第80倭 ラムハプルするスセリ(惜しまずすべて与えるスセリ)
更に試練を進んでいくスセリは…?
「…ここは…?」
深く黒い霧が立ち込めている。
見るからに不用意に吸い込むのは危険と伺える。
スセリは自身の周囲に竜巻状の風の氣力を纏い歩いて行った。
良く観るとそこかしこに蹲って苦しむモノ達がいた。
「! 大丈夫? どーしたの?」
「…く、くろい、き、霧…ごぼぉっ! ごぼっごぼっ!」
そこまで応えようとした瞬間、彼は今まで観た事も聞いた事もない様な音の咳を幾度も連発してもがき苦しんでいる…!
消耗が凄まじいらしく、発作が治まった後は自発呼吸も辛うじて絶え絶えに行う状態であった。
「…このクンネ=ラクㇽ! アノ刻のコ=ロカンなんかじゃない! これはホンモノの…!」
「…左様…。シンノ=スㇽク=ラクㇽ…。このモシリを統べるカムイがヘセと共に吐き出しているとんでもないモノだ…」
「カムイが!? あなたは…ヘーキなの?その…仮面の…チカラ?」
「左様…。これを被ると…スㇽクを吸い込まずに呼吸できる…我がモシリのイコロの一つじゃ…」
「モシリの…イコロ! じゃああなたは!」
「…ラクㇽの前に何も出来ぬチカラ無きルーガルじゃ…」
「このモシリを統べるカムイなのになんでスㇽク=ラクㇽなんて吐くの?」
「昔はあんな状態ではなく…真に優れたるカムイであった…。ある刻…病に苦しむモノを見かねて祈り捧げし刻、何モノかが聞き届け…病に伏せしモノはトゥサレしたが…その代償とばかりに我がカムイが観るも悍ましき姿に変貌し…その刻よりヘセと共にスㇽク=ラクㇽを吐くようになり、カムイに近づくモノはすべて腐食される状態となってしまったのじゃ…」
「そんな…シ=パセ=カムイでもかかっちゃうってコトは…アㇽカなんかじゃなく…!」
「左様…強力なケㇲケであると思われる…」
「…ケㇲケ…しかも…カムイが侵されるホドの…!」
「故に…わしではもはやどうにもならぬ…苦しむモノの介抱をするくらいしか…くっ…」
王は己の無力さから声ならぬ悲痛な叫びを上げた…。
「…このモシリのカムイのトコへ…連れてって!」
「近づくだけでも危険じゃ! やめておいた方が…!」
スセリは風の氣力による障壁を纏ってみせた。
「ホラ…ボクは大丈夫! だから…場所を!」
「…! あい分かった! 我がカムイは…あそこのカムイ=チセ中央…イノミ=トゥㇺプにおられるはずじゃ!」
「わかった! じゃぁ行ってくる!」
そう言うとスセリは文字通り風の如く飛んでいった。
「あのお方も…カムイ…カムイメノコであられたか…ありがたや…」
颯爽と飛んでいくスセリの後姿を王は丁重に拝み祈りをささげた。
神殿に近づく程に霧はその濃さを増していく…。
「これは…ヤチの刻のアレ! レラよ! カタもポㇰもゼンブふさいで!」
スセリは渦巻く風を球状に纏い進んでいく。
その球状の風の表面では絶えず侵食と再生が繰り返されている…!
(…これは…たどりつくまでにボクのトゥム…ギリギリもつかどうか…!)
神殿内部に入ると…トカㇷ゚チュㇷ゚=カムイは真上付近に昇っている筈であるが…眼前に広がるは…闇…また闇であった。
良く氣力を練り観ずると…至る所で動けなくなり石のように固まったモノ達がいた。
「…! みんな…もう少しだけ…ガンバっていて!」
涙を堪えながらスセリは奥へと進んでいく…。
「…こ、ここ! ここが…イノミ=トゥㇺプ! なんて濃さなの! もぅコレってクンネ=ワッカを泳いでいるカンジだよ!」
スセリは黒い霧の中を泳ぐ様に両手で掻き分ける様にして進んでいく。
「…い、いた! カムイさま…イレンカを…ラムをしっかり!」
(…た…誰ぞ…この中…動けるモノなど…無い筈…?)
