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第64倭 シ=パセ=カムイのカムイ=イタク

カルマ王の元へ。

 近づく程に金属が激しくぶつかり合う音が聞こえて来る。


「大叔父殿ー!」


「…息災(そくさい)であったか…! …! …成程…大したモノであるな!」


「オオトシ殿のおかげである!」


「…流石! 若きルーガル()よ!」


(さか)しき! ヌゥン!」


 カルマ王が手を振り回すと周囲のモノもまとめて吹き飛んでいく。


「…おはなし、きいてくれるかしら…?」


「我等ガマズ参ロウ…!」


 ヴァジュラ兄弟がカルマ王の前に割り込んだ。


「…ルーガルヨ…オ待チ下サレ、ナニトゾコノモノノイタク(言の葉)ヲオ聞キクダサレ」


「ソシテ何卒元ノ優シキルーガルニオ戻リクダサレ…」


「ヴァジュラ達よ何を言う? 余は元々正気である。ただ、耐える事を辞めただけである…己がイレンカのまま自由に振舞(ふるま)いしだけであるぞ?」


「…その()の果ては…ウェン=ニㇳネィ(邪なる鬼)と成り果てるしかなくなります。聞けば元々苦悩(くのう)の末生くる為の苦渋(くじゅう)の選択であったと」


「…そう言うイレンカ(ヲモヒ)もあったやも知れぬが…余は解き放たれし! 自由である!」


 そう言い放つカルマを見遣(みや)りながら静かにオオトシは伝える。


「…では、何故にその様に苦悶(くもん)の表情をされているのです?」


「そんな(はず)なかろう! 余は今幸福に包まれて満たされておるわ!」


 オオトシが指さす方向に立派に磨き上げられた鏡があった。


「とくとご覧ください。カルマ=ルーガル、貴方の言う今の幸せを」


「言っておるであろう! 余は今幸…!!! コ、コレハ…コレガ…余デ…アルカ…? 馬鹿ナ! 代ワリノ鏡ヲ持テイ!」


「ナラバコノ玉座ノ横ニ常ニ置カレシコチラノ鏡ヲ…」


 ヴァジュラ達は奥の玉座より大きく、そして素晴らしく立派な鏡を持ってきた。


「…いつもコレに映る余は幸せに満ちた顔をしていたはず…」


 カルマが鏡を覗き込むと…耳まで口が裂け眉間にしわを寄せ輝きの失せた異様な目つきのナニカがいた。


「ウ、嘘デアル! コレガ…コンナモノガ余デアルハズガ…!」


「…己がどの様なイレンカでどの様に振る舞うか…その因果は己が容貌(ようぼう)にも降りかかります。あなたがイウェンテㇷ゚=ルーガ(魔を統べし王)ルになれるとのイタクを鵜呑みにして…仕舞には喜びの中で弱者を甚振(いたぶ)りしその行いに見合う、いわば自身の望みによりて得たのが今のその姿でしょう!」


「余ハ…イウェンテㇷ゚=ルーガルトナリテ…他ノモシリヨリ(まも)ラント…」


「住まいしモノが緋徒(ヒト)でありウタラであるのでしたら…イウェンテㇷ゚(魔なる)=ポロ=コタン(モノの都)と成り果てイウェンテㇷ゚=ルーガル治めし処で果たして誰が幸せになれるでしょう…?」


 オオトシのその言の葉を噛みしめし刻にカルマ自身の大きな矛盾が脳裏に過った。


(…確かに…住まうは緋徒でありウタラ…ならば今のこのウェンイレンカ(悪想念)渦巻くポロ=コタンに…ウ=ウェピリカ(幸せに暮らす)などある筈も無い…。余は何ゆえにイウェンテㇷ゚=ルーガルなどになろうとしていたのであろうか…?)


「元々ウタラ達は貴方を恐れても疎んでもいません。捧げられしモノ達は…貴方のイノトゥとなる事で救われたモノばかりであったはずです。病に倒れしモノ…挑み敗れしモノ…他者(あや)め罰せられしモノ…。故に、ウタラからは畏敬(いけい)のイレンカ抱くに足りるルーガルであり…カムイと同等に(まつ)られていたのでしょう」


