可能性を信じよ! イレンカのチカラは無限なり!」
ミケヒコは我に還りヲモヒを持ち直し強く念じた!
「大いなるアペヌィの化身よ…我に宿りたまへ!」
身体が…己自身の存在自体がすべて溶かされ飲み込まれたような感触に襲われた。
「ミケヒコ! そなたは我がア=オマプ・ミッポ…イレス=カムイミケヒコたるぞ! 己を…己のイレンカをしかと保たれよ!」
(…声…? あれは…スサ…ノヲ…さま…? ここは…オレ…は…?)
(ここは余の中…そなたが次代たるモノか?)
(あなた…は…?)
(余は…アメノホアカリ…ホオリでもホスセリでもある…)
(ホオリ…? ホスセリ…?)
(三神でアペヌィのすべてを担う…エピルのホオリ…トゥサレのホスセリ…そして…余は…アラフレ…ウェンテなり…)
(オレもアラフレと言われたぞ…?)
(…余を…我等を受け入れし後は…己が裁量にて全て行使叶うなり…)
(トゥサレのチカラは正直あこがれていた…。オオトシさまが実はうらやましかった…オレのチカラがトゥサレであったら…)
(…忌み子の汚名返上叶う…と?)
(…! ああ…。奪いしイノトゥは還らずとも…今まわりにいるモノ達を傷つけず…トゥサレ出来るなら…そう思った…)
(…ヤィコ=トゥィマもタアン=ラマトゥも…他者を焼き…ロンヌし…それでもなお…イレス=カムイであらんと欲するかミケヒコよ…?)
(…! そう…。そうだ…。オレは…アペヌィのチカラで他者を不幸にしかしてきていない…)
(…この先も…増えるやもしれぬぞ…?)
(…己を大きく超えしチカラを手にしながら御しきれぬならば…そうなる…)
(そうならぬ様…余と同化し…次代にチカラを与える存在となることも可能ぞ?)
(…その方が…ピリカになるモノは…増えるの…か…?)
(少なくとも他者のイノトゥを奪っておらぬモノへチカラを渡す機会は得られるやもしれぬな…)
(…オレは…出来…ない…のか…?)
(逡巡するならば…余との同化を選んだ方がピリカなるモノは多いであろう…)
(ホアカリ…さまと…同化…次のモノを…助く…)
(左様…余が御する故心配無用…ラムシリネして我がチカラの一部となるが良い…!)
(…チカラの…一部…?)
(左様…ホスセリやホオリの様に…己で何ひとつイレンカ廻らせる事もなく…)
(何も…イレンカ抱かず…廻らせず…?)
(その類稀なるアペヌィのチカラを余に捧げれば良いのである…!)
「む…! い…いかん! あれでは…ホアカリに呑み込まれてしまう…!」
スサノヲはミケヒコを観てそう叫んだ。透明に輝く炎に包まれて…いや捕食され、徐々に浸食されて行っている様であった。
「…このままでは確かにあなたさまの言う通りミケヒコはホアカリの一部となってしまうでしょう…! 儀を…中断いたしましょうか…?」
傍に控えていたムカツヒメはそうスサノヲに進言した。
「…。…。…。今…しばし…様子を見ておくとしよう…。真にホアカリに取り込まれん刻は即刻中断願う故…!」
「かしこまりました。仰せの通りにいたしましょう…」
「…して…いかがなモノであるか…正味の処…?」
「…実はわたくしの知る流れでは起き得ぬ出来事でございます…。この刻ミケヒコはまだカムイにも至っておらず…故にホアカリの継承の儀に挑むはずもなく…」
「左様であるか…! 此度は…我が子等は…悉く因果の流れを超えている訳であるな!」
「はい…仰せの通りでございます…」
「…で、あるならば信じて待とう! 此度も我等の予見を超えてゆく事を!」
「はい…!」
スサノヲは大きく頷いて力強くそう言うとムカツヒメと共に炎に呑み込まれているミケヒコを見つめ成功を強く願った。
「…我がア=オマプ・ミッポミケヒコが…己を信じイレンカ貫きて無事継承叶うと…ここにスサノヲの名を以て願う! オホㇿ・オカ! オピッタ=レンカ=ソンノ=エ=アスカィ! (永久に健やかに諸々の願い叶え給え!)」
神呪と共にスサノヲから厳かな光が放たれてミケヒコへと降り注がれた。
(己を…己の内なるシンノ=レンカイネを信ずるのだ…ミケヒコよ…!)
(…スサ…ノヲ…?)
(己がイレンカにて為さずに何を以て償いと言えるであるか!)
(己が…イレンカ…?)
(左様。己がした事の責、他者へ転嫁してはならぬ。シンノ・ルーガルならば…己がイレンカとチカラで成すが良い!)
