第79倭 スセリ、レラ=ルーガルの試練へ
皆が駆け付けるとスセリは…
これはキクリが修行に向かい少し経った刻の事である…。
艶やかな黒髪を長く垂らした佇まいの少女と思しきモノが美しく透き通る羊脂白色の宝玉に手を翳し何やら探っている…。
「…現在の僕たちなら…可能なのでしょうか…?」
銀色に輝く美しい長髪を後ろで緩く束ねた少年がそう尋ねる。
「左様でございます…。ラムに…真にシ=ヤィピㇻを味わい…そこから立ち上がり…契りの儀を通しラム=トゥマムによりシ=パセ=アンペ=ソネプよりチカラを己に透徹させラムとケゥエを清める事…それらが必要でございました…」
「そっか…ホントにタイヘンでもさらに前に進むコト…そして…それを…」
「ふたりで共にイレンカ抱けないとダメだったのですね…!」
「…今のその状態でレラ=ルーガルの元へ参られてみてください…」
「…わかったよ! ヒメちゃんありがとー!」
「それじゃぁ僕たち行ってきますね♪」
二人は再びコンドルの幼生に導かれつつ彷徨える湖を目指す。
幾日か周囲を探索していると泉湧きし地の一つ、楼蘭の北側付近でコンドルの幼生が強く反応した。
「スセリちゃん…見つけたみたいです!」
「うん! 行こ! ヤチ!」「はい!」
二人でコンドルの幼生の反応が強まる方を目指していくと…独り彷徨う人影が…羽毛と翼持ちし蛇神であった。
「…ヨクぞ参らレた、チカラ求めシモノヨ…シ=ヤィピㇻヲ観ずル苦難に遭イ、シ=ヤィピㇻのラム=アサムヨリ立チ直り、前ニ進マんと正シく儀にてイレンカ交わシたるモノヨ…」
「…うん! ボクは…行く! だから…契約してほしいの!」
神妙な面持ちで羽毛と翼持ちし蛇神は応える。
「…ソナタは通常でハ契約罷らヌ…。故ニ、コレヨリ我ノ課す試練超えル事叶いシ刻…ラマトゥに喪ワレしシンノ=レンカイネと共ニ授ケヨウ…」
「…ありがとうコンコン=ラㇷ゚=タンネ=カムイさま! 今のボクでも…がんばったらできる方法をよういしてくれたんだね! ホントに…うれしい…」
「…試練は…三ツ…。コノ三ツのレラのチカラ用イ試練ヲ超えテみせルが良イ…!」
「…三つの…レラ…?」
「…オピッタ・ウェンテ=キンラカラ・レラ…オピッタトゥサレ=ラムハプル・レラ…オピッタエピル=ペケレ・レラ…コレらヲ用イ…我ノ元へ参ルが良イ…ソナタが一番大切とトイレンカ抱きシ風残しテ…ナ」
「…一番大切と…イレンカいだく…チカラ…?」
スセリのその言の葉に軽く頷きながら羽毛と翼持ちし蛇神が手を翳すと、砂塵の中スセリの眼前に巨大な一本道の階段が出現した。
「…ワレは最上段ニて待ツ…駆け昇ッテ来ルが良イ…!」
「…うん! ヤチ! 行ってくる!」
そう言うとスセリは脇目も振らず階段を駆け上がり始めた。
(…その決断力…迷いのなさは…僕にはないモノです…さすがですね…!)
