第85倭 顕われしレタラ=ニシパとセレマㇰ=クル
次はアマムの番です…!
「ヒメちゃんはバッチシんまぐいったべさ♪ 次は…アマムさんの番だべさ…!」
「…ワレは器となりしケゥエさえ用意していただければ…自身で宿る事叶うであろう…」
「ソイツぁまたたまげたなや! したらきっともってメル=ストゥ=マゥェさ遣わさればすぅぐウカムレできっかもしんね~べさ!」
「流石お兄ちゃんだわ♪ アタシなんかすーぐ追い抜かれそーだわ♪」
キクリは心底嬉しそうに応えた。
「…恐らく…宿る際…断片的にヤィコ=トゥィマを垣間見るであろうが…ワレのこの修練の日々は…コヤイラムしてはいるが…キクリ…其方を…守れる様に己を錬磨せんが為の故…そうではないかとのイレンカを抱いておる…。学び…強くなり…そして決して諦めぬ…何の為? 何を諦めぬ? 常々思案していたが…以前ヤチホコ達が彼のモシリへ参り修行つけし刻に垣間見た…タカラの中のメノコ…守る事叶わなかった娘…あれこそが…キクリ…ソナタであろうと…先の姿観てワレはそう思っている…」
「アノ刻の…お兄ちゃんのイレンカ…スゴくタイヘンだけど…戻ると良いと思ってるわ…! もしもの刻、今度はアタシがお兄ちゃんを…守ってみせるから!」
「頼もしき…ア=オマプ=マチㇼぺ…? よ…。さすれば…いざ見分を兼ね儀を取り計らおう…! 純陀エカシ…よろしいか…?」
「おお! いつでも大丈夫だべさ! ミヅチちゃんさみつけてくれたタㇰ…アマムさんのケゥエさ成り得るヤツぁここさある…したから中さ入ると良いべさ!」
「…承知した…参る!」
アマムは迷わず玉の中へ入っていった。
「…成程…これは…イレンカによって如何様にも…よし…!」
玉の中よりアマムは徐に念じ始めた。
「…トゥレンカムイ アマム アシリケゥエ トゥレン=シセイ・ペレ…!」
アマムは自身に呪を施して受肉を試みた。
暫くして玉は激しく輝き明滅し始め…脈打つ様に蠢いている。
はじめはゆっくり…徐々に鼓動の高まりの様に脈打つ速度を上げ、それに合わせ明滅も早まり…常時輝いてるかの如く…瞬きが観て取れなくなった刻…玉は急激にその姿を変えた!
「…これは…まさに…!」
「…マチガイないわ…!」
「…すごぉ~くカッコいいね~♪」
観ると…しなやかな長身に新雪の様な美しい髪を棚引かせた…“純白の貴紳”とでも呼ぶべき麗しき青年が顕われた。
キクリ同様頭部には狐を思わせる耳と、腰の後方…仙骨末端より見事な尾を携え…奴国の北海の如く深みのある美しい紺碧の瞳を輝かせていた。
「…キクリ…! ワレ…いや…ボクの為に…本当に…」
「お兄ちゃん…! エシカルンできたの…?」
「…あのタㇰのメレメルケの最中…全ての出来事が…イレンカが…テㇺカした…。アノ刻…コスムナタラした故の…九千九度の修行のパイェ=カイであった…そうだったんだ…! エシカルンした己の今際の際よりも…キクリ…オマエのアノ刻をイレンカ廻らせる方が遥かに辛く苦しい…!」
アマムはそう言って絶望と無念を露わにチカラ無く項垂れてしまった…。
「…心配ないわ…! アタシ、ゼンブ…失った刻を…取り戻しているから!」
「!!! それは…すべてエシカルンしてラムに抱いた上での…今の振る舞い…イレンカ…全辛苦を受け入れ超えて今に至るのかキクリ!」
「…そーゆーこと! だから…アタシ…ホントにもう没問題だわ!」
「…あれから…現世でも確かに幾度か全ての季節は廻り刻は過ぎしと思うが…キクリ、オマエは…過ぎし刻を遥かに超えた生長を可能とするだけの事を為して辛苦をも超えてきたのか!」
「…そーよ…! だってアタシ…お兄ちゃんに…逢いたかったから! そのイレンカをチカラに変えたから頑張ってこれたの!」