「助けにきました! 待っていて! 今! オピッタエピル=ペケレ・レラよ…!」
透明に輝く風が神威と思しき漆黒の塊を渦巻くように覆いだした!
するとそこかしこに亀裂が生じ光が漏れだす…。
見る間に亀裂は広がり中から眩いばかりに光が溢れ出し輝いたかと思うと…風は勢い良く吹き抜けていった…。
そこには光り輝く端正な面持ちの神威が鎮座していた。
「…忝き…! 礼を言う! マッカチよ…名は何と…?」
「スセリです! 戻ってよかったぁ!」
「スセリ…? そうか…あのお方の…! 流石の素晴らしきチカラであった! 此度の件、感謝は尽きぬ!」
「いえ…これはボクのチカラじゃないよ…コンコン=ラㇷ゚=タンネ=カムイさまから借りてきたモノ…です!」
「…左様であったか…。しかし…あれはチカラ借りしとは言え…誰しもが成し得る業ではあらぬぞ?」
神威は感心しながらスセリに応えた。
「…そーなの? ナンにも困らずに出来たからきっと誰でも出来るモノとばかり…」
「おかげで我はもう大丈夫である…が、我が吐きしモノは…戻せぬ…今まで我が図らずもケㇲケによりモシリに送り出ししスㇽク=ラクㇽは…未だ消えておらぬ…!」
祈りの間の外へ視線を移すと…確かに未だ闇に覆われたままであった…。
「…そんな! アレは…エピルされていないんだね…! みんなをヒドイ目に遭わす悪いヤツなのに…!」
「…実は…アレ自体に善し悪しはないのである…。アレが我等を襲う事はなく、何のイレンカも抱かぬ状態でケゥエに入りしとて問題無きモノである…が、苦しみ…妬み…恐れ…怒り…その様なウェンイレンカ抱きて吸い込みし刻…斯様な苦しみが生ずるのである…」
「…じゃぁ…倒すべきは…滅ぼすべきは…あのスㇽク=ラクㇽじゃ…ない…?」
「左様。あれらを滅ぼしたとて…共に取り込まれしウェンイレンカが…苦しみのストゥは消せぬ…」
「…じゃぁ…じゃぁ! 滅ぼすべきは…みんなのラムに巣くう…ウェンイレンカ!」
「…左様! しかし…コンコン=ラㇷ゚=タンネ=カムイのチカラ…と言う事は…此度此処に顕われしは試練の為の故。授かりしレラ使い切るならば…試練破れる事にならぬであるか…?」
「…! そーね…そーだった…ケド、すっかり忘れていたよ! だって今は…持ってるチカラで…誰かを幸せに出来るなら…そのあとの事なんてどーでもよかったもん! 元々ボクのチカラじゃないし、ボクだけじゃとても出来ないコトが授かったチカラ使って出来るなら…それでいい! じゃぁ行くよ!」
そう言ってスセリは微笑みながら祈り始めた。
「オピッタ・ウェンテ=キンラカラ・レラよ…このモシリにはびこるウェンイレンカを滅ぼして!」
するとスセリの頭に声が響いてきた…。
(…オピッタ・ウェンテ=キンラカラ・レラ行使せんと欲するモノよ…其方の願い聞き入れるならば…持ち得しチカラ…そのすべて失う事となるが…それでも望まんと欲するであるか…?)
「…すべてのチカラ…ボクの…レラも…?」
(左様…今の其方であるならば…全てを捧げし刻に初めてカムイ=マェたるこのレラの所業叶うなり…)
スセリは一瞬躊躇うも、満面の笑みで応えた。
「いーよ! お願い! みんなを救って!」
(…承知いたした…! イノンノイタク…エトゥッカ! カムイ=マェ! オピッタ・ウェンテ=キンラカラ・レラ!)
黄金に輝く風が激しく吹き荒れる!
瞬く間に黒い霧が全て吹き飛ばされ視界が晴れていく…!