 オオトシの言の葉に意表をつかれ驚きと戸惑いを携えて尋ね返す。


「しかし…緋徒をウタラを食す余が如何様(いかよう)にせんともカムイになど成れる訳が…」


「成れます。大切なのは…如何様な振舞いをしたかではなく、どの様なイレンカでそれを行われたかです。イノトゥは…関わり合い…互いに与え与えられこのモシリを…世界を(つむ)いでおります。緋徒もその中の存在です。故、シンハ(獅子)に倒さるるとも…ナーガ()に殺めらるる事も…そして他者のイノトゥを紡ぐ為食される事もサティヤー(真理)と言えましょう。タアン=ラマトゥ(今世)終える刻までに…どの様なイレンカでイノトゥ紡いで歩んできたか…それこそが肝要であり次のカリ・ラマトゥ…サンサーラ(輪廻)でのピリカ=シリ(後生)=シセイペレ(善処)の源となるのです。故に他者からイノトゥ命を頂くイペ…アハラ(食事)は…尊き事なのです。その対象が緋徒やウタラしか受け付けられないのもヤィコ=トゥィマ(前世)よりの縁。故に意味があります。今後…今まで以上に己を紡いでくれるイノトゥへの感謝を以てアハラ行う事こそ肝要なのです」


 そこまで言の葉イタク伝えた後オオトシは我に返ったかのように少し狼狽して言う。


「…私…今、ナニカを…話していたのでしょうか…? まったく覚えて…おりません…?」


 感動と尊敬のヲモヒを()めてミチヒメが応える。


「…すばらしい事を…言っていましたよ♪」


「正にカムイたるモノのイタクであった」


 ウガヤもミチヒメに続いてそう応えた。


「そうでしたか…。どうやら…私を通じ(たす)く御方がいらっしゃったようですね…」


 その言の葉を聞いてミチヒメはハッとする。


「も、もしかして…。…。…ラーマ…さま…?」


(久しいなミチヒメ! 我がアヨーディヤーの事、故に少々手伝わせてもらった。…前よりさらに美しくなったな)


 その場の全員の頭に声が響き、ミチヒメ達の前に光と共に美しい青年が顕れた。


「ラーマさま!」


 ミチヒメは思わず両手を広げ抱きついた(コテムサィネ)


「…すまなかったな…アノ刻の事が(はる)かな過去の時代であったことを(かく)していて…」


「…良いんです…! こっちの時代にもラーマさまに負けないくらいステキなヲノコいますから♪ ほら!」


 オオトシの方へ振り向いて手を差し出して笑みを浮かべながらミチヒメは応える。


「彼は…ゆくゆくはシ=パセ=カムイ(真なる神威)となり、モシリを幸せに導くであろう! かつてこのアヨーディヤーで余がしたが如くに…」


 確信の笑みを携えてラーマは応えた。


「ラーマさま…そ~言えば、カムイになられたのに亡くなられたのですか?」


「…正確には…役目を終えて天に(かえ)ってきた…と言う事であるな」


「…シーターさまも…?」


「…共にアン()にて幸せに暮らしておる」


 少し逡巡(しゅんじゅん)したが即座に優しい笑みを浮かべてラーマはその様に応えた。


「…良かった…シーターさまも…色々と苦労しましたからね!」


「そうであったな…。ふふ…ミチヒメ…すまぬ、な!」


 そう言ってラーマはミチヒメの頬に唇を押し当てた。


「…親愛の証である。オオトシよ案ずるでない」


 それを聞いてミチヒメはすぐさまオオトシを…そのヲモヒを観た。


(…ええ! あら~本当! オオトシさまったら♡)


 ミチヒメはすぐさまオオトシの首に手を絡め微笑みながら頬に唇を押し当てた。


(しっかし…ラーマさまのは全く観えないのよね~)


「当然であろう。己の境涯(きょうがい)より高き存在にそれは効かぬである♪」


「あ…そ~ですよね! あははっ♪」


 頭を指一本で掻きながら困り笑いを浮かべミチヒメはそう言った。


「さあ…先ほどそこなオオトシのケゥエ(身体)を通じて余が放ちしカムイ=イタク(神霊言)にて呪も解けるであろう! カルマ=シャパーダよ、目覚めるが良い!」


 カルマ王はそう言われると夢から覚める様にゆっくりと起き上がった。


「…ここは…? 余は…一体…? 主等は…おお、カニシカ殿! そして…? …こ、これは! ラーマ様! いえ、我が奉りしディーヴァ(カムイ)、ヴィシュヌ様!」


「…ええ! ラーマさま元々カムイだったの?」


 カルマ王の言を聞いて驚いたミチヒメに対し申し訳なさそうに諭すようにラーマは応える。


「…ラーヴァナを(たお)す為には緋徒として生を受けねばならなかったのでな! すまぬなミチヒメ、余はヴィシュヌがアヴァタラーラ…ウサレイエ=ラマトゥ(分御魂)、ラーマなり!」