駆け昇るスセリに対しその様にヲモヒ抱いてヤチホコは見守っていた。
場面と刻を変えこちらは瞬時に旅する門集まりし一向である。
「え? ヒメちゃんど~ゆ~こと?」
王子に授乳せし大地に跳ばんとした刻にヒメが申し出てきた。
「…その前にヤチホコとスセリの元へ向かい後に共にクスターナへ向かった方がよいかと思われます…再会を果たし…契約の儀が…どうやら執り行われている様でございます…」
「そっかぁ! それは…無事試練超えた刻お祝いしないとだもんね♪ で、今ヤチホコくんたちと…コンコン=ラㇷ゚=タンネ=カムイさまってどこにいるかわかるヒメちゃん?」
「…アンナ殿…お映し下さいまし…!」
アンナは壁面にヤチホコ達の現状を投影した。
「これって…ケッシレカリ=トーの近くのナムワッカ=シリ…楼蘭のエマカㇲ北だわ! 」
「よし…皆さん参りましょう!」
一行は楼蘭の北側へ向かっていった。
砂嵐の中を進んでいくと人影が観えてきた。
「ナ、ナニ? おっきい…階段…! まちがいないわ、きっとアレね♪」
「無事に再会できたんだね…!」
「…あとはこのレラ=ルーガルさまの試練を超えるのみね♪」
「…そうですね…あとは無事のイレンカ抱きて見守り…待つしかありません…!」
「たとえどんなにタイヘンでも…チカラを得られるなら…だわ!」
「そーだね! ミヅチもイタくてコワくてないちゃうけど…がんばってるもん!」
「…そーよね…えらいわ…!」
慈しみを籠めてキクリがそう応えるとミヅチはうれしそうに笑っていた。
「あそこ昇ってるのって…スセリちゃん? それと…門? あ! き、消えちゃった…?」
スセリの姿を捉えたミチヒメの視界からスセリは門の中へと吸い込まれる様に消えてしまった…。
「…ナンかまったくちゅーちょなしに門へと飛び込んでいったわ…! さすがだわ!」
キクリはその迷いのないヲモヒと行動力に感心した。
スセリは…基本的にどの様な事も迷わず、悩まず、即座に行動する。
その様は脊髄反射的で無策にも観えるが…その決断は至極適切である場合が多い。
我々の世界でも一説には…潜在意識の、無意識領域の深奥ですべてのモノは“集合的無意識”と繋がっているという。
彼らの世界で言われている処の“大いなる真理”がそれに該当するであろう。
そこにありし叡智に対し耳を…心を…そして魂を傾け寄り添おうとした場合、直観冴えしモノと傍目からは映るであろう。
今世スセリとして生まれしモノは…その様な存在であった。
「…! 扉! よし!」
奥に観えてきた扉をスセリは力を込めて押し開いた。
眼下に広がるは…大勢の…恐らく悪者と思しき集団に子供二人が取り囲まれ今にも襲われようとしている光景であった!
「待って! 何してるの! ノカン=クルふたりに大してそんなにイッパイじゃいくらなんでもヒキョーだよ!」
スセリはそう言いながら躊躇なく崖の上からその場へと飛び込んでいった。
「…なんだぁ~? おうおめ~ら! ニエが三匹に増えやがったぜ! ひゃっひゃっひゃ!」
「…ニエ…だって…!」
どこかで観た事がある様な子供たちであるが…その顔は影になり観えなかった。
「よし! こんなヤツらボクが全員やっつけてやる!」
スセリはそう言って風の氣力を練り上げようとするも…
「…! トゥムが…出てこない…!」
「…こ、ここでは…誰もがトゥムも…ヌプルも…封じられてしまうんだ…。その名も…エヤィホノッカ=シ=ケス=モシリ…」
顔は見えないが恐らく少年…スセリよりも年の頃は少し上だろうか…がそう教えてくれた。
「…アタシたちなら…お兄ちゃんとなら…ここじゃなければ…ゼッタイゼッタイ負けないのに…!」
スセリと同じくらいかやや下に観える少女は悔しそうにそう言った。
「…ボクはケゥエ=エイキによる武だけでも…ワリと自信あるよ! 観てて!」
そう言ってスセリは蛇頭の亜人達に跳びかかっていった。
「しゅっ! ふっはぁっ!」
身体操作により重心を最大加速させて打ち出す!
スセリの突き、掌底、肘打、蹴り…見事にすべてをその状態で放っていた。
一撃ごとに亜人達ははじけ飛ぶように倒れていく。
「しゃらくせぇー! これでコマ切れにしてくれるわぁー!」
そう叫びながら巨大な彎刀を渾身の膂力を籠めて切り付けてきた!
「ひゅっ! すぅ…はぁぁっ!」
後ろ足を素早く引いて半身に捻り躱す勢いで反対足で激しく震脚し左手から全力で発力!
「ごぼぉぁ~!」
彎刀を持ったままかなりの勢いで吹き飛ばされ悶絶!
「…ヤルじゃね~か~お嬢ちゃん…こりゃ喰いでのありそうなカンジで…」
一際巨大な首領と思しき個体がそう言ってきた。
その表情にはまだまだ余裕が伺える。
「…おいおい…オメーらいつまで寝っ転がってんだぁ? とっとと起きやがれや!」
その声を聴き先の彎刀使い以外全員むくりと起き上がる。
「効いたぜ~愛のムチってかぁ♪ ますます燃えるぜ~なぁおい!」
「たまんねぇ! これっくらい活きがイイと嬲りがいもあらぁな♪」
「オイオイアイツ…ハバのヤツホントにやられちまってやがるぜぇ~」
「なっさけねぇ! これからが楽しみだっつーのによぉ!」
(…ほ、ほとんど効いてない…! ケゥエが…フツーの緋徒よりも…ずっと強い!)