風は神殿を通り抜けどこまでも吹いていく…。
外に出てみると一変の曇りもない蒼天が広がり、頭上には…優しくそして力強く天に輝く日之神威が光を放っていた。
蹲って苦しんでいて民はゆっくりと立ち上がり、先程までの苦しみがまるで幻だったかのごとく消え去っている事に驚き戸惑いながらも最高の幸せを感じていた。
「…おかげでこのモシリのすべてのモノが救われた…礼を言うぞスセリ…其方の困りし刻…我も全力で助けよう! 感謝する…!」
「へへ♪ よかった♪ きっとヤチも…みんなも…おとうさまも…めいっぱいほめてくれると思うな♪ なくなったチカラは…これからまたいーっぱい錬重ねて…ガンバる!」
スセリがそう言うと周り中が光り出し、目も眩むほどに輝いた瞬間全ての光景が霧散した。
そこは…先程昇っていた階段の頂上であった…。
「…コンコン=ラㇷ゚=タンネ=カムイさま…?」
「ワレはココにいるゾ…それモイマは観えヌ…か…? ナラば…カムイ=エウン…!」
羽毛と翼持ちし蛇神が念じると…誰の目にも見える状態で顕れた。
「あ、そっちだったのね! スセリ、ただいま戻りました!」
「…シテ、何れヲ選んダのデあろウか?」
「へへ…♪ 全部使っちゃった♪ ボクの全てのチカラも…♪」
「チカラ喪いウタラとナったでアルか…」
「…うん…! でも、最初の兄妹も…スㇽク=ラクㇽに侵されたみんなも助けられたし…良かったと思ってるよ!」
「左様でアルか…ソのラム…イレンカ…見事ナリ…! シカし…其ノ儘デは…コの先イクら修行スれど…契約は…叶ワぬ…!」
流石にその言の葉を聞いて少し落ち込み気味にスセリは応える。
「…そっか…。 うん…でも…いい! ボクは…後悔しないよ!」
「ヤィコ=トゥィマトは全く以て違イしソのラム…敬服イタす…。…。…。ソのラムとイレンカなラば…今ノ其方でアっても…一つダけ…チカラ得ル事叶いシ方法がアルが…」
羽毛と翼持ちし蛇神が言い終える前にスセリは応えた。
「する! 選んだコトに後悔はしてないケド…ボクは…これからもみんなを守って幸せに出来るための…チカラが欲しい!」
「…緋徒…ならザル異形とナリ果てルが…ソレでも…チカラを欲スルでアルか…?」
「…かまわないよ! 大切なのは姿形じゃなくって…どんなイレンカでどんなコトをしてくかだと思うよ!」
「…ウム、正に…。其方ノ…相方をコチラへ呼ブが良イ…」
ヤチホコ呼ばれるままに駆け上がりいきさつを聞いた。
「…スセリちゃんさすがです…素晴らしい決断だったと思います!」
「でね…ひとつダケ方法があるんだケド見た目がね…ヘンになっちゃうらしいの…で、でもね」
そこまでスセリが言いかけるとヤチホコは即座に応える。
「スセリちゃんはスセリちゃん…どんな姿であっても…それは変わりませんよ♪」
スセリのヲモヒをくみ取る様にヤチホコは応えた。
「…へへ…♪ さっすが…ボクの…ヤチだね♡」
「へ? あ、当たり前の事だと思いますが…?」
「ティティが4つになったりアムニンが8本になったり…コワーイカミヤシみたいなカオになっても…へーき…?」
「ははは…4つになったら立派になりますか…ぐはぁ!」
「…もぅ~! いーじゃない! こじんまりだって!」
(…確かに僕がシ=エラマスのイレンカよせる緋徒って…そ~言われてみれば…控え目な方ばかりかも…実はそちらが…エラマス…でしたかね…?)