(己が…チカラ…?)
(…我が業は我が為すに非ずであるが…己がイレンカ無くば何も為さぬのと同様であるぞ?)
(…余が責をも背負いてそなたのウェンプリ=アシンケも致す故…心配無用であるぞ…?)
(…でも…それでは…オレがしたことにならない…!)
(…かまわぬ…そのチカラ…余がモシリの為存分に遣いて進ぜよう…! )
(…己がカムイ=エウンの為…であろう? ホアカリ殿?)
(…!)
(ヤオヨロズより脱したいイレンカ分からぬでもないが…己がコカナにて遠い血筋をロンヌせんとするは罪深き所業と思われるが?)
(…オレ…ロンヌされる処…だったのか…?)
(ヤオヨロズたる余と同化する故当然ケゥエは不要故…)
(…ヤィプニも過ぎたるは…堕天するやもしれませぬぞ?)
(…ふっふ…。さすがスサノヲ。歴代随一よのう…!)
ホアカリは正鵠を射抜いたスサノヲに感心した後、態度を一転しミケヒコに向かって檄を飛ばす。
(…ミケヒコよ…己が行いの責に負けてはルーガルは務まらぬぞ! 清濁全て併せ呑むマク=ケ=サム=アのイレンカと決断力にて動く事こそ肝要なるぞ! さあ…余を…そのイレンカの強さと…秘めたるチカラで従えてみせるが良い!)
(責に負けず…清濁併せ呑むマク=ケ=サム=アのイレンカと決断で…動く…!)
突如ミケヒコは強い気勢を発し始めた! 瞬く間に纏う炎の色が変化していく…紫炎まで高まった刻…四方八方に爆発的に秘めたる力が解放された!
(…素晴らしい…! まさに余を使役するに相応しきモノ! しかし未だラムが良く言えばペケレ、そしてルーガルとしては幼きも事実。故…余もエコㇿラム残したままそなたに宿り従うとしよう! 我がサン・イキリよ!)
そう聞こえたかと思った後、ミケヒコを包んでいた炎はその身体に吸い込まれるように消えていった。
(…今後ともよろしく…! 若きルーガル…そして次なる…ホアカリよ!)
「…ああ! こちらこそ…ご指導ご鞭撻…よろしく頼む!」
ホアカリは顔を出して微笑みながら頷いた。
(…あ~ウォラムコテの邪魔はせん故…ラムシリネするが良い♪)
「な…! そんな相手などおるか! まだまだオレは…オレの事アリキキノであるし、第一メノコなんぞ興味ない!」
(これはこれは…若きルーガルは固きモノである♪ まぁそのあたりはおいおい…であるな♪)
「だからそんな事には…! 少し…気になるモノはいるが…追い抜くべき目標としてだ!」
(…左様であったな…。今はそれで良いのであろうな…。まずは己を更なる高みへ…その為にも余の…我等のチカラ…極めてみせよ!)
「ああ! 限りなき炎のチカラ…きっと使いこなしてみせる! そして…モシリを…ウタラを…大切なモノ達を…この手で守りピリカにしてみせる!」
「素晴らしきイレンカである! さすがはア=オマプ・ミッポ! これからもそのイレンカにて邁進するが良い!」
「はい! スサノヲさま…ありがとう…! 結局オレは何から何までスサノヲさまに助けてもらってやっと継承させてもらったにすぎない…。しかし…受け継げたからには…ホアカリの称号に恥じぬように精進していく故…今後のオレを…とくとご覧いただければと思います!」
「うむ! その若さで継承叶いし事だけで素晴らしき! 胸を張り己を褒め称えるが良い!」
「はい!」
「初代殿…頼みましたぞ…!」
(…まかせよ! 必ずや立派なルーガルへと導こう!)
スサノヲは笑みを浮かべ一礼し、ホアカリとなったミケヒコを見送った。
(…無事に継承叶いて何よりでございます…♪)
「ああ! やはりミケヒコは…その名…ミケヌイリヒコの通り適合者であった!」
「これもまた一つのナィ…。こうして一つ、また一つと小さきナィが集まりて…ポロ・ペㇳとなりて全てを覆していくことでしょう…」
「…此度は…うまくいきそうであるか…?」
「ええ…此度…わたくしの知り得ぬ結果がいくつも起きております…。それこそが因果を超える礎となると…わたくしはそう観じております…」
「うむ! そうである事、信じて待つとしようではないか!」
「はい…!」
スサノヲとムカツヒメは互いに微笑み頷き合った。
「…まだ還るるまで刻ありしであるな…?」
「左様でございますね…仰せのままに…」
スサノヲとムカツヒメはそう言いながら社の中へと消えていった…。
色々ありましたが無事継承しました…!
用語説明はまた夜にでも…m(__)m




