第88倭 炎に寄り添うカムイトゥスクル
瞬時に旅する門からイヅモヘ…。
「…つきましたね…。しかしコレ…中々なれませんね…いつも少し気分悪くなります…」
「もぅ、ヤチはホント酔いやすいんだから!」
「…ふしぎよね~? ロクンテゥやヤレパチプであれだけ揺れてもへ~きなのにね~?」
「う~ん…? 何と言いますか…ケゥエとトゥカㇷ゚=ケゥエがバラバラになるような揺らぎを観じてですね…」
「…ああ、それは少しわかるよ。ぼくもたまに観じるからね」
アビヒコはヤチホコの言の葉に納得行く様である。
「へぇ~。わたし、まったくへ~きなのよね~♪」
「この瞬時に旅する門に限らずなんでもへ~…モゴモゴ!」
「アビヒコく~ん…口は災いのも・と・よ♡」
(…これだ! このケゥエ=エイキ…! これは今のオレでも間合いを詰められてしまうだろう…おそろしいヤツだ…!)
口を塞がれ耳を引っ張り上げられているアビヒコを目にミケヒコは感心していた。
「見てないで助けてよ!」
「…! そうだったな…フフ…。はぁっ!」
ミケヒコは影を残す迅さでアビヒコを奪い返そうとしたが、ミチヒメは咄嗟に身を捻り反転して手を変えアビヒコの口を塞ぎ直す。
「くっ…! オマエのその迅さ! 一体どんなカラクリだ!」
「え~? アビヒコ取られたくないからで~す♪」
(…まったく説明になっていない…)
ミケヒコは尋ねる相手を間違えた事に後悔した…。
「…常に薄くトゥムを張りめぐらせているのです…! ですので…それこそヌプル=インカラにも捉え切れず…イレンカ廻らすよりも迅く動けるのです!」
「…ですが…ウェンイレンカやコィキのイレンカあれば相手に気付かれてしまいますので…中々に難しいと思います…」
「オオトシさま…ありがとう! 確かに今のオレでもまだここまでラム=ラッチなままは動けぬな…」
「…そっか~そ~ゆ~ことだったのですね♪ ふっふ~ん♪ ミケヒコくん、ど~だねわたしのワザは♪」
そう言ってミチヒメは得意げに胸を張った。
「…ああ、すごい…! しかし、どうでもいい事だが…その姿勢でもオマエ大したコト…むぐぐぅ!」
「あら~♡ わたしのケゥエ=チ=コトゥイエの的になりたいのかな~♪」
(…? オレのイタクに苛立って動いたはずなのに…読めぬ…!)
「ミチヒメはおそらくラム=アサムに…全てのモノへオマㇷ゚=イレンカを抱いているのではないかと私は推測しています…。故に表に出ているイレンカにかかわらず…流れを読みにくいのでは…そのように思います」
「…相手への…オマㇷ゚=イレンカ…? それで読めない…?」
ミケヒコはおよそ闘いとは縁遠いと思える愛する気持ちが気配を消し先手を取れる事実に対し理解できずに考え込んでいた。
「…ミケヒコ、あなたでしたら…お互いを認め、尊敬し、尋常にキロル=コィキするイレンカに集中したらできるかもしれませんね」
「…認め…尊敬し…尋常に…それならば…!」
ミケヒコは一度大きく呼吸してミチヒメに手を差し出す。
「オマエは…す、すごいヤツだ…! 尊敬に値するぞ…!」
「ありがとう♪ わたしもミケヒコくんのこととってもすご~いってソンケーしてるわよ♪」
ミチヒメは目くばせしながら微笑んでそう応えた。
それを見た瞬間みぞおち辺りを撃ち抜かれたような衝撃がはしる。
「…くっ! また…観えぬ…技を…!」
「あん…。そ、そ~よ! これがしっかり観えるまで…ガンバることね♪」
ミチヒメはそう言ってミケヒコの頬に唇を押し当てた。
「ぐはっ…。な、なんなんだ…! まったく読めぬ! そして…とてもじゃないが集中できぬ…?」
(と~ぜんなのよね…♪ ありがとね♪)
「わははは~! ミケヒコくんがんばりたまえ~♪」
ミチヒメはその言の葉を残し一足先に神殿へと走り去っていった…。
(…ミケヒコくん、とってもア=オマプでステキなイレンカだね♪)
(はい…♪ こういう問題はたとえカムイになってもおんなじなのですね…♪ ウォラムコテイレンカ抱く相手いる限り…)
(その、自分のイレンカに気づけたら…また生長するカモ!)