「…ソの辺りはアマリ変わらヌと思ウが…何分当初は借りモノのチカラ故…。しかシ…直に…其方ナラば御スル事叶イなじムでアロウ…。我モ…其方に対シ強くエラマスのイレンカ抱キし故…」
「コンコン=ラㇷ゚=タンネ=カムイさま…ボクのコト…エラマス…なの?」
「其方ノ生キ様…イレンカは尊敬ニ値スル故…」
「ありがと! うれしい!」
スセリは素直に喜んだ。
「あ、そ、それでコンコン=ラㇷ゚=タンネ=カムイさま、一つだけの方法とはいったいどの様なモノなのでしょうか…?」
「カンタン…ナ事でアル…。我のコのケゥエとチカラ…スセリに授けヨウ…」
「ええ! そ、それって…いったんカリ・ラマトゥしちゃうって事でしょうか?」
「案ズルでナい…我の全てヲ…ウカムレセしスセリのイレンカにテ自在に遣エル様にスル…共に生ヲ歩ム…ソウ言う事でアル…。コノ姿は…女媧殿同様…本体ヨリ別タレしカムイ…。本神デハ無イが、スセリ、其方が現状受け入レ得るチカラを大きく超えしモノでアルだろう…。ソノ超えシ分ダケ本神との共振にヨリ形状が引き寄せラレてシマう訳でアル…」
「じゃぁ…錬重ねて…チカラを使いこなすホド…今のコンコン=ラㇷ゚=タンネ=カムイさまみたいにフツーの緋徒の姿のよーに…?」
「左様。極メし刻はホボ今と変わらヌでアロウ」
「わかった! ボク…もう迷わない! コンコン=ラㇷ゚=タンネ=カムイさまお願いします!」
「…ヤチ…ちょぉっとカワいくなくなっても…ウ=ウェラマスしてね♪」
「スセリちゃん、もちろんです♪」
「デは…ラム=ピリカ、ラムエトクスセリ…我と…共にタアン=ラマトゥヲ!」
そう言うと羽毛と翼持ちし蛇神は光を放ち上空へ飛翔し、スセリ目掛け落雷の様に急降下してきた!
激しく閃光が煌めき、爆風と共に轟音が鳴り響いた。
「みんな! 行ってみよう!」
「ええ! すぐ着くと思います!」
ミチヒメ達は大型万能船を巨大な階段の方へと走らせた。
先程の衝撃で砂塵が舞い視界が妨げられている。
暫くすると一陣の風が砂煙を吹き飛ばしていく…。
「視界が晴れたわ!」
「…あれは…?」
オオトシが見やる方向にナニカが立っていた。
「どーやら契約…出来たみたいだわ!」
「ちょっとだけコワいけどカッコいいかも♪」
キクリとミヅチはそれぞれそう観じた。
「まさかだけど…あれ…スセリちゃん…?」
アビヒコはその姿を観て少し驚いたようである。
「…正しくも困難な道を…良くぞお選びになられました…」
ヒメはそう感慨深そうに言った。
「…見た目以上に…強くなったようだな!」
ミケヒコは見た目よりもその内情の変化と進化に興味があるようである。
「…ヤチ…ボクだって…ワカる…かな?」
「あ、はい! 目を閉じますと…まったく別の緋徒の様なトゥムですが…スセリちゃんは…スセリちゃんです♪」
そうヤチホコが話しかけたモノは凡そ先の少女とはかけ離れて観えた。
異様に長く伸びた上肢、背には翼を携え、腰から下の下半身はワシやタカなどの猛禽類を彷彿させ、手にも鋭いカギ爪…そして至る所が鱗に覆われていた。
辛うじて顔半分のみ先の少女の面影があった。
(…暫クハ…コノままデアロウが…トゥムの流レ御スル事叶いシ刻は…一ツ処に我のチカラ集メル事叶ウでアロウ…)
「ありがとコンコン=ラㇷ゚=タンネ=カムイさま、ボクの中に…入ってくれて…宿ってくれて…。今までのボクとチガって…レラが…外から…内から…自在に出入りしているコトを…ありありと観じられるよ! レラは…ウタㇻイヒ…いつもボクと共に…ある!」
そこまで言うとまた輝き出し姿が変貌していく…!