 驚きながらも納得した表情でミチヒメは応える。


「そっれで最初浮世離(うきよばな)れって言うか、緋徒っぽくなかったのね! おかげでわたしもシーターさまも…」


「実に済まなかったと今は反省しておる。緋徒らしからぬラム(こころ)機微(きび)の少なさ故色々と迷惑をかけたな!」


 ミチヒメの頭を優しく撫でながらラーマは応えた。


「して…カルマよ、今一度問う。緋徒のモシリ治めしラージャ()としてイウェンテㇷ゚=ルーガルたる必要あろうか?」


 カルマ王はその巨大な首を横に振り静かに応える。


「いいえ…その様な事全く以て必要ありませぬ。むしろウタラ苦しめし事となり得ましょう」


「うむ。完全に正気であるな。ならば己がつくり積み上げし罪、ラージャ…ルーガルとして正しくモシリ導き治める事で(つぐな)うが良い!」


勿体無(もったいな)きイタク…。このカルマ=シャパーダ、イノトゥの限り緋徒を、ウタラを、そしてモシリ全てを良かれとのイレンカで導く所存でございまする!」


「よろしき。(あやま)ちとは全ての存在が行いし事。たとえカムイであろうとも、である。大切なのは…それを踏まえ先々をどの様なイレンカで歩んでゆくかである。努々(ゆめゆめ)忘るる事なかれ!」


「ははー! オマエ達モ…苦労カケタデアルナ!」


「ルーガルヨ…アナタガ元ニ戻ラレシ事…ソレコソガ何ヨリノ幸セ!」


「共ニウタラノ、モシリノ為頑張リマショウ!」


 そのヴァジュラ達の言の葉を噛みしめながらカルマ王は微笑んで大きく頷く。そしてカニシカを見やり疑問を一つ尋ねた。


(トキ)にカニシカ殿、其方とそこなるウガヤ殿…余を(ほふ)る事叶いし腕前であったはずであるが…何故に?」


「余は悪政を止めに来たのであり、其方を倒しに来た訳ではないからな!」


「…流石の器なり! そしてヤィヌパ(正気に返る事)出来ぬ余の攻撃良くぞ耐えてくれた!」


「この状態のウガヤ殿なくば余とて危うかった」


「…であるな。余のチカラ(ことごと)くいなされおった、アレははじめての経験なり! 礼を言う!」


「恐れ入る。我も未だ錬磨(れんま)の余地見いだせし事感謝申し上げる」


「…余もヴァジュラ達の様に、ウガヤ殿の様に、生来の巨躯に(おご)らず武を磨かねばならぬな!」


「今のイレンカならば…天下無双と成れるやもしれぬでありましょう」


 そのやり取りを観て軽く(うなず)いてラーマは言う。


「うむ。これでこちらは大丈夫であるな。あとは…アヨーディヤーにかけられし呪を…エイノンノイタク(解呪)! …これで良い! ヴァジュラ兄弟よ、これからはウタラの良きイレンカを己がチカラとして戦うが良い! このポロ=コタン()は、良きにつけ悪しきにつけウタラのイレンカを集束し、契約せしモノのチカラを増幅させる《けんのう》を持つ。其方等三名でモシリ護れしはこの理の故なり。良きイレンカをチカラに換えし刻は…更なる高みへ上がれるであろう!」


 伝えるべき事を伝えた表情になったラーマに対し、静かにしかしすぐさまミチヒメは声をかける。


「…もう…いかれるのですか…?」


「…この、エウンオピッタ=ア(現一切色)ンペケゥエ=マェ(身三昧)、結構キツイんだよね~! って、昔に戻ってしまったではないか!」


「…ふふ♪ ラーマさま本当に緋徒のイレンカ…解るようになられましたよね♪ あ! そ~言えば…カムイ=イタク発する刻…ホントなら一番ヌプル(霊力)の強いカニシカさまに宿るのがイチバンだったんじゃないのかしら?」


「そりゃアスカンネ=(品のあ)ピリカヲノコ(る色男)の方が身代わりでも良いと思ってだな…カニシカすまない!」


「少々傷つきましたが、カムイのお(たわむ)れ、一向に構いませぬ…」


(…大分気にしているなコイツ…)


 カニシカは思いの外落胆していた様である…。


「うむ、そのイタク助かる!」


「ラーマさまぁ…♪」


 ミチヒメは普段見た事もない様な甘えた表情と声でラーマにおねだりした。


「…しゃ~ないな。カワイイミチヒメの頼みだ。…ト=エㇺコ(半日)だけな! そこでたぶんカムイ=マェ(神威之力)が尽きるから!」


「ヤ、ヤッタ~! じゃぁまず…乗馬しよ! それから弓当てして…イホクシ(市場)まわって…トペンペ(お菓子)も買って♪ それでそれで…い~っぱい頭撫でてぎゅってして♪」


「はいはい…オオトシよ…しばしミチヒメ連れて行くからな!」


「え、あ、は、はい…」


(あ! 思いっきり不満だらけだわオオトシさま…ラーマさまに対してのは…そ~ゆ~のとはぜんっぜん違うんだけどね~)