「…一斉の出来事の理由は己のラマトゥの錬磨。総てはその為の故の因と果による事象。そう…そうだったな…!」
「…そーよ♪ キットお兄ちゃんは…ものすごーく永い刻…修行してきたんだよね? だって…さっきの呪…カムイ=マェなしにはエトゥッカすらできないはずだから!」
「…あのモシリでは…如何にイレンカ抱きてラムを錬磨すれど境涯を昇る事叶わなかった。咎あって堕とされしモノ住まうモシリ故だろう」
「それならあの…九千九度もナットクだわ…! 観ていてもアレだけはアタシ…したくなかったわ!」
「そうだな…。ワレ…いや、ボクもあれは一度で十分だ。」
一同笑みがこぼれ楽しそうな声が湧き上がった。
「…しかしアマム…これは何とも素晴らしい練り上がり方ですね…!」
「…謝謝…哥哥! あれだけ永い刻錬磨重ねれば誰もが至れる。」
「…辛苦了…! アマム…! そう言えばそのサㇻはとても立派ではありますが…確か彼のモシリですでに最高の陽数まで極めりと観ていましたが…?」
「…没問題! 今のボクのサㇻは…必要に応じ自在」
そう言って少し氣力を高めると尾が数本に増えた。
「…なるほどですね…より無駄を抑え効率よく必要な分だけ放てるよう練り上がったと言う訳ですね!」
「さすが哥哥…正鵠を射ている!」
「お~お~! アマムさんさもたいしてんまぐいったべさ♪ あとはミヅチちゃんのチカラさ上手に操れるためのヘレメレ=カネさ錬成するだけだべさ♪」
「…斯様に稀なるチカラ…こうも続けざまに遣いて…ケゥエに辛さなどはございませぬのでしょうか…?」
素晴らしい効能故に心配してヒメが尋ねる。
「…おお! ヒメちゃん心配あんがとな♪ なんもさ♪ この錬成さ…遣うチカラは…ワシャが為すに非ず…なんだべさ♪」
「…左様でございましたか…それはまさにシ=カラ=クル…純陀さまはそうであられましたか…!」
「純陀さまのそのチカラは…やはりそうだったのですね…!」
ヒメに続きオオトシも驚いて言の葉を続けた。
「あ~良くわがんねっケド…きっともってそうしょ? したっけこったらことどんどこやってもなんともないべさ♪」
「…ヒメ、哥哥…ボクのケゥエの再錬成、そしてそこのヒメの錬成可能時点で明白」
「…確かにその通りですね…ふふ…アマム…その手厳しさ…あの頃をエシカルンしますね…♪」
オオトシは昔を懐かしみ嬉しそうに応えた。
「…哥哥は緋徒が良過ぎ。だから常に…」
「…ありがとうございます…心配からのイタクでしたよね…」
「ああ。どうやらまだ心配の必要があるな。」
「ええ、よろしくお願いいたしますよ、アマム♪」
オオトシは笑みを浮かべてそう応えた。
「はっはっは! ユポ思いのいいアㇰだべさ♪ したらもいっちょやるべか~!」
「わ~いまってましたぁ~♪ よろしくおねがいしま~す!」
「ま~かせれ♪」
純陀は快諾して作業に取り掛かり始めた。
「…っとこっちさを…こ~やって磨き上げて…んでこれだべさ…こいつさ焼き入れて…」
キクリの見つけた玉は見る間に煌艶輝光銅…我々の知る鏡と良く似た状態に変貌していく…。
「よしゃ! こごさトゥム入れて欲しいべさ! キクリちゃん…それとアマムさん…二人に入れてもらってもイイかい?」
「もちろん良いわ!」
「没問題。礼にもならない手伝いだ」
「したら…ムリしねぇ範囲で…だけんどもアリキキノ入れて欲しいべさ!」
「…わかったわ…! やっ!」
「…わかった…。 ぃやーっ!」
「ないだって掛け声まで似てるべさこの二人♪ おお! 来たべさ! これさ…それぞれ…ストゥとなるカネの部分さキクリちゃんのモシリのトゥムを…チュㇷ゚キ透し写し出す部分さ…アマムさんのウパㇲ=ナムワッカみて~にピリカなワッカのトゥム…これさ注ぎ込んで…ナジミテチニアシツケタマエ! っと…お、おお~!