翼は小さくたたまれ、カギ爪の中から通常の上肢が漏出し、下肢は…下腿はそのままだが大腿は緋徒のそれに変化し、全身の鱗は主に背部に集まり身体の全面は生身の肌が露出してきた。
顔も片方の目の周囲のみに鱗が集束した。
「わ! これならこ~ゆ~ハイヨクペつけてるみたいだね~♪」
「アビヒコ、ヤチホコくん、ミケヒコくん、ミヅチちゃんはいいわね…♪ あ! オオトシさまも…まわれ~右!」
ミチヒメはスセリの生身の女性形を顕す部分の露出に対して、思わず目が離せなくなったヤチホコをはじめとするヲノコ達に向こうを向かせ朱雀に頼みスセリの肢体を覆ってもらった。
「わたしの変身した刻の…いつものアレよ♪」
「ミチヒメちゃんありがとう♪ 動きにくいアミㇷ゚ならないほーが良いケド、これは動きやすいね♪」
(…その基準!? このコもたいがい恥じらいが欠落しているわね…)
「…ミチヒメには言われたくないってみんな思いますよ♪」
「そうトラ! オマエなんてワザと魅せてるんじゃない…ムグムグ」
「その…戦いへの集中は素晴らしきであるが…メノコとしても磨かれし刻はさらなる高みを目指せるやもしれぬであるからな」
「露出以解放感獲得行動希望…」
「ぶ~! 青龍以外みんなひっどぉ~いんだからぁ!」
ミチヒメは頬を膨らませ四獣に対して言い返した。
「ほらスセリちゃんも! このコたちちょっちひどぉいと思うよ?」
「うん…。でもボクたしかに…見た目とか、メノコとしての気配り…足りなかったし…そこに気づいたら今度はこんなカンジになって…それドコじゃないよーな…」
「そんなことありませんよ! 今のスセリちゃんも…なんと言いますか…今までに無いステキさを僕は観じます♪」
「そうそう! まわりとの違いがかえって肌を引き立てて…つい目がいっちゃったからね!」
メノコ観察に予断無い二人が率直な意見を述べた。
「…オオトシ兄は?」
「私もつい見惚れてしまいました…なんとも不思議な魅力に引き寄せられる様に…。決して物珍しさではないと思います。ラムエトクさを観じる鱗から垣間見えるカㇺ=アㇲヌは、そのハプルさをより一層引き立てられてとても映えるのだと思いましたよ」
(さすがいも~とには余裕で応えてあげれるのね…でも…ホントに魅力的とも思ったのね…あのテもお好きなのねオオトシさま…♪)
「見た目と練り上がり方が連動しているなんて…とても錬しやすくてうらやましいぜ…! あと…そっちのお気楽なヤツよりはオマエのカㇺ=アㇲヌの方がキレーだと思う…ぶっ!」
「だぁ~れがお気楽だってぇ? こぉのエラぶりヘカチめ!」
ミケヒコが言いかけた処でミチヒメの寸勁が脇腹に入った。
「…くそ! やりやがったな! そこに直…!」
「…イチイチ目くじら立てないの♪ そして…オソイオソイ♪」
はるか遠く離れた処からそう言いながらミチヒメは笑っていた。
「~~~! なんなんだアイツのあの迅さは!」
「あれは…瞬動…ケゥエ=エイキの極みによる歩法です。全力でしたら…彼女でしたらあの数倍は動けます…道は果てしなく面白きモノですね、ミケヒコ…」
「パセ=トゥスクルさまの…アレか…! くそ!」
「そうです、ですので錬積めばどなたでも会得する事叶います…」
「オオトシ…さま…、オレに教えてくれ! ナゼか…アイツにだけは…オレは負けたくない…!」
「…! ふふ…。よろしいです、お教えいたしましょう…♪ その内…何故ミチヒメに負けたくないかの理由に至りし刻…私もその勝負参加させていただきましょう…♪」
「…? ああ…! アイツに勝てぬようではおそらくオオトシさまには敵わぬだろうからな! 望むところ!」