唇の端を噛みしめスセリは構え直す。
「イイねぇイイねぇイイねぇ~♪ そのカオがナミダでぐしゃぐしゃになるトコをもぉーそぉーしちまったら…もうぅビンッビンだぜ~!」
そう言ってはち切れんばかりにいきり立ったナニカをみせつける。
「…へし折ってやる! やられるもんかオマエなんか…!!」
そう言いかけた処でスセリは急激に横に吹き飛ばされた!
「…っ痛っ!」
「…少しばかり躱しやがったぜぃ! ホントコイツてぇ~したもんだなぁ~! まぁだけどなぁコレで迅くうごけねぇ~だろ! ひゃひゃひゃ!」
そう言いながら間髪入れずにスセリの脚を踏み潰した…!
「ぅぐぅ…っぁ…あぁ~!」
恐らく両下腿骨粉砕骨折と思われる…。
動きの要たる足が潰れ悲鳴を上げ蹲るスセリの様を見るや否や一斉に跳びかかってきた!
「ヒャッハー! メスは犯ってから殺ってやるぜぃ!」
「喰うトキまずくなっけどなぁ、あの泣き叫ぶツラがたまんねぇからな!」
(…し、しまった…! オヤシッ! ケ、ケマさえうごけば…! …! はっ! …オピッタトゥサレする…!)
「…オピッタトゥサレ=ラムハプル・レラよ!ボクのケマを…あの二人のケガを…トゥサレして!」
春先の森の様な新緑色に輝く風が吹いてきた!
見る間に砕けた足が治っていく…!
「…ヤタッ! これで…いける! はぁ!」
今度は一体ずつ確実に全力の勁を徹していく!
「ごぼぉあ~!」
次々と倒れていく蛇頭の亜人達。
スセリはミチヒメ程身体操作を極めてはいないが、氣力が少ない分普段よりかなり努力と工夫をしてきたのが動きから伺えた。
「…はあ…はあ…!どう! これであとはサパネクㇽのアナタだけよ!」
スセリはかなり息を荒げつつも首領一体まで追い詰めた。
「…笑えねぇなこりゃ…。オレがシメシ…ツケねぇとな!」
そう言いながら首領は巨大な刀を振り下ろしてきた!
(…ココ! ココで…!)
スセリは宙に舞う羽毛の如く斬撃に身を任せふわりと自然にたなびく様に躱し、そのまま左掌底を密着させた状態で勁を放つのと同時に右掌を上から重ねた後全身を大きくうねらせて激しく螺旋状に重心を加速させ左右の掌から正反対に渦巻く勁を同時に発力させた!
「エ=ホロカモィ=コトゥィエ!!!」
真反対のうねりと衝撃が同時に打ち込まれ、首領の体内で激しくぶつかり、互いを増幅し合いながら身体中を勁が駆け廻る!
「…な、なんじゃこりゃ~…ご! ごぼぉあ~!」
その言の葉と共に首領は夥しい量の血を吐きながらガックリと力無く崩れ落ちた。
「…カリ・ラマトゥはしないケド…動かないほーが良いよ!」
そう言ってスセリは二人を連れて修練並び終焉の地を後にした。
「…次の扉! よし…あそこまで行けば!」
そう言って振り返ると…後ろにあの二人はいなかった…。
「…ありがとう…技があれば…切り抜けられること…しっかりと観せてもらったよ…」
「…アタシも…すべて封じられても…出来るコトがある…それをちゃんと観せてもらったわ!」
二人は遠く離れた処から笑みを浮かべそう言いながら手を振っていた。
スセリは満面の笑みで二人に手を振り返し次の扉へと向かっていった。
風の力に助けられつつも見事自身の体術で切り抜けましたね♪
(用語説明は後程に…(-_-)zzz)
6/6追記です! すみません、用語説明ですm(__)m
・オピッタトゥサレ=ラムハプル・レラ:すべての+治す+優しい、惜しまずすべてを与えます+風
→「全て快癒す優しき風」としました。
・オピッタエピル=ペケレ・レラ:すべての+祓い清める+清い、善い+風
→「すべてを浄化す清き風」としました。
・オピッタ・ウェンテ=キンラカラ・レラ:すべての+破壊する+猛る、激しく感情的になる+風
→「総てを滅ぼす猛き風」としました。
・グル=グラン:楼蘭は古代の発音だとこうなります。
・ケッシレカリ=トー:放浪する+湖→「彷徨える湖」としました。
(これであの幻の湖とお判りいただければ…m(__)m)
・サパネクㇽ:首領、頭。
・エ=ホロカモィ=コトゥィエ:反対にする+渦+意思を徹す(=発勁の意で使用)
→「双対渦勁」としました。