(ですね♪)
ヤチホコとスセリはそう互いに耳打ちしていた。
「どうした? 何か今のワザ…防ぐ手立て見つけたか?」
「あ、はい…己を見つめることと…どんな刻でも集中できる方法を自分なりに見つけるのもいいかもですね♪」
「あ、まえにウガヤ兄がしてたね!」
「…ヌプル遣えぬともイノンノイタク唱えていたと聞いていたな…! あれはその為だったか!」
「そーだと思うよ! ミケヒコくんもあんな風に何か自分に合った方法を見つけたらイイよ!」
「なるほど…! ありがとう…スセリ!」
「へへ♪」
「さぁ、僕らもカムイ=チセに行きましょう!」
「おう!」
「あら、皆様お揃いで良くぞお戻りになられましたわ♪」
幼子の刻のキクリよりもさらに小さなメノコがそう話しかけてきた。彼女の母、クシナダであった。
「クシナダさまお久しぶりです♪ いまさっきみんなで参りました♪」
「キクリちゃんたち…ドーなったかな?」
「知っての通りキクリは女媧さまにお逢いしてモシリ=カムイ=メノコとなる素晴らしき生長を果たし、アマムは無事に還りミヅチも希望を手に戻り…己がモノにせんと日々精進いたしておりますわ♪」
「…さすがだな! アマムさんもミヅチも。カムイに至る器と観たからな…すでに至っているかもしれんな…!」
そのモノ言いに心底驚いてクシナダが応える。
「あら…ミケヒコさん…目を瞠る生長ぶりですわ!」
「ああ…。っと、あいさつが遅れたな…クシナダさま…しばらくの間世話になる…よろしく頼む…!」
「まぁまぁ♪ よくぞここまで生長されましたわ♡ タギリも喜んでいる事でしょう♪」
ミケヒコの首に飛びついて頬ずりしながらそう言った。
「…母上に喜んで頂けたなら…オレも嬉しい…!」
「もちろんです♪ これが嬉しくない訳ありません♪」
日に焼けた様な褐色の肌をした妙齢の見目麗しい女性がそう応えた。
「は、母上…! こちらに来られていたのか…! ミケヒコ、参りました…!」
「…良くぞ己を超えカムイにまでなられました…! 念話通じし刻より…信じていましたよ…♪」
「…あの刻にヌプル=インカラが開き…ヒメより受けしヌプルと己のトゥムを重ね合わせし刻に…色々と観え…いかなるイレンカで為すべきか…その一端を悟れました!」
「うん♪ このケゥエ焼かれながらもタアン=ラマトゥにカムイ=トゥスした甲斐がありました♪」
「なん…ですと…!」
「…ミケヒコ…あなたはそのあまりにトゥムアスヌな為にアペヌィまとって生まれてきて…一緒に降りてきたヒメは瞬時に焼かれてケゥエを喪いました…あたしは…伝え聞く祖王ホアカリの母なるカムイ=メノコの苦しみを味あわせて頂きましたわ…♪」
以前観せられた情景そのままの言に驚愕しながらもミケヒコは尋ねた。
「…! そ、それは…御身は…平気であったのか…母上…?」
「…パセ=トゥスクルさま…おかーさまと…スサ=パセ=ルーガルさま…おとーさま…そしてクシナダさまがいなかったら危なかったけど…観てのと~りよ♪ ミケヒコ…あなたもよく知る通りそのトゥムはトゥカㇷ゚=ケゥエにまで届くチカラ…生半で消せるアペヌィではありません…。そこでクシナダさまのワッカのトゥサレのチカラでカリ・ラマトゥするのを食い止めながら、エカンナイよりヒムカ=モシリに伝わるカムイの称号の継承を取り計らって頂いたのです…。」
そこまで言うとミケヒコの母たるタギリはゆっくりと話始めた…。
「…エカンナイの神代…モシリルガルならしめんと天降りたるトカㇷ゚チュㇷ゚=カムイの孫へ嫁いだカムアタツヒメは、一夜にして身籠りました。天孫はこれを訝しがり、娶る前の誰かの子ではと思いました。