「…その意気です…! それではこの歩法ですが…肝要となるは…脱力です…まず、余分な力みを抜き去り、如何様な方向にも動き得るように重心を保ち立ちます…。そこからイレンカ抱き望む方向に重心を落下させるように傾ける事で力んで踏み込み勢いをつける以上…そして相手に動きを観じられずに移動できます…。何しろ機先がありませんからね…!」
力んで能力を高めんとしていたミケヒコには目から鱗の教えであった。
「…そ、そうだったのか…。それでラムとイレンカの乱れによりさらに察知が遅れこの始末となる…。そういうカラクリか…!」
「そこまで読み解けば出来たも同然です…さぁ試してみて下さい」
オオトシに促されてミケヒコは深く頷いて深呼吸し、脱力してゆるやかに構えた。
不意に微かに揺らめいた様に観えた後十歩は先の処へと瞬時に移動した。
「…! で、でき…た? こ、この…カンジ…か? これは…動きの先が観えぬ訳だ…! はは! すごい…!」
「やぁったじゃん♪ はじめてにしては…とってもスジが良いよ♪」
そう言って微笑みながらミチヒメがミケヒコの頭を撫でようとしたら…見事にその手は空を切った。
「ポンポ扱いはやめろ!」
ミケヒコは先程よりもさらに滑らかに移動してみせた。
「…やるぅ~♪ じゃぁ…ちょっちホンキで…♪」
そう言い残して消えたと思った瞬間何度も頬を指でつつかれた。
「~~~!!! く、くそぉ!」
「…そっか…オマエもムボーな挑戦への扉…ひらいたのか…同士よ…♪」
アビヒコはそう言いながら何度も頷いてミケヒコの肩をたたいた。
「??? なんの…コトだ? 良くワカらんが…あのメノコには…負けられん!」
「…まあそーだよね…おたがい頑張ろーな!」
「? あ、ああ…!」
(…そっかぁ…本人ムジカクで…♪ やんイイヨマプカすぎ~♡)
ミチヒメはミケヒコに対し胸中に愛おしさが溢れてきた。
(…みんな…わたしもみんながシ=エラマスよ♡)
「あ、そ、そう言えば…オオトシ兄とミケヒコ…もうアペヌイ=ルーガルさまと契約できたのですよ…ね? そちらももの凄く迅かったですね♪」
「私達の目的地はインペリウム=ローマ領のウフィ=ヌプリでしたので…」
「ロルンペをしているふたつのモシリの間に入ってね…」
「…停めた訳だ…!」
「ちょっ! そ、それって…とんでもない迅さで停戦させましたね…!」
ヤチホコはオオトシ達の話を聞いて仰天して応えた。
「…真の指導者たるカムイたちと直接イタク交わして…な!」
「そもそも両モシリ共に相手の持つ領土などなくても…ウタラの生活も何も問題ない事に気づいていただいただけです。特に今期ローマのルーガルとなられたハドリアヌスさまは和平を望まれていましたので、三つのモシリ手放す代わりにパルティアと停戦となりました」
「とくにローマ側のカムイさまたちは友好的でね、ぼくらをアペヌイ=ルーガルさまの元まで連れて行って下さったんだよ」
オオトシの説明に続いてアビヒコも応えた。
「先のスセリやキクリ同様…私とミケヒコはアペヌイ=ルーガルさまの本来の領土たるポㇰナ=シリにて…かなりの刻の間錬して頂きました…」
「…正直…キツかった…が、手に入れてみせたぜ!」
「そうでしたか…さっきのスセリちゃんも…観ている僕にはあっという間でしたが…聞いた限りでは中では結構な刻が流れていたようですからね!」
「私達は…すべての季節が…一廻り…二廻り程はしたかと思います…!」
「…そ、そんなでしたか…! 大変でしたね…!」
驚くヤチホコに対し頷きながらオオトシは続ける。
「アペ…アペヌィのトゥムにも種類がありまして…キムン=エピル=イロンネ・シウニン…イレストゥサレ・ニソロ・トムネ…そしてオピッタ・ウェンテ=アラフレ…封輪火斬さまは…主としてアラフレを内包するお方でして…それ故に余計に動かれない…動き難い…そう仰っておりました…。エカンナイにポロ=モシリを席捲し暴れ回るウェンルイ=ウェンテ=キムンペを戒めし刻も、呼応するが如くモンジベッロの噴火が起こり、周囲に多大な被害を及ぼして一つのモシリが滅んだそうです…」