氣力が入り切り純陀が錬成の儀と呪を施すと…黒い霧が立ち込め辺りを覆い始めた。
「…コレって…ウェントゥム…なの?」
「いや。似ているが違う。しかし普通のトゥムではない」
「…アタシ…カムイなのになんでこんなウェン・トィ=カントのよーなモノ出てくるワケ?」
キクリは不満を露わに純陀に問いただす。
「…コイツぁ…このヘレメレ=カネさカムイ=トゥスしよ~としてるラマトゥによるモノだべさ!」
「…イウェンテㇷ゚に近しき…そして…ヘレメレ=カネ…! まさかカムイ=トゥスしようとしているのは…シリクンネ・ルーガル…でしょうか…?」
「…わがんね…。ラマトゥだけん刻は形さ観えねぇかんな」
「…哥哥恐らく正解。この気配…これは本体か近しき眷属」
しばらくして闇を生みし黒い霧が煌艶輝光銅に吸い込まれて行く。すると鏡面は一層透き通り、水を豊かに蓄えた湖の如く静かに揺らめき波打っていた。
そしてその周囲を龍…の様な意匠が象っていた…。
「…コ、コイツぁ…!ワッカノカカネ! シ=パセ ヘレメレ=カネだべさ! なしてわしゃからこったらモノさ生まれてくるべさ…?」
「…因と果だ。ワッカノカカネのチカラがミヅチに必要だったからだ」
アマムは当然とばかりに応えた。
「必要だからってそったらカンタンにワッカノカカネは出来ないべさ…」
「そうなのか?」
「んだべさ…。コイツぁ…宿らさったモノのチカラさ多分に働いてるっしょ…。…。…。このヘレメレ=カネさカムイ=トゥスしたお方、エウンして姿さ観せて欲しいべさ…!」
純陀がそう言うと鏡面がうねり姿を変えていく…。湖面の様に透き通りまさに雪解け湧きし清き水の如き肌を携え、その肢体を覆う様に同様の揺らめく薄衣を纏い、額から頭上にかけて龍と思しき形状を象った冠を被り長い髪を結いまとめ垂らしている女性が顕われた。
「…我がルーガルの命により降りて参りました…クラミツハと申します…以後お見知りおき賜りたく存じます…」
「…クラ…ミツハ…さん…? 成る程…クラ…谷間より…湧き出ずるワッカのカムイ…いえ…ラムハプル=モシリ=コロ=クル…ですね?」
「…アペヌイの化身殿…その通りでございます…わらわはワッカのセレマㇰ=クルでございまする…」
「ソシテ某ガヘレメレ=カネノ化身…クラオカミデアル…」
「クラオカミ…あなたはまた…クラミツハさんと別の存在なのですね…」
「…別ニシテ一、一ニシテ別ナルモノ…」
「その刻のイタクで言うならば…ボクは…倉稲と記してウカとなる」
「アㇺㇷ゚ニ…ラカサレタシ=アマムのセレマㇰ=クル…ソノ別タレシ一柱デアルカ…」
「…そうか。やはりボクは単独ではなく別なる存在と対で何かを為すモノか」
「…イズレワカル…アマムヨ…他ノモノ達ヨ…今後トモヨロシク…」
「…必要ありますれば別となりて動きまするが…平時はこの様な姿と相成ります…」
「おね~ちゃん…ミヅチにチカラ…かしてくれるの…?」
「わらわ達はその為に参りました故…何卒お力添えの程…お許しいただければ幸いでございます…」
「某モソウダ…ヨロシク頼ム…」
「うん! よろしくね、ありがと~! といってもミヅチいまほとんどチカラつかえないんだ…」
「ご心配いりませぬ…それすなわちシンノ=マゥエをご存じありませぬ故でございます…」
「ヘレメレ=カネト…ワッカ…。ワッカヲ以テヘレメレ=カネニ為ス…ソノチカラ…如何ニ使ウカ教エテ進ゼヨウ…」
「ほんと? いまのミヅチでも…できるの? えへへ、うれし~な♪」
「…あなた様は…我がルーガルと同様のチカラを持つ…極めて縁深きお方でございます故…。そのシンノ=マゥエは…エカンナイ=ストゥのトカㇷ゚チュㇷ゚=カムイに次いで強きモノ。故…極みに至れり刻は如何様なることでも叶います…」
「スベテヲ写シ返シ得ルソノチカラハ…生半デハ並ビ立ツ事叶ワヌモノナリ…」
「なんかよくわかんないけど…ミヅチ、すっごくつよくなれるってこと?」
「左様でございます…わらわたちと共に歩むのでありますれば…必ずやそうなる事でありましょう…」
「…ミヅチちゃんもないだってフツ~じゃなかったんかい!」
「…どーやらそーみたいだわ! 今のアタシでも観えないほどのラマトゥのアサムにイキネィペカがあるんだわ…!」
「…きぃちゃん! ミヅチ、きぃちゃんまもれるよ~にがんばるからね!」
「ええ♪ チパ=チパしてるわ♪ ガンバって♡」
そう応えてキクリはミヅチの頬に唇を押し当てた。
「えへへ♪ クラミツハさんと…クラオカミさん…よろしくね!」
「おまかせくださいませ」「…御意…」
「ミヅチちゃんがチカラさ取り戻すんはまんだ修行さしねっとなんねけどもさ、タㇰたちの錬成さは…最後のはなんまらびっくりしたけど…バッチシうまくいったべさ♪」