自神の潔白を証す為…カムアタツヒメは…“天孫たるあなたの御子であれば無事に産めカムイ=トゥスされるはずでございます”…そう申し出て産屋に火を放ち中へ入り出産を試み…そこでお生まれになられたのが初代ヒムカのルーガル…ホアカリさまです…。以来…モシリルガルの称号としてアメノホアカリノミコトが…そして最高のメノコでありトゥスクルである彼女の別名…エチラスケカムイカッケマッとも呼ばれる…“コノハナサクヤ・カムイトゥスクル”が称号として引き継がれてきました。そしてこの神名授かりしメノコは彼の神姫同様…アペヌィのトゥムに対する完全無効化のチカラを授かるのです…!」
「…それで母上は事なきを得たのであられたか…!」
「…ええ…。あたしは運がよかったのもあるけど…コノハナサクヤ・カムイトゥスクルを継げるモノだからこそミケヒコ…ホアカリとなりうるあなたをカムイ=トゥスできたのです…」
「…そしてオレのこのアペヌィのトゥムも…イレス=カムイとなるるも…すべては因と果によるべくモノであった…そうだったのだな…」
「そうです…! 今のミケヒコ…あなたならきっと…ホアカリを継承できると思うわ…!」
「…そうか…そして先代のホアカリが…!」
「ええそ~よ…。あたしのおとーさま…あなたのおじーさまにあたるスサノヲさまよ♪」
「…彼のスサ=パセ=ルーガルにまみえ…継承してくる…そういう訳か!」
「今のあなたなら…キクリと同様…ストゥ=モシリへ出向き無事継承してこれますわ…!」
「ああ、オレもその為に…詣でて参る…!」
「…本当に…頼もしくなりましたね♪」
タギリはそう言ってミケヒコを誇らしげに見つめ優しく抱きしめて唇を頬に押し当てた。
「…キクリに出来たんだ…オレも必ずやり遂げてみせる!」
「信じて待っています…! と、その前に…あたしたちの作ったイペ…しっかりと召し上がられてからにしてくださいね♪」
「…オレの方こそ久方ぶりの母上の味…食べずに行けるはずもない…!」
「も~う♪ うれしいイタクね~♡ ではしっかりと召し上がられてくださいね♪」
一行は広間へと向かい存分に料理を堪能した。
「…とても美味であり、楽しい時間だった…母上…ありがとう…! では…これにて失礼しストゥ=モシリへ行って参る…!」
「…シリクンネも更けましたが…これから行かれるのでしょうか…?」
「…何も危うきなどありませぬが…今宵は母上のイタクに甘え一夜の宿を借りることにしよう」
「ふふ…添い寝いたしましょうか?」
「な、なにを…! もうそこまでノカン=クルでは…」
「あら? 大人だからこそのもあるのよ?」
「…? それは…? 何か特別な呪法か…?」
「あ…そ~じゃなくて…まあいいです、ゆっくり休んでくださいね♪」
「…ああ、ありがたくそうさせてもらう!」
(離れていたせいもあって…そちらはまるで…なのね)
タギリは頭を一本指で掻きながら困り笑いを浮かべていた。
(…そう、まったくなのよ~。でも…自分でも気づいていないそのイレンカ…大切にしてあげたいなって…♪)
(…そうね、とても大切なイレンカ…ですからね…よろしくねミチヒメ…)
(まぁ~かせて♪)
色々あったせいもあり一同深い眠りへと誘われていった…。
夜が明けたらミケヒコはストゥ=モシリへ挑戦に…!
用語説明ですm(__)m
・オマㇷ゚=イレンカ:可愛い、愛する+ヲモヒ、気持ち→「愛する気持ち」としました。
・キロル=コィキ:力比べをする より。
・ラム=ラッチ:こころ+落ち着く→「心穏やか」としました。
・モシリルガル:大地、世界、国+王→「世界之王」としました。
・エチラスケカムイカッケマッ:花が咲く+神の+淑女→「咲き誇る神威の花嫁」としました。
・コノハナサクヤ・カムイトゥスクル:木花開耶+神の+巫女→「木花開耶神威之巫女」としました。
(参考:古事記、日本書紀)