「…まさに…ウェンルイ=アン・キ=ヤㇲケ=シルトゥと呼ぶべきチカラですね…! それこそが本来の…」
「そうです…。イネ=シ=ストゥ=ルーガルと契約叶いしモノが揮える…危険極まりない…チカラです…」
「それは…よくよくラム=アサムに刻んでおかないとなりませんね…! あ、それでオオトシ兄とミケヒコは…どの側面が強かったのですか?」
「…私は…ニソロ・トムネへの適性が一番高いようです…」
「これってオオトシさまにぴったりよね~♪」
話を聞いていたミチヒメが横からそう応えた。
「ありがとうございます。…ミケヒコは…アラフレ…です…! 故にいつの日か…私を大きく超える強さを身に着ける事となるでしょう…」
「封輪火斬さまってばなぁんか意味深な事おっしゃってましたよね~?」
(…タアン=ラマトゥも他者を傷つけるか…アペヌィの化身よ…。そうならぬ様我も願っておくぞ…。チカラは…皆の為に遣ってこそ…である…)
「…良くわからんが…ヤィコ=トゥィマで…なのか、オレは…ナニかしでかした様だな…。無論そうであろうがなかろうが…今後愚行を犯すつもりなど…毛頭ない!」
(…このイレンカも…当初に比べ大きく変わられましたね…ミケヒコ…)
「ともかくこれであとは…キクリちゃんのお兄さんの事ですかね?」
「…そーだわ! スセリもいちおー落ち着いたみたいだし…純陀…チャチャの処で話聞きたいわ!」
「さんせ~い! あとヒメちゃんのケゥエのこともだよね~?」
「そーよミヅチ、良く覚えていたわね! その二つと…塔への再挑戦…だわ!」
「それではクスターナへ皆で参りましょう」
「はい!」
一行は大型万能船と帆掛け舟を走らせ王子に授乳せし大地へと向かっていった。
コンコン=ラㇷ゚=タンネ=カムイさまに認められましたね…♪
落ち着いた状態のスセリってそう言えば何モノかに…?
用語説明ですm(__)m
・シンノ=スㇽク=ラクㇽ:真の+毒の(元々はトリカブトのそれを指します)+霧
→「真なる毒の霧」としました。
・クンネ=ラクㇽ:黒い+霧
・イノミ=トゥムプ:祈り+部屋、個室→「祈りの間」としました。
・カムイメノコ:もともと「女神」の意味ですがスセリに相応しい様に「神威の乙女」と意訳です♪
・ヘセ:呼吸、息をする、より「息吹」と言う意味でも使っています。
※一応これはもう一度載せておきますm(__)m
・オピッタトゥサレ=ラムハプル・レラ:すべての+治す+優しい、惜しまずすべてを与えます+風
→「全て快癒す優しき風」としました。
・オピッタエピル=ペケレ・レラ:すべての+祓い清める+清い、善い+風
→「すべてを浄化す清き風」としました。
・オピッタ・ウェンテ=キンラカラ・レラ:すべての+破壊する+猛る、激しく感情的になる+風
→「総てを滅ぼす猛き風」としました。
・ラム=ピリカ:こころ+美しい、幸せ、良い→「心正しき」としました。
・キムン=エピル=イロンネ・シウニン:山+祓い清める+深い+緑色の
→「春山を染め浄める深緑」としました。
・イレストゥサレ・ニソロ・トムネ:育てる+治す+青空+~色
→「育み癒す海の紺碧」としました(単に「青」を指す言葉がなかったのです…)
・オピッタ・ウェンテ=アラフレ:すべて+破壊する+真っ赤である
→「総てを滅ぼす紅蓮」としました。
・ウェンルイ=アン・キ=ヤㇲケ=シルトゥ:ひどく激しい+天と地+裂ける、割れる+進、動く
→「苛烈なる驚天動地」としました。
・イネ=シ=ストゥ=ルーガル:四つの+偉大なる+根源の+王→「四大元素之王」としました。