「そーね! ホントに助かったわ! ありがと!」
「ワラワは何とお礼を申し上げれば良いモノでありましょうか…」
「…ミヅチもね、がんばったらつよくなれるよ~にしてくれてありがと~♪」
「本当に助かった。これでこちらでも為すべき事が出来る」
「純陀さま…此度の事…イタクに顕し難き程に感謝は尽きませぬ…! つきましてはおって我がモシリより…」
どう伝えていいかわからないほどの喜びと感謝を全身から溢れさせながらヒメがそう言いかけると、遮るように純陀が応えた。
「なんもさ! だどもまぁ~んまいモノさ送ってくれるのは大歓迎だべさ♪」
「私よりも重ねてお礼申し上げます…! それでは後ほど…ナ・ラは我がヤマトゥㇺ=モシリ|《天船降りし山森囲む国》より…そしてヒムカの名物をお持ちいたします…!」
「おお! 楽しみに待ってるべさ♪」
「純陀エカシ…本当にありがと! アタシとミヅチは…このクラミツハたちと八俣さまの処へ行ってみるわ! お兄ちゃんも…もちろん来るわよね!」
「ああ。…八俣には色々と問い質したい事もある。それに…キクリ、オマエとは…恐らく一緒にいた方が良い」
「え…♡ イ、イイわ! すっごくイイわ♪ じゃぁ行きましょ!」
「じゃぁおじいちゃんありがと~! またあそびにくるね~!」
「…じゃぁ…行くわ! ありがとエカシ♪」
そう言ってキクリは純陀に抱き着いて頬に唇を押し当てた。
「おお~♪ コイツぁ~なんまらイイ感触だべや♡」
「…このほーが喜ぶと思ったから、ね♡ また今度しっかりお礼させてもらうわ♡」
キクリは目配せしながら笑顔でそう応え、ミヅチとアマムを連れてイヅモへと戻っていった…。
「…ワラワは…此処にてミケヒコを待つ事にいたします…」
「ヒメ…さん…よろしければ私とパミールへ向かい皆に合流しませんか?」
「オオトシさま…。そ、それでは…御イタクに甘え同行させていただきますわ…。お手を煩わせますが何卒よろしくお頼み申し上げます…!」
「…今のそのケゥエでしたらきっと私が本気の迅さ出しても大丈夫かと思います。まずはその前に…お使いをさせて頂きますね♪」
オオトシは優しく微笑みながらそう応えた。
瞬時に旅する門に向かい跳んだ先は…奴国の天船降りし山森囲む国と…日向のクニであった。
日向では例の焼き菓子を、天船降りし山森囲む国では名産の真の穀物を搗いて作った粉を丸め、キビの汁を煮詰めたモノと海の水を煮詰めた粉にヤブマメを上手に寝かしておくと出るモノを混ぜ合わせたタレに漬けて焼きを付けたモノを手にクスターナへ戻った。
「…純陀さま…ぜひお召し上がりください…私のモシリの名産です…! そしてこちらはヒムカ=モシリの焼き菓子です」
オオトシがそう言って差し出したものを口に含むと、純陀はその美味しさに思わず叫び声をあげながら食べている。
「…それでは純陀さま…私達もミケヒコ立ちに合流して修行に参加してまいります…!」
「まぐまぐ…お、おお! けっぱって鍛えてけろ~!」
オオトシは大きく頷いて応えた。
「…それではヒメさん…参りましょう…!」
「色々とありがとうございました…行って参ります…」
「おお! したっけ、なんもないと思うケド気ぃつけな~」
純陀の店を後にオオトシとヒメはパミールのビビ・ファティマ温泉へと向かっていった。
ヒメはオオトシと共にパミールのビビ・ファティマへ…
用語説明ですm(__)m
・アシリケゥエ:新たな+身体→「新たなる身体」としました。
・トゥレン=シセイ・ペレ:~に憑く+羽化、生まれ変わる→「宿りて生まれ還れ」としました。
・哥哥:中国(北京)語。親しい者同士、家族間での年長の兄弟を指す。
・辛苦了:中国語(北京)。日本と違い本当に大変な時に使う。
・没問題:中国語(北京)。問題ない、大丈夫。(無問題は広東語)
・…正鵠を射る:弓道の的の中心点→「正鵠」
→転じて「物事の核心や要点を正確に捉える、または指摘すること」の意。
・緋徒:神に近しい、ひとしいモノ
(日本の古語からアイヌ語へ転用と思われる。漢字は作品内の当て字)
・ウパㇲ=ナムワッカ:雪+湧き水→「雪解け湧きし清き水」としました。
・ウェン・トィ=カント:「悪い大地の空」そのままです。
・カムイ=トゥス:神の+神おろし→「神威降臨乃儀」としました(既出)
・ワッカノカカネ:水+形を模したモノ、写真の訳語+金属→「水鏡」としました。
・セレマㇰ=クル:守護、守護神+人、モノ→「(闇:ミツハ)(倉:アマム)の守護者」としました。
・レタラ=ニシパ:白い+紳士、成人男性→「純白の貴紳(身分の高い人)」としました。