「…ラーマお兄ちゃん♪ 前のパイェ=カイ()の刻みたいに…お兄ちゃんとして甘えさせてね♪」


「わかっておる…余にしてもミチヒメ、そなたは余に緋徒の、ウタラのラムとイレンカを説いてくれた掛け替えなきア=オマプ=マチㇼぺ(可愛い妹)であるからな! オオトシ、そういう訳だ! ラムシリネ(安心する)せい♪」


「…そうでしたか…共にパイェ=カイを…ロルンペ(戦い)をくぐり抜けてきた刻ずっと傍にいて…」


「そ~です! ちょっちメノコのイレンカわからなさすぎて傍から見ていて心配だったけどね♪ わたしにとってはパイェ=カイの間ずぅっと、とっても頼れるお兄ちゃんだったの♪ ふふ♪ じゃぁそ~ゆ~ことで~♪」


 ラーマの言の葉を聞いて得心したオオトシに対してミチヒメも言の葉を重ね二人で出かけて行った。


「…しかし我がカムイをユポ()呼ばわりしてあまつさえ使役するとは…カムイをも恐れぬとは正にこれなるかなミチヒメよ」


 唖然(あぜん)としてカルマ王が言った。


「…あの子が何モノをも恐れぬのは生来(せいらい)故…お気に召されるな」


 ウガヤも少し呆れ気味に言った。


「それ故に…誰にも分け隔てなくウコサムペ=ピリカ(慈しみ合う)のイレンカで接することがミチヒメには出来るのでしょうね…」


「なんだオオトシよのろけであるか、聞かせてもらおう♪」


「ヴ、ヴィジャーヤ殿、決してその様な…」


「余も主がラーマさま同様ラム()に温かみが生じた経緯、後学として拝聴賜(はいちょうたまわ)りたいモノであるな♪ はっはっは」


「カニシカさままで…よろしいです! ではこちらはヲノコの寄り合いとして…其々(それぞれ)のイレンカよせしモノについての話しをいたしましょう! もちろん持ち掛けた私が先陣を切ります! カルマ=ルーガル! 今度は茶ではなく、トノト(お酒)を願えませんか?」


「良き! 極上のモノを持ってこさせよう! 何せ肴は最高にハウ(面白き話)であるからな!」


 全員の笑い声響く中和やかに会話が弾み、皆酔いつぶれるまで飲み明かしたそうである。


「ふっふ~ん♪ あ~楽しかった~♪ ちょっちさびしいケド、また逢える…よね? うん? なぁにコレみんな~。わたしのいない所でだいぶ盛り上がっていたみたいね♪ えへへ♪ 横でわたしも寝ちゃおっと♪」


 すっかり眠りに耽っているオオトシの横にミチヒメは寄り添うように横になった。。

 その夜…ミチヒメは二つ季節廻るほど前の苦しくも大変な旅路を夢に観た。

 そして満面の笑みを浮かべ一言呟いた。


「…お兄ちゃん…えへ♪ ありがと♪」


 その声に目を覚ましたオオトシは横の幸せそうな寝顔を観て悟った。


(等身大で気遣いせず関われ全幅の信頼の元甘えられる目上のモノ…確かに今の貴女にはいない存在ですよね…。あの様なミチヒメの姿は…本当のユポにすら…類稀(たぐいまれ)なるチカラを以てこの世に降りてきた故に見せた事はないでしょう。ラーマさまがシ=パセ=カムイ(真なる神威)だと本能的に(かん)じ取っていたの故のラムシリネ(安心感)…なのでしょうね…。ミチヒメ…今はまだ対等ですが…私もいつしか必ずやラーマさまの如きシ=パセ=カムイに…貴方が手放しで甘えられる存在になて見せます…!)


 そう、己の心中で強く誓ったオオトシであった。

 その後アヨーディヤーは往年の美しさを取り戻し、幸せそうな緋徒がウタラが行き交う賑やかな都になったと聞く…。


出来るメノコが甘えられしヲノコは少なし…は現実も一緒ですね(^-^;

オオトシを通じて発したラーマの言の葉は僕もそう思います♪


※ラーマがオオトシの身体を借りて語ったのでサンスクリット語混じりで表現しました(^-^;

(お分りだったかもしれませんが…)

・シンハ 獅子

・ナーガ 龍

・サティヤー 真理

・サンサーラ =カリ・ラマトゥ=輪廻

・アハラ =イペ=食事

・ラージャ =ルーガル=王

・ディーヴァ =カムイ=神

・アヴァターラ =ウサレイエ=ラマトゥ=分御魂

これらはサンスクリット語です♪


…思ったより短かったですね(^-^;

(ノートに原稿を書いたのは21年~22年位でしたので長さはうろ覚えでした…)